2017/08/16 14:00

色っぽくて凛々しく、繊細にして聡明。51歳の野村萬斎が最新舞台で見せた、エイジレスな貴公子フェロモン

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 カメラという媒体を通さず、俳優たちの演じる姿を直接目にすると、映像作品とはまた違った魅力を発見できることが多々あります。テレビドラマを主戦場にしている若手の「ナマでみると芸能人はやっぱりキレイね~」はもちろんですが、どんな舞台作品でも外さないと信頼している俳優が見せてくれる「まだ上があったの!?」という嬉しい驚きは、別格のもの。

 そのひとりが、狂言師の野村萬斎です。伝統芸能の名門に御曹司として生まれた萬斎が時代劇のヒーローを演じても、ハマって当然だと思っていました。それが、先月上演された主演舞台「子午線の祀り」では、想像以上のエイジレスな貴公子ぶり、そしてそのセクシーさに驚愕させられたのです。

 狂言師という出自を存分に生かし時代劇映画「花戦さ」も公開中の萬斎は、俳優以外にも劇場「世田谷パブリックシアター」の芸術監督を務める演出家の側面も持っています。

 劇作家、木下順二作の「子午線の祀り」は、平家物語を下敷きに新中納言知盛の生涯最後の3年間を描いた叙事劇で、1974年に初演され過去7回上演。萬斎はそのうちの2回に平知盛役で出演しており、今回は自身が演出も手掛けています。

艶やかな声と台詞回し

 源平の合戦で追い詰められた平家を率いる知盛は、一の谷の合戦で源義経の奇襲を受け海へ追い落とされ、武将としての自分が揺らぎを覚えていました。後白河法皇の要望もあり、命ではなく知恵で戦おうと、舞姫である影身の内侍(=かげみのないし、若村麻由美)を京への使者に立て、和睦の道を探ります。

 影身の内侍は、知盛の弟、平重衝(=しげひら)の情人ですが、知盛と思いを寄せ合っていました。満点の星空の下で波を眺めながら、彼女へ寄せる同情と信頼がにじみ、宇宙の営みについて語る萬斎の声がとにかく艶やか! 子ども時代に誰もが学校で習った「祇園精舎の鐘のこえ、諸行無常の響きあり」の一説のように、平家物語ならではの難解なセリフが続くのですが、文学を身体で立体化する能楽の技術に裏打ちされた萬斎の手にかかれば、知盛に“いま” を生きている人物像としての説得力が与えられていました。

 平家を支える四国の豪族、阿波民部重能(=あわのみんぶしげよし、村田雄浩)は、天皇の位の証である三種の神器をたてに抗戦を主張し、新しい日本国の存立を画策。そのために、影身の内侍を手にかけます。平家滅亡を予感しながらも知盛は戦う道を選び、義経も水夫や船の舵取りを行う水主(かこ)を集め潮流を学び、慣れぬ海戦に備えていました。そして壇の浦で、源平は対峙します。

 源平の船は、いくつもの小さな階段で表現。その向きが変わるだけで、同じ階段がときに源氏のものになり平家のものに見える演出は舞台ならではの空間の切り取り方法で、最高に洗練された表現のひとつだと思っています。

 両軍の視点が切り替わる船のあいだを行き来する萬斎は、色っぽい目線に武将としての凛々しさと悲しい未来を受け止めようとする繊細さ、聡明さがあふれ、まさに貴公子そのもの。義経を演じる成河(ソンハ)は36歳なのですが、実年齢51歳の萬斎の方がむしろキラキラしているほどの年齢不詳ぶりでした。

涙を誘うフェロモン

 成河は、小劇場出身で話題の舞台に多数出演している人気俳優なのですが、声のトーンが少し特徴的で、これまでは個人的には「ちょっとどうかな……」と思うときもあるという印象でした。それが今回は、その声質に加えて完全に座った目付きが、カリスマとエキセントリックさを併せ持つ義経の造形にぴったりハマっており、知盛との対照が際立っていて、今まで観た演技のなかで最高の出来だったのも、楽しい発見でした(どうかな、なんていいつつも、山崎育三郎の次にブレイクする舞台出身俳優は成河ではないかとも時々感じています)。

 平知盛は歌舞伎の代表的な演目「義経千本桜」にも登場し、巨大な碇を体に巻き付けて海に沈む壮絶な死にざまが見せ場の、荒々しい武将として描かれています。「子午線の祀り」では、母親の二位の尼が安徳天皇を抱いて入水したのを見届けて自分も海に入りますが、その直前に叫ぶセリフは「影身よ!」。一門の夢がついえる瞬間に御曹司が呼びかけるのがすでに死んだ愛する女性というのは、歌舞伎との比較でも武人の最期としても、ちょっと女々しいんじゃないかなと一瞬感じたのですが、萬斎の全開なフェロモンの前には切なさがとまらず、気づけば頬を涙が伝っていました。

 壮大な歴史の渦のなかで運命に立ち向かうも抗いきれなかった貴公子の愛……どこか既視感のあるこのシチュエーション、観劇後に考えて浮かんだのは「宝塚のトップスター」でした。たとえ老齢になっても現役セクシーな俳優は数多いですが、萬斎のセクシーさは年齢相応の色っぽさというよりも、清く正しく美しくの世界並みのエイジレス! 次回の出演、そして演出作も、必ず観に行かなくてはと惹かれてしまうのです。



 

今日の運勢

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頭を押さえつけられるような気分で、ややユウウツ。いつも通り...もっと見る >