2017/07/05 14:00

ミュージカルでドラァグクイーンを演じた三浦春馬と韓国人ミュージカル俳優、表現の違いはどこから来るのか

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 文化や宗教によっては刺激的すぎると敬遠されるモチーフであっても、作品自体の魅力は、国や言語を超えて世界共通です。それを届ける手段としていちばん効果的なのは、たとえ言葉がわからなくても歌やダンスで魅せることができるミュージカルではないでしょうか。そして、同じ脚本と演出だからこそ、上演される国や地域の違いで、社会や文化の差を浮かび上がらせるものでもあります。

 前回の本欄「高い歌唱&演技力で魅せる韓国版『スリル・ミー』、男同士のキスシーンにエロスが足りないのは、お国の事情?」では、欧米のミュージカル最新作が日本よりも早く上演されることの多い、韓国のミュージカル事情に触れました。米演劇界の最高の賞、トニー賞受賞作のブロードウェイ「キンキーブーツ」もまた、マイノリティが登場し、日本に先んじて韓国で上演された作品です。「ありのままの自分で生きる」というテーマの、韓国と日本の表現の違いを、主人公のドラァグクイーン、ローラを演じたカン・ホンソクと三浦春馬の演技から考えます。

「キンキーブーツ」は、2005年の同名英米合作映画を基にしたミュージカルで、12年に初演。音楽はすべてシンディ・ローパーが作曲し、13年のトニー賞では作品賞など6部門を受賞、プロデューサーのひとりには日本人の川名康浩が参加していたことは、日本でも大きく報道されました。韓国では14年に世界で最初のライセンス公演が行われ16年に再演、日本では同年に初演されています。

セクシーなヒールを求めて

 舞台はイギリスの老舗の靴工場。跡を継ぐことを拒否し都会で暮らしていたチャーリーは、父親の急死を受け工場を継ぐことに。倒産寸前の工場を再建するため、ニッチな市場の開拓を決心したチャーリーは、ロンドンで出会ったドラァグクイーン・ローラの要望から、ドラァグクイーンのためのセクシーなブーツ「キンキーブーツ」の開発に命運をかけます。

 韓国での再演版を筆者が観た日の出演者は、ローラが、日本発のミュージカル作品「デスノート」などに出ているカン・ホンソク、チャーリーは「モーツァルト!」「ウィキッド」など大作ミュージカルに出演しているイ・ジフン。日本版では、ローラを三浦春馬、チャーリーは小池徹平が演じました。

 女性の服装をまといナイトクラブで踊るドラァグクイーンのローラが履くブーツの高いヒールは、大柄な男性の体重を支えるには不十分。靴への興味がなかったチャーリーは当初、かかとが太くえんじ色の靴を作り、「赤はセックスの色。セクシーさはヒールに宿る」とローラに突き返されます。

 その場面の「The Sex is in the Heel」は、ローラを象徴する楽曲。キャッチーな音楽にドラァグクイーンのバックダンサーを従えたとても華やかなシーンで、ローラのダンスもとても官能的です。三浦春馬はNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」への出演など、一般的には映像作品での活躍の印象が強いですが、CMで披露したこともある歌はもちろん、実はダンスも高い技術を持つ実力派ミュージカル俳優の側面も持ち合わせています。

 激しい振り付けにもかかわらず、ちょっとした足の運び方のしなやかさが、美しくセクシーな女性の服装を愛するローラらしさを体現するとともに、普段からのレッスンの積み重ねと優れた身体性を感じさせました。

 世間の“ノーマル”から外れていても、それがありのままの自分だと胸を張るローラの強さは、チャーリーや、ローラを拒否していた工場の皆へも影響を与えていきます。しかし派手な外見の裏には、靴をめぐって父親と対立したチャーリーと同じく、幼少時に赤いハイヒールに魅せられていたことをとがめられた親とのすれ違いから生まれた弱さも抱えていました。

 カン・ホンソクは、男性は男性らしく、を追求する韓国にあって、ドラァグクイーンの心境をつかむため女装した姿でソウル市内を実際に歩いてみて、周囲から視線が突き刺さるのを感じたそうです。その経験からか、歌唱力の力強さも相まって、世間からのいわれのない非難に屈せず自身を貫くローラのパワフルさがとても目立っていました。

ありのままの心で叫ぶ

 三浦のローラは、信念は曲げられないけれど父親の期待通りになれない自分へのふがいなさをにじませる、繊細さが際立つ造形。父との和解の場面での切なさへの感情の流れは、日本人特有なのかもとも思わせられました。

 ディズニー映画「アナと雪の女王」で席巻した「ありのままの」のフレーズは、ミュージカルではよく用いられるモチーフです。その中には、ゲイカップルが主人公の「ラ・カージュ・オ・フォール」や、オペラ「ラ・ボエーム」を下敷きにLGBTの登場人物たちが愛と命を燃やす「RENT」など、マイノリティたちの心の叫びをうたったものがいくつも存在します。

 それはもちろん、ドラァグクイーンなど性的マイノリティが従事することもめずらしくない職業の登場人物を取り上げることでミュージカルのショー場面が絵になるという側面もありますが、自分をいつわらずに生きていきたいという願いの重さが、反映されていることは想像に難くありません。

 違う人を受け入れるためには自分自身が変わり、自分が変われば世界も変わるというテーマと、家族の確執が解けるストーリーは、どちらも普遍的なものです。人間としてのアイデンティティの違いは、国やキャストの違いによる役作りの差と大して変わりはしないもの。どちらも受け入れて楽しんでしまえば、観劇と人生を、より満喫できるのではないでしょうか。



 

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