2018/05/14 17:00

心理学で不眠を治す!?その極意は、自分の睡眠の傾向を知ること

「心理学を使って不眠が治せる」と言われると、新しいカウンセリング的なものかと思うかもしれませんが、そうではないんです。今回は不眠の認知行動療法という、心理学の考え方に基づいた心と体のトレーニングで不眠を改善する方法を、お伝えします。この不眠の認知行動療法によって、約20年間抱えていた不眠を克服し、先日その体験談をつづった『ベッドにいてはいけない』を出版された元不眠当事者の土井貴仁さんにお話を聞きました。

色々試しても、結局ほとんど変わらなかった

「初めて不眠を意識したのは、幼稚園の頃です。私は3人兄弟の末っ子なんですが、兄たちと一緒に夜眠るとき、いつも眠るのが一番遅かったです。あと、幼稚園のお泊り会でも眠れなかったりして。そういったことから『人より睡眠が苦手なんだ』と思うようになりました。」
 
幼稚園から不眠に悩んでいた土井さん。中学1年生の夏休みに体調がひどく悪化。この頃からご両親も、「眠るのが苦手な子ども」だと少しずつ理解するようになります。お母さんが身近な食材を使った快眠法を土井さんに試してくれたことを機に、眠るための対策を開始。不眠の認知行動療法に出会うまでに試した治療や快眠法は、本当にさまざまです。
 
「針治療や整体には小学校の頃から通っていたんですが、他にもいろんなことを試しました。定番の羊を数えることはもちろん、運動、快眠のストレッチ、呼吸法、瞑想、特定の食べ物や健康食品を摂る、漢方やサプリメントを飲む。変わったものでは、自分に暗示をかけたり、今日は眠れないと割り切って徹夜して翌日に眠れるかを試したり、といったこともしました。テレビで『こうすれば眠れる』と取り上げられたものは、だいたいやりました。でも基本は、『自分の精神力が弱いから、気合いで何とかしよう』と思っていました。」
 
ただ、睡眠薬を飲むことには、抵抗感があったとのこと。
 
「睡眠薬を飲んだら、周りの人にどう思われるかとか、何だか『自分が不眠だ』と認めるような感じとかがして、漠然と怖いという気持ちがありました。」

1回目の大学受験で大失敗、睡眠薬を飲む決断をする

「第1志望の国立大学の2次試験の当日、試験の途中から強烈な眠気に襲われていました。その頃は3~4時間しか眠れていなかったので、センター試験なども同じような状態で受けていたんですが、その日は特に眠くて…。」
 
最後の科目の試験中、気づいたら約30分間、眠っていたのです。
 
目が覚めたときには、解答用紙は真っ白。『あ、落ちた』と思いました。」
 
予想通りの不合格。始まった浪人生活の1年間、「眠れないせいで、また試験に落ちるんじゃないか」という恐怖感が常にあったという土井さん。それをどうにか和らげたいと思って、今まで敬遠していた睡眠薬を飲みはじめることにしました。
 
「とにかく大学受験に合格したい。そのためには何でもしよう。そう思って、初めて心療内科に行って、睡眠薬を処方してもらいました。睡眠薬を飲むことへの抵抗感がある一方で、『もしかしたら楽になるかも』という期待感も実はありました。」
 
睡眠薬を飲むと、多少眠りやすくなりました。何より試験への恐怖感が軽くなりました。その結果、晴れて大学生になります。

的中してしまった不安

表面的にはうまくいっていた大学時代。たとえば、友達の家に泊まりに行った際に睡眠薬を飲むときは、友達が寝た後にこっそり飲んだりしていました。けれども、希望した東京の教育系企業に就職すると、状況が一変します。
 
「入社してすぐ、2か月間の研修があったんですが、その頃から『いつまで体調が持つかな』という不安がありました。もともと『3~4時間しか眠れないけどがんばろう』と思って入社したんですが、朝起きて、通勤して、働く、という生活自体が苦痛になってきたんです。」
 
新社会人という慣れない状況に加えて、眠れないことが、疲労を蓄積させました。気がついたら、毎日体がだるくて、胃が痛くて、突然涙が出るように。体は「もう限界だ」というサインを発していました。
 
しゃべりたいと思っていることが言葉にできなかったり、しゃべれても言葉がつっかえたり、知っている漢字がなぜか書けなかったり、ということが仕事中に起きてきました。」
 
職場に早く戻りたいと思いながらも、休職。もう気合いではどうにもならないと、認めるしかありませんでした。

不眠の認知行動療法との出会い

土井貴仁さん

京都の実家に戻って療養することになった土井さん。「自分は社会に適応できないかも…」と人生を諦めそうになりながらも、少し調子がいいときは、本を読んだりネットを検索したりして、不眠の打開策を探していました。その中で偶然見つけたのが、不眠の認知行動療法について書かれた本だったのです。
 
「それまで『こうすれば眠れる』といった快眠法の本は読んでいましたが、『不眠を治す』といった内容の本を買ったのはほぼ初めてでした。最初は正直、『どうせまた自分には効かないんだろう』という気持ちもありましたが、自分がなぜ不眠なのかがわかった気がして、非常に納得感があったんです。
 
納得感の理由は、自分が精神生理性不眠症という慢性的な不眠の代表的な症状かもしれないとわかったからでした。具体的な病名がわかると、対策を考えることができます。そのきっかけをくれた本に書かれた、心理学に基づく不眠改善法を試そうと決めました。

不眠の認知行動療法って、何?

認知行動療法は、その人の考え方や感じ方、行動や習慣に働きかけて、抱えている問題を解決しようという心理療法の一種です。では、不眠の認知行動療法は、どのようなものなのでしょうか。
 
「簡単に言うと、睡眠にとって、よくない考え方や感じ方、行動や習慣を減らしていき、逆にいい考え方や感じ方、行動や習慣を増やしていこうというものです
たとえば、睡眠にとってよくない行動や習慣のひとつに『眠れなくてもベッドで横になる』というものがあります。これはよくない習慣です。なので、この行動や習慣をやめる方法を実践したり、逆にいい行動や習慣を勉強したりします。」
 
眠れなくても横になっていると疲れがとれる――。これは、眠れない人によく向けられる言葉です。確かに、座っているよりは疲れがとれる気分になるかもしれません。でも実は、不眠の大敵。ベッドにいてはいけないのです。このように、世間の常識が睡眠の常識とは限らないことがあります

不眠の認知行動療法をはじめてみた

不眠の認知行動療法について書かれた本を読んで、実際に治療を受けることにした土井さん。期待と不安、さらには「これで治らなかったら…」という恐怖感を抱えていました。それでも、「自分に合った治療法だ」と思った直感を信じ、実家の京都から病院のある東京に通う交通費をかけてでも、自分のできる範囲でやってみようとスタートします。
 
「不眠の認知行動療法は、毎日の睡眠の記録をつけるなど、正直言って面倒なこともあります。私も睡眠を記録するときに、よくなったような感じで嘘を書いたこともありました(笑)。だけど、今までずっと思い込んでいたり信じていたりした行動や習慣を変えるわけですから、最初から完璧にできなくてもしょうがないんです。0か100かではなく、1ミリだけでも自分を変えようすればいいんです。」
 
実際に不眠の認知行動療法を行うと、体調が悪かったり、忙しかったり、とにかくやる気が出なかったりと、続けるのが大変なこともあります。それでも、「少しでもできた自分、少しでもやろうとした自分を、褒めてあげることが大事」と土井さんは言います。そんなときは、何か楽しみや支えになることがあるとよりいいですよね。
 
「私は家系ラーメンが好きなので、病院の帰りにおいしいラーメン店に寄ったり、不眠に悩んでいることを知っている友達に会ったりしていました。あとは、少しずつ睡眠についての知識が身についてくると、『自分がやっていることは間違っていない』という自信がちょっとずつ湧いてきました。」
 
自信を持つことって、本当に難しいですよね。ましてや、もともと自信がないことに挑戦し、克服しようとしているのですから。その中でも、約8か月間の不眠の認知行動療法を続けたことで、自分の睡眠についての傾向と対策が見えてきて、土井さんの中に自信が生まれ出しました。

不眠をついに克服する

「ひとつの区切りになった出来事は、不眠の認知行動療法をはじめてから約1年後に、睡眠薬を飲まずに眠れるようになったことです。睡眠薬は徐々に減らしていきました。最初のうちは、『これだけ減っても眠れるようになった』という感動があったんですが、最後の4分の1錠から飲まないとなったときは、案外あっさりしていました。」
 
解放感というよりも安堵感。そんな思いが次の言葉にあらわれています。
 
「『そういえば睡眠薬を飲んでいない』ということにふと気づいた瞬間、もう不眠ではないんだと思ったんです。」
 
これは不眠に限らず、さまざまな悩みにも共通します。「そういえば大丈夫」という日が、皆さんにも来ることを願っています。

不眠の認知行動療法を通じて、生き方を考える

「不眠の認知行動療法を受けたことで、睡眠は人によって違うということを学びました。ですから、不眠を治して社会に適応しようとするのではなく、自分の心地よい睡眠のリズムに合った生き方をするのもいいと思うんです。」
 
土井さんは約8か月間の通院の途中で、行動に移します。
 
「休職していた会社を正式に辞めて、通院しながら一時期、実家の近くで塾講師の仕事をしていました。塾って、お昼頃から始まって夜遅くに終わるじゃないですか。実は、夜型の人に合った働き方なんですよね。」
 
不眠の認知行動療法は、「自分の睡眠を見つめ直すこと」、そして、「自分の睡眠を通じて、生き方を見つめ直すこと」。そうすると、心や体のいい状態と悪い状態がわかるようになり、悪い状態をどうすれば立て直せるかも徐々にわかってきます。だからこそ、「なぜかわからないけど眠れない」という人には、不眠の認知行動療法で、自分の睡眠の現状を知ることがおすすめなのです。それが、今より少し楽になれるきっかけの第一歩になるかもしれないですから。
 
今回話を聞いた土井さんの、約20年の不眠体験談と不眠の認知行動療法の手法をまとめた書籍はこちら。

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