2018/07/09 17:38

再構築する「風景」 寄稿:中島晴矢

《PERSISTENCE》 Installation view, 撮影: 松尾宇人
《PERSISTENCE》 Installation view, 撮影: 松尾宇人

 墨田には数多のギャラリーやアトリエ、アートスペースが生滅しており、オルタナティブの歴史が厚く堆積している。今、かつての町工場や古民家がといった空きスペースが生まれ変わり、新しいアートの胎動を示しはじめている。

 * * *

 隅田川を跨いだ東京の下町に位置する「墨東」は、文字通り〈破壊と再生〉を繰り返してきた地域だ。

 江戸以来の埋め立て地として形成されてきたこの低地は、関東大震災と東京大空襲という二度に及ぶ圧倒的な破壊からその度に頭を擡げてきた。また、永井荷風が『濹東綺譚』で描いた「玉の井」のように、川堤の境界を超えることで江戸の制度から自由であったこの界隈は私娼窟の密集する悪所でもあった。むろん現代においてその名残は薄いが、狭い路地や細い小径に当時の面影はなお漂っている。

 さらに約20年前に設立された「現代美術製作所」を端緒として、現在に至るまで墨田には数多のギャラリーやアトリエ、アートスペースが生滅しており、オルタナティブの歴史が厚く堆積している。かつての町工場や古民家といった空きスペースを活用することで常にアーティストやクリエイターをはじめとした人の流入があるのだ。

 東東京のランドマークとしてすっかり定着したスカイツリーの根元では再開発が進み、真新しいビルやタワーマンションが散見される。とはいえ新旧の住宅と人とが入り混じったこのエリアには、未だ生き物のような有機性がかろうじて宿っているかのようである。……


 住宅街の奥まったところにある小さな印刷工場の隣、長屋の一角を占めているのがあをば荘だ。6年に渡り運営されているそのオルタナティブスペースで開かれていたのが、新井五差路、百頭たけし、藤林悠による写真展「PERSISTENCE」である。

 展示タイトルに示されている通り、三名は共に「風景」を主体とした写真を「執拗に」撮り続けている作家だ。その上で、本展は「私たちはなぜ、他の事象を差し置いて「風景」に惹きつけられるのか?」という問いを起点として企画されている。

 空間に入りまず目を引くのは、99枚に及ぶ三作家の写真がランダムに配された壁面だ。新井は「人工物が自然に劣化した状態とか、植物が面白い形をしているのとかを見ると感じる」「うろうろ歩きまわりながらいいなと思った風景を撮」り、百頭は「東京の周辺に点在する土木業者やジャンクヤードが集まる地域で」「人為と偶然が脚色した特異な風景を」記録し、藤林は「「撮ってくれ」と言ってくるような感覚に陥る」「日常生活の中で iPhone によって撮影した景色」を展示している(「PERSISTENCE」ハンドアウトより)。もちろん各々の切り取り方に差異はあれど、しかし三者の写真に表れた「風景」に共通しているのは、それらがおしなべて所謂〈美しい風景〉や〈絶景〉では無いことである。

《PERSISTENCE》 Installation view, 撮影: 松尾宇人

 例えば藤林の《705,304》は、かつての住居と現在の自宅の天井にある円形の蛍光灯を撮影した組写真だ。それは日々誰もが目にし得る何の変哲も無い被写体である。しかし、普段は意識に登らずとも身の回りに当たり前に存在している事物を改めて主題化することによって、ミクロには細胞、マクロには惑星のように見える抽象性も含め、私たちに常に既にまとわりついている「風景」に対する彼女の気づきを溌剌と伝えている。それらは決して「ピクチャレスク」(ウィリアム・ギルピン)ではないが、否、ではないがゆえにこそ「風景」の持つ原理的な遍在性を露わにしているのである。

《705,304》 藤林悠, アーカイバ…                    <p>この記事の続きは、太田出版の新作連載空間「Ohta Collective」よりお読みいただけます。<br>                    <a href=http://www.ohtabooks.com/collective/art-ramble/14183/

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