2017/12/12 17:00

インカ帝国の公式ドリンク「チチャ」の酸っぱい末路――高野秀行のヘンな食べもの

イラスト 小幡彩貴
イラスト 小幡彩貴

 アンデスのトウモロコシ酒「チチャ」ほど輝かしい歴史をもつ酒は世界的にも珍しい。少なくとも紀元五、六世紀にはもう儀礼用の酒として生産が始まっていたらしい。

 十六世紀、スペイン人が初めて到来したとき、インカ帝国はエクアドルからチリに及ぶ大帝国だったが、その「公式ドリンク」もまたチチャだった。トウモロコシは支配者層が所有し、チチャを作って儀礼で神に捧げ、自分が飲み、そして領民に振る舞っていたという。

 そんな由緒正しい酒なのだが、しかし。私がクスコに着いたとき、町にチチャの気配はなかった。ホテルのスタッフやタクシーの運転手に訊いても、「どこかにあるはずだけど……」などという曖昧な答えばかり。今や、町で飲まれるのはビールやワイン、ピスコ(ブドウの蒸留酒)であり、チチャを飲む人は少ないらしい。一方、田舎に行けばどこにでもあるという。現在、チチャは支配者層以外の人が作って飲む酒に転落している模様だ。

 そこでクイ・ファーム(食用モルモット農場)へ行くとき、雇った車で走りながら気をつけて見ていると、クスコから十数キロ離れた集落で、赤いビニール袋のようなものを先につけた長い棒が揺れているのを発見した。

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