2017/08/30 14:00

「あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛」絶叫俳優・藤原竜也。舞台の申し子である彼が、最新作で見せる静かな狂気

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 演技を見て楽しむという意味では同じ娯楽でありながら、映像作品と舞台では、主演だったり人気バイプレーヤーだったりの“序列”には、実は明確な違いが存在しています。映像では主演級とされる俳優であっても、舞台ではコアなファンからそっぽを向かれて評価されない、というのはよくあることですが、どちらの序列でも同じく主演として歓迎される俳優の代表格が、藤原竜也です。

 漫画原作の実写映画などでのエキセントリックな演技が時には賛否両論でもある藤原ですが、狂気をはらんだ人物の描写に定評があるのは、誰もが認めるところ。でもその演技力を本当に堪能できるのは、派手派手しく叫びのたうちまわる役ではなく、ジワジワと侵食され静かに思考が狂っていく役かもしれません。主演舞台「プレイヤー」では、スピリチュアルなカルト集団に引き込まれていく劇中劇との多重構造で、虚構と実像が入り混じった緻密な構成によるカタルシスとともに、残暑がふっと消えさるような怖さを、ほほ笑みひとつで引き出していました。

華々しいキャリアと実力

 物語の舞台は、ある地方都市にある公共劇場の稽古場。さまざまなキャリアの俳優やスタッフが集まり、新作演劇「PLAYER」のリハーサルが行われていました。遺体で見つかった行方不明の女性『天野真』の幽霊の意識や言葉が、生前彼女と親交があり選ばれた人間=『プレイヤー』を通して「再生」されるという戯曲の群像劇で、天野を死に導いた瞑想ワークショップの指導者『時枝』は、事件を追う刑事の『桜井』に、死者との共存は限界を迎えつつある物質文明を打開し世界を変える第一歩だと語ります。

 話は劇中劇「PLAYER」と稽古場を行き来しながら展開し、死者の言葉の「再生」と戯曲中の言葉である「再生」の重なりが、俳優たちを惑わせていきます。

「プレイヤー」は、脚本の前川知大が主宰する劇団「イキウメ」で2006年に演出とともに初演した作品で、今回の演出は劇団「阿佐ヶ谷スパイダーズ」を率いる長塚圭史が手掛けています。同年代で、ともに留学経験があり、劇作家と演出家とを兼ねる前川と長塚は、人間ではない存在を自作の主題に盛り込むことが多い点も共通しています。

 SFをモチーフにするのは、そのままの絵面を観客の目の前に取り出すことが困難な舞台にとっては、ちょっと難しいテーマでもあります。だからこそ、“そのまま”ではない方法でどう見せるか?は、作品の洗練性を左右するものでもあるのですが、前川の戯曲の構造の緻密さが、日常や情報は不変のものではなく、人と人とのかかわりの中で未知の存在や認識へ対峙するものという形で、淡々と描き出しています。

 藤原の演じる、桜井を演じる俳優は、「テレビに出ていない俳優は役者と思われてない」とこぼす場面もある、売れないけれどまじめな役者。桜井は天野を逮捕したことをきっかけに彼女と出会い、その死から時枝とかかわりを持つようになります。ただの集団ヒステリーだと感じつつも、自身の体を通して天野の言葉が「再生」されることで、次第に没頭していきます。

 藤原自身は著名演出家の故・蜷川幸雄に見出され、舞台「身毒丸」のロンドン公演の主演で俳優としてのキャリアをスタートさせており、スター街道を歩んできた売れっこ。よくも悪くも常に主人公としてのオーラにあふれていますが、群像劇の中に悪目立ちせずなじんでいました。舞台の群像劇はセリフを言っている俳優以外の、同時に脇で別の俳優が演技している姿を見るのも楽しみのひとつですが、そのさりげない芝居もしっくりきていて目を引きすぎないのも、やっぱりうまいなぁと思わせました。

 天野の死の事件性を知って嘆き悲しむ真っ赤な顔や、稽古場で膝を抱えて座る姿は、好青年そのもの。筆者は数年前に藤原の出演舞台の稽古場を取材した経験がありますが、そのときに見かけた本人の、素の座り姿とまったく同じなのがキュートで、自身は経験してこなかったという、稽古場でゆっくりと役の人物を探る体験を楽しんでいるんだなと思わられせたのも印象的でした。

仲村トオルも、負けじと。

 桜井を誘う時枝を演じるのは仲村トオル。仲村は、前川が作・演出するシリーズ「現代能楽集」の常連で常に物語のキーパーソン役を務めています。時枝がスピリチュアルにはまったきっかけもまた天野で、死者が生者と時間と空間を超えて記憶のネットワークの中で混ざりあう世界は、ただ幸福感だけがあり環境破壊も防ぐと信じています。

 催眠をかける相手に対して、「このライトを見て」と指示する姿はうさんくさいことこの上ないのですが、仲村の声はとてもよく通って滑舌がよく、とにかくセクシー。アシスタントの神崎(成海璃子)が、天野のいる世界へ移行するために“死んだ”ときに拍手で称える様子の異質さなど、すごく怖いのに、「肉体なんて幻想だ」と語る声の魅力だけで、うっかり時枝の主張を信じそうになってしまいそうです。

 桜井は、時枝たちワークショップの参加者たちとは違う場所に残りますが、彼の行いにより、『プレイヤー』の存在の増殖を示唆して、劇中劇は幕を閉じます。戯曲「PLAYER」の作家はすでに故人で、稽古場の役者たちは、自分たちは作家の『プレイヤー』だなと笑いあいますが、そのときに藤原演じる俳優がプロデューサーへ向けたセリフとともに浮かべたほほ笑みが、劇中劇の桜井が見せていたほほ笑みと同じなのは、なにを示しているのか――。途中までは確かに好青年のほほ笑みだったのに、いつの間にか、確かにそこに狂気が垣間見られるものに変化しているのは、劇中劇の虚像と稽古場での実像がボーダレスに入り混じる作品ともシンクロし、脳ミソがザラザラするような感覚をも、覚えさせてくれるのです。



 

今日の運勢

おひつじ座

全体運

美的センス抜群の日。流行をとりいれつつ、場にマッチするファ...もっと見る >