2018/01/30 17:00

ネパールの世界遺産の真ん中で水牛の生肉を喰らう――高野秀行のヘンな食べもの

イラスト 小幡彩貴
イラスト 小幡彩貴

 昔、タイのチェンマイに住んでいたとき、市内に激安のステーキを出す店を見つけた。喜び勇んで食べてみると、固くてまずい。あとで、知り合いのタイ人に「あれは水牛の肉だよ」と笑われた。タイでは当時、まだ田畑を耕すために水牛は欠かせない動物だったが、食用にはしていなかった。他に水牛肉を出す店について聞いたことがない。

 タイだけではない。以後、中国から東南アジアまで水牛のいるエリアを広く旅しているが水牛食には出会っていない。ただ、つい最近、知人から「前にネパールへ行ったとき、少数民族の祭りで水牛の皮付き肉をもらって食べたけど、すごく固いし毛がついているし、食べられたものじゃなかった」と聞いた。

 水牛はあくまで労働用の家畜。今で言えばトラクターみたいなもの。固くてまずいから普通は食べない――。これまでの体験と情報からそう思っていたが、先日、ネパールで突然、遭遇してしまった。

 日本語が達者で、カトマンズ市内でレストランを経営している友人のミランさんに招かれ、彼の店で夕飯を御馳走になっていた。ここは美味しいことで有名なタカリ族の料理を出すが(奥さんがタカリ族)、本人はカトマンズ盆地に古くから住むネワール族。メニューにはない、ネワール料理をいくつか出してくれ、その中に「水牛肉のモモ(ネパール風餃子)」があった。水牛を口にしたのはチェンマイ以来、二十五年ぶりだ。挽肉なので固いことはないし、ヤギや羊のものと比べても癖がなく、食べやすい。知らなければ牛肉だと思っただろう。もっともヒンドゥー教では牛は聖なる動物なのでネパールで牛肉はありえない。水牛は牛じゃないのでいいとのこと。

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