2018/09/09 10:00

【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「顔たち、ところどころ」

心温まるアートドキュメンタリー (C)Agnes Varda-JR-Cine-Tamaris, Social Animals 2016
心温まるアートドキュメンタリー (C)Agnes Varda-JR-Cine-Tamaris, Social Animals 2016

 87歳になる女性映画監督と、33歳の男性現代アーティスト。この2人がフランスのあちこちをめぐりながら、人々の顔写真を撮影し大きく引き伸ばして壁に貼り出すプロジェクトを続けていく。本作は、ただその様子をひたすら描いていく映画だ。

 こうして内容の紹介を短く書いてしまうと、「なんだか単調でつまらなそう」と思う人は少なくないだろう。私も正直なところ、映画を観るまではそう思っていて、あまり期待していなかった。たいていのつまらないドキュメンタリーは、事実を淡々と客観的に描くことに執心しすぎている。過剰にドラマチックを追い求めれば現実から乖離してしまうが、一方で物語性を否定しすぎると観客の心には刺さらない。だから「良きドキュメンタリ」は、現実と物語の絶妙なバランスの上に成り立つ。

 その視点から観ると、本作はどうか。ナレーションは存在しないので、いったいどのような話が映画の中で進行しているのかというストーリーは、いっさい説明されない。つまり物語は語られない。そもそも、起承転結のようなドラマチックな展開さえない。ただひたすら2人がフランスの田舎を旅しているだけのロードムービーだ。ここまで説明しても、やっぱり「面白くなさそう」と見えるだろう。

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