瑛太が常連になりたがる「ドラマ調CM」はなぜ有効なのか
上田一は、小さな声で遠慮がちに注文。
「いつもの…」
店主にそう言っても、上田は一度しか来店したことのない新参者。だから、すぐには通じない。怪訝そうに聞き返す店主。
「いつもの?」
上田はもう一度、勇気を振り絞って繰り返す。
「いつもの…」
そしてもう一度「いつもの……酢豚餃子セット」を注文し食べるという、ただそれだけの内容。文字に書き出せば、筋立てと言えるほどのものはなく、非常にシンプル。
しかし、そのささやかな日常の「一コマ」の中に、たしかにドラマツルギーが存在しているから面白い。人が何かを決意し、変わる瞬間のドラマツルギーが。
上田は真剣に思っている。「この店の常連」になりたい、と。見知らぬ土地で、自分の居場所が欲しい。「常連」とは居場所を見つけたサイン。引っ込み思案なサラリーマンが、一歩勇気をもって踏み出す瞬間。何だかわかる。理解できる。共感できる。見ている人に、そんな気持ちを抱かせる。やはり、ドラマの力は強いのです。