2019/04/10 06:30

美少女の青春を描いた『芳華-Youth-』が描かなかったもの

『芳華-Youth-』4月12日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、
YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開
(C)2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited
IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation
Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd All rights reserved

文=新田理恵/Avanti Press

1970年代の中国を舞台に、文化大革命や毛沢東の死など、大きな時代のうねりの中で青春時代を過ごす若者たちを描いた映画『芳華-Youth-』(4月12日公開)。兵士の鼓舞や慰労のために歌や踊りを披露する人民解放軍の文芸工作団(文工団)に入団した少女シャオピンと、模範兵としてみんなに慕われる青年リウ・フォンを中心に、若い命のきらめきと彼らを待ち受ける過酷な運命を描く。

踊りの稽古で流す汗、プール遊びの水しぶき……産毛にとどまる水滴まで見えそうなみずみずしい映像と、新進女優たちの伸びやかな身体表現に目を奪われる。

ただ、その「美しすぎる」ところがひっかかった。何か抜け落ちた部分があるのではないか。もう1つひっかかったのが、映画の後半に登場する戦闘シーンの凄惨さだ。「美しすぎる青春」と、「凄惨すぎる戦闘」。2つの違和感のうしろに、この映画が描かなかったものが見え隠れする。

中国のヒットメーカーが描く、青春時代の輝きとは?

幼い頃に実父が労働改造所(*)に送られ、継父との暮らしに馴染めず、苦しい日々を送ってきたシャオピンは、ダンスの才能を認められ、文工団への入団を許される。

『芳華-Youth-』4月12日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、
YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開
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新生活に期待に胸を膨らませるシャオピンだったが、最初からつまづいてしまう。早く実父に軍服を着た自分の写真を送りたい一心で、ルームメートのディンディンの軍服を無断で持ち出し、写真館で記念写真を撮るのだが、そのことがバレてしまい、文工団の中でも浮いた存在になってしまうのだ。

そんなシャオピンに対して、リウ・フォンだけは優しかった。リウ・フォンに特別な思いを抱くようになるシャオピンだが、彼はディンディンに恋い焦がれている。そして、ある事件をきっかけに、リウ・フォンは文工団を離れることに。やがて、ベトナムとの間に戦争(中越戦争)が勃発し、リウ・フォンは最前線へと送られる。

*反革命的と見なされた者や政治犯を収容し、労働や教育を通して思想の「改造」を強制した施設。

*     *

メガホンを取ったフォン・シャオガンは、『唐山大地震』(2010年)など数々の大ヒット作を送り出してきた中国の有名監督だ。自身も1970年代に文工団で美術を担当していた経験がある。

この映画は、フォン監督の青春時代への懐古と若さへの憧憬でいっぱいだ。青春時代、監督が美しい女性兵士たちの姿をどんなにまぶしい気持ちで見つめていたのかが分かる。中国では公開時、文革や戦争で混乱していたこの時代を美化しすぎだという批判もあったが、たとえ美化されていても、思い出というのは、あとから振り返ると幻のような輝きを放ち、人をノスタルジーに浸らせるものだ。

その「美しい青春」というオブラートに包まれて、削ぎ落とされたものに注目したい。

「美しさ」に隠された中国の影

映画の中では、文工団でのシャオピンの孤立が、女子の集団でよくあるマウンティングや仲間はずれの延長のように見える。だが、リーダー格の少女が軍幹部の娘であったり、映画の語り手でもあるダンサーのスイツの父親が文革中に捕らえられている等の設定を見ると、彼女たちのヒエラルキーに当時の中国の階級闘争が影を落としていることが分かる。

『芳華-Youth-』4月12日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、
YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開
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軍服を持ち出すエピソードが印象的だ。「出身階級に問題のある」シャオピンにとって、軍人になるということは生まれ変わりのチャンスを得られたようなものだった。当時、軍隊に入ることはステータスであり、軍服は誇り。同じ時代背景で、軍人の家族の集合住宅に暮らす少年たちのひと夏の日々を描いた名作『太陽の少年』(1994年)の中に、軍人である父親が嘘をついた息子をなぐり、「軍服を脱げ」としかるシーンがある。嘘つきに軍服を身につける資格などないのだ。

仮にこの映画が実話であれば、シャオピンへの風当たりは、映画で描かれたよりずっと強かったのではないか。このあたりをフォン監督は、あえて抑えた印象を受ける。

もう1つ、深掘りを避けたように見えるエピソードが、リウ・フォンとディンディンの間に起きた出来事だ。リウ・フォンの行動は、現在の感覚で見ると何ということのない感情表現だが、「流氓(ならず者)」だと告発され、彼の運命を大きく変えてしまう。

中越戦争の勃発と同じ1979年、中国に「流氓罪」という罪ができた(1997年に撤廃)。これは道徳を無視した行いや猥褻な行為をしたなどという場合に適応される罪で、80年代に入ると逮捕者が続出。犯罪扱いになるほど、異性との接触は敏感な問題であった。そのあたりの描写も、『芳華』では複雑な乙女心が招いた結果であるかのごとく、オブラートに包んだように見える。

シャオピンとリウ・フォンが陥る苦境。その原因は、フォン監督が青春の記憶を映画として残すならば、避けて通れない時代の暗部だ。だが、検閲のある中国では、直接的な描写は難しい。女性兵士たちの輝きをふんだんに盛り込む一方で、センシティブな部分をさらりと削ぎ落としているのである。

「凄惨さ」が伝える史実への想い

もう1つの違和感は、後半で登場する中越戦争の戦闘シーンが「凄惨すぎる戦闘」ということだ。

『芳華-Youth-』4月12日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、
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中国では汚点としてあまり語られることのないこの戦争の背景は、劇中ほとんど説明がない。1テイクで撮られたという6分間の戦闘シーンはあまりにも苛烈で、「ここまで描く必要があったのだろうか」と思うほどの描写がなされている。

まるで、前半で放置した膿を、ここで出し切ったかのような激しさ。実際、そうなのではないかと思うのである。あの数分間に放たれる砲火は、時代に翻弄されたシャオピンとリウ・フォンの怒りと苦しみの叫びだ。

*     *

若手監督が次々と頭角を現し、多様なジャンルの娯楽作品でヒット作を生み出し始めた中国の映画界にあって、フォン監督は、歴史の闇や社会の変化に置いてけぼりにされた人に目を向け続ける。その姿は、愚直であるがゆえに苦渋を味わうシャオピンとリウ・フォンに重なる。彼らに注ぐ監督の目は優しい。この映画の終わりには、どんな美しい舞踊シーンよりも胸に焼き付く、2人のラストシーンが用意されている。



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