2017/10/11 15:00

ウサギ用オリに子どもを閉じ込め…鳥居みゆきが「虐待母」を演じることで生まれた説得力と問題提起

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 歌舞伎やミュージカルなど、ジャンルによってはとっつきづらいのでは? と思われてしまうこともある舞台ですが、劇場の観客の目の前でライブで展開される物語、という意味では、お笑いもまた、舞台のひとつです。

 コントに定評のあるお笑いタレントがテレビドラマや映画に出演し、本職の俳優顔負けの名演技を披露して好評を博すというのは、よくある話。演劇の舞台へも、演出家・三谷幸喜に信頼され常連のように起用されている青木さやかや藤井隆などはその好例といえるかもしれません。

 エキセントリックなキャラクターとは裏腹に時事ネタなどを駆使した知的な芸風で、死生観をテーマにした作品も多いお笑いタレント、鳥居みゆきも、近年は俳優としての活動が増えています。

 9月末に公演された主演舞台「モンスター」は、ウサギ用のおりに自分の子どもを監禁して死なせた実際の虐待事件を基に、鳥居演じる子どもを殺した母親の判決を観客に問う客席参加型の物語。世間から“モンスター”と呼ばれる母親の素顔と、凄惨な事件を娯楽として消費する世論への皮肉を織り交ぜた良作として仕上がっており、セーフティネットからこぼれおちていく存在への問題提起に、鳥居の存在感が説得力をもたらしていました。

エキセントリック芸人の真骨頂

 5人の子どもを持つシングルマザー、真田夏実(鳥居みゆき)は、6歳の長男と3歳の4女に首輪をつけてウサギ小屋に監禁し死なせ、遺体を荒川の河川敷へ埋めた容疑で逮捕。ワイドショー「ポッキリ」の記者、ジャスティス阿部こと阿部正義(渡邊紘平)の、責任能力の鑑定を行い起訴する方向だという中継を聞き、スタジオのコメンテーターたちは(元ネタと思われる日本テレビ番組のコメンテーターたちの物まねが秀逸!)、まさに人間の皮をかぶったモンスターだと騒いでいました。

 真田が子どもたちに与えていた食事は、ひまわりのタネ。ウサギ小屋に入れた理由は、「子どもが動きまわるから」。それでも取り調べを担当する貴島雪子検事(山下容莉枝)に対して真田は、「私は殺してない。死んでいた」「何の罪に問われるっていうの?」と繰り返します。

 真田の留置所での様子は映像を用いた演出で、鳥居の白すぎる肌と見開いた目、茶色く塗った前歯のアップは、ただでさえ異様さを強調しているのに、その映像がノイズとともにブツっと途切れるのは、完全にホラー映画! 発言も支離滅裂ですが、子どもたちに暴行の痕はないことなどから、貴島は彼女の発言にはウソはないのではと判断し、真田の成育環境を調査します。阿部も同じように、真田の育った過去について取材を行っていました。

 貴島と阿部は実は別れた夫婦で、子どもはいません。しかし元夫婦は、事件の大きな反響から「事実はどうであれ起訴ありき」「真実よりも、視聴者をエグるコンテンツを」という圧力を受け、「子どもがいないから、世論が分かっていない」という、無神経な発言を投げかけられます。

 ともに自分がこの職業についた原点、自分の信じる“正義”はなにかという思いに立ち返った結果、真田が幼少時、貧困のために満足に食べられるものはひまわりのタネだけだったこと、幼い妹の面倒を見ながら重度の精神病を抱えた母親を介護し、その母親を自死で亡くしたことが判明します。

 子どもを2人死なせことは事実。しかし、“真実”は? 学校でも近所でも母親をどうにかしろと責められるだけで助けが得られず、自分の努力が足りていなかったせいで母は死んでしまったのでは。長男は発達障害で外に飛び出して車にひかれたことがあるから、死なせないために繋いでおこう――。

「迷惑とは、世間に非難されるようなこと。でも、誰に“迷惑”をかけたっていうの」

 真田のセリフは、小さなつぶやきだけれど、貧困の連鎖やコミュニティの断絶など、現代社会の抱える課題とそこで苦しむ人たちの心の叫び以外のなにものでもないのでしょう。

 作品上には、真田自身と子どもたちの父親は登場せず、結婚しているのか否かも語られません。ピンクのネグリジェ姿の鳥居はスタイルの良さからとてもなまめかしく、男性が真田を欲望の対象としては求めたこと、でもその結果と責任からは逃げ出してしまったことをうかがわせ、驚くほどの説得力がありました。また鳥居の突飛な芸風のイメージが、恵まれなかった成育環境から生じたであろう真田の危なっかしさを連想させ、失ってしまった“家族”を未熟ながらも必死に守ろうとした哀しさまでほうふつとさせていました。

有罪、無罪。あなたはどう思う?

 真田は、保護責任者遺棄致死罪で起訴され、世間の注目度の高さから裁判員裁判が実施されます。裁判員は観客全員で、入場時に渡されている有罪か無罪かの紙を提示。裁判長から客席番号で指名されたら理由を述べ、「無罪」を選んだら貴島からの「異議あり!」のセリフも飛んできます。

 このような客席参加型の作品は、ワハハ本舗などコントをメーンに行うカンパニーではよくありましたが、近年は大劇場で行う演劇公演でも増えています。昨年春に上演されたトニー賞受賞ミュージカル「エドウィン・ドルードの謎」は、観客の投票により結末が288通りに変化し、今年夏の歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」第二部「歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)」も、観客の拍手の大きさでその日の作品の結末が変わるという演出でした。

 「モンスター」はおそらく、観客がどう反応、投票しても、物語の結末は同じだったと推測されます。真田は「有罪」。そこにどんな事情があっても、結果は社会の声に左右されてしまう、では本当のモンスターとは誰で、何なのか――。強制的に考えさせるとともに、その自分の意思表示は、台本=世間の声の前では無意味であるというダブルミーニングの仕込みなのではとまで思わされてしまうのは、簡単に真意を測ることのできない鳥居の芸風とその存在に、けむに巻かれているせいなのかもしれません。



 

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