2017/12/19 17:00

天国に旅立った恩人へ… 感謝とお詫びのLINE(辻仁成「ムスコ飯」エッセイ)

 
幸せというものは失ってはじめて、あのときこそが幸せだったのだな、と思い出すものですね。私たち家族はパリのとあるすし店の常連でした。タケさんという大阪出身の板前さんがいて、元気で明るく人情に溢れた人で、いつもきさくな冗談を言っては笑わせてくれました。息子もタケさんに懐いていました。でも、3人家族が2人になった後、私たちの足は遠のきました。たぶん、そこに行くと幸せだった頃を思い出してしまうからでしょう。
 
離婚後、わけのわからない中傷を受け、そういうのを面白がる人もいて、パリの日本人社会とも疎遠になりました。息子の耳に余計なことを入れたくないという親心もあり。ところがタケさんだけは心配してくださり「辻さん、どうしている? 心配しているよ」としょっちゅう電話をくれたのです。そっとしておいてほしいと思うのに、呼び出されて、家に籠もっているだけじゃだめだ、とはっぱをかけられました。
 
去年の暮れ、タケさんの店に久しぶりに行くと、なんだか様子が変なのです。どうしたの? と尋ねると、「あ、わかる? 癌やねん」と返ってきました。病状は一進一退。無理しないでほしいのに、タケさんはちょっと体調がよくなると店に立ち続けました。そして、あんなに世話になったのに、彼に会うのが怖くてまた足が遠のきました。
 
ところが日本から親しい友人が来て、何を思ったのか私はタケさんの店に連れて行くことになりました。それで話が済めばいいのですが、たまたまその親友とタケさんの前で大喧嘩をしてしまったのです。翌日、タケさんに電話を入れて謝りましたが、ええねん、気にせんで、また来てください、と笑ってくれたのが最後のやり取りになってしまいました。
 
こういう後悔って残酷すぎます。いちばん世話になった人との最後の瞬間を汚したのが自分なのですから  。悔やんでも悔やみきれません。心配だから励ましに行ったつもりが、その真逆なことをしでかしてしまった自分への怒りはおさまりません。謝りたくてももうこの世にいないんです。他に方法がなく、タケさんに「ごめんなさい」とLINEを送りました。するとびっくりすることに既読になったのです。その瞬間、涙が溢れ出ました。たぶん、パートナーの方が読まれたのでしょう。
 
「ええねん、ええねん、辻さん、気にせんといてや。また、店に来てくれたらそれでええねん」
 
タケさんの声が天国から聞こえた気がしました。息子にタケさんのことを話しました。え? と言ったきり息子は黙ってしまいました。それから、2人でタケさんの冥福を祈りました。
 
さて、今日は新作料理をご紹介します。題して、辻家のコーラ飯。そう、コカ・コーラで炊いたピラフです。ちょっと変わっていますが、これが美味しいんですよ。
 
材料4人分:米1合半、鶏肉の手羽元6本、しょうが2片、にんじん100g、サラダ油大さじ2、白ワイン大さじ2、コーラ約270cc、固形のチキンブイヨン1個、タバスコ5〜6滴、塩・こしょう適量、レモン汁適量、お好みでレタス適量。
 
まずは下準備。米を研ぎ、しょうがは厚めにスライス、にんじんは厚さ5〜6mmの輪切りにしておきます。次に、油をひいて熱したフライパンで、塩をまぶした鶏肉を皮目から焼きます。鶏肉は焦げ目がついたらOK。炊飯器に米と白ワインを加えてから、1合半の目盛までコーラを注ぎます。そこにレモンとレタス以外の全ての材料を加え、最後に塩・こしょうで味を調えたら、ご飯を炊きます。炊き上がったら鶏肉を取り出してからご飯をよく混ぜ、器に盛りましょう。レモンを搾り、お好みでレタスを添えて。
 
甘くてほのかに薬膳っぽい、コーラ飯、癖になる味です。
 
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