2017/07/14 17:00

【島根(1位)・鳥取(39位)】隣接してるのに全然違う「ぐっすり感」の違いを探る


前回の記事でご紹介した通り、全国でもっとも「ぐっすり感」が高かったのは、島根県。一方で、お隣りの鳥取県は全国39位という結果になりました。
 
しばしば「どっちがどっちかわからない」などと冗談のネタにもなる両県ですが、同じ山陰地方でこれほど大きな差が出たのはなぜでしょうか?
 
この疑問に対して、今回編集部では「地形」「伝説」「食文化」という3つの側面から仮説を用意。それを検証するため、東京から島根、鳥取の両県を訪ねることにしました。移動は、現地での調査時間を最大限に確保するために、早朝着となる夜行バスを選択。期せずして、揺れる車中で自分の快眠度と向き合うことに……
 
往復1,600キロ、睡眠の秘密に迫る旅に、いざ、出発!

目次

  • 仮説1:島根と鳥取──「夜」を迎える心の準備に違いあり?
  • 仮説2:島根県民は、悪夢を「バク」に食べてもらってる?
  • 仮説3:鳥取県民はコーヒー飲みすぎ?
  • 仮説X:「県民性の違い」が睡眠満足度を変える?

仮説1:島根と鳥取――「夜」を迎える心の準備に違いあり?

夕日の名所として知られる島根県大田市、掛戸松島

 
地図の上では隣接する島根県と鳥取県ですが、その地形には大きな違いがあります。どちらも日本海に面していますが、鳥取県の海岸線がほぼ東西に延びているのに対し、島根県では東北東から西南西にかけて、大きく西方に開けた海岸線が続いています。

狭い国土に標高の高い山々が連なる日本の地形では、限られた平坦な土地に人々が集まって都市部を形成しているわけですが、それ以外の多くの場所では、夕暮れの時間は短いもの。中山間地域では夕日は山の端に沈むので、薄暗くなったと思っているうちに、ストンと夜になってしまいます。
 
さらに太陽は東から出て南を回り、そして西に沈むため、ゆっくりと沈む夕日を見ることのできる場所は、日本海側では限られています。そもそも「夕方」の時間帯が、太平洋側と比べれば基本的に短い、ということになるわけです。
 
ところが島根県の海岸線は西方に大きく開け、絶景の夕日が見られるスポットが点在しています。これは沿岸地域だけでなく、島根県の全域が北北西に傾いた大きな斜面に位置しているため、昼から夜への橋渡しとなる夕暮れの時間も全体的に長いことが想定されます。そのため島根の人々は、日常の暮らしの中で「さて、夜になるぞ」という心の準備に時間をかけることができているのではないか──というのがひとつ目の仮説です。
 
というわけで、まずは島根県美郷町を訪ね、地域の人にお話をうかがってみました。

江ノ川に沿って広がる島根県美郷町、乙原地域の集落

 
日本最大の銀山である石見銀山に近い美郷町は、島根県の内陸部に位置する典型的な中山間地域。江ノ川の流域に集落が点在していますが、基本的に四方を山に囲まれた土地柄です。その地で、築200余年の旧家に嫁いだ安田兼子さんは、明治生まれや大正生まれの姑さんたちと一緒に大家族を支えてきたベテラン主婦です。

地域婦人会の中心人物である兼子さん。旧家を支え、長く地域を見守ってきた懐の深さを感じました

 
兼子さん「夕方ねえ……そんなに意識したことはないけど、このあたりは家仕事の多い土地でね。大きな家だと田畑の仕事というより、母屋では養蚕をしてたりして、なかなか忙しくしてたのよ。だから日が暮れた途端に仕事が終わるんじゃなく、ゆっくりと時間を使っていたのよね
 
──なるほど。日没でオンとオフがスパっと切り替わる、という感じではなかったわけですね。
 
そもそも島根の人はおっとりした気質だからねえ。いろんなことがゆっくりなのよ。昔は子どもたちも外にいる時間が長くて、帰ってきたらご飯を食べて寝る、という感じだったわ。今は学校から帰るのも早くなったし、家の中で遊ぶことも多くなったけどねえ」
 
──子どもたちがなかなか寝ないとき、このあたりではどうやって寝かしつけていたんですか?
 
「そういえば、よく『そろそろねはんじにまいろうか』といってたわね。どんな字を書くのかはわからなかったけどね」
 
この「ねはんじ」は、どうやら「涅槃時」と書くようで、釈迦の人生の終盤を意味する「法華涅槃時」に由来するようです。一日の締めくくりをしましょうか、というニュアンスで寝床に入らせる、ということでしょうか。
 
いずれにせよ、スコットランド発祥のブギーマンから中南米のエル・ククイまで、寝ない子どもには「オニに食べられちゃうよ!」と叱りつけるのが世界共通のしつけ文化ですが、島根県ではだいぶマイルドなようです。
 
「とにかく、本当におっとりしているのよ。それが鳥取の人になると、あれもこれも、いろんなことをどんどん試してみるようになるんだけどねえ」
 
──そんなに違うものですか? 島根と鳥取……。
 
「違うわねえ。だってほら、鳥取県知事の平井さんを見てもそう。いろんなことにどんどんチャレンジする人は、島根ではなかなか出ないのよ」

※鳥取県知事の平井伸治さんは「日本一忙しい知事」としてTV出演したこともあるほど

意外なところから県民性に話題が飛んで、別の視点も見えてきました。保守的な島根県民と、変化を求める鳥取県民。マイルドな島根県民と、アクティブな鳥取県民。この違いは「眠り」に向き合う姿勢にも、なんだか影響がありそうです。
 
ともあれ、子どもたちはゆるゆると暗くなる夕方の時間を自然の中でたっぷりと遊び、大人たちは日照を惜しむようにギリギリまで野良にいるのでもなく、外仕事から家仕事へとシフトしながらゆったりと夜を迎える──典型的な中山間地域でありながら、ちょっと贅沢な時間の流れ、という気もします。これなら落ち着いて寝床に向かえそう。仮説としては「ややアリ」といったところでしょうか。

仮説2:島根県民は、悪夢を「バク」に食べてもらってる?

美郷町まで足を伸ばしたのには、もうひとつ理由があります。それはお隣りの島根県川本町、長江寺にある珍宝「貘頭の玉枕」を見せていただくため。この珍宝の存在から、川本町では「バクのまち川本」として「悪い夢を食べて夢叶える町」であることをアピールしています。
 
そんなバクのパワーが全県に広がり、島根の人は悪夢を見てもうなされることなく、すっきりと目覚めているのではないか──というのがふたつ目の仮説です。

島根県川本町、湯谷温泉にほど近い長江寺

 
ここでいうバクはマレーバクなど実在の動物ではなく、伝説上の「バク」のこと。悪夢を喰うバクの言い伝えは全国で広く知られているにも関わらず、それが形になった「貘頭の玉枕」のようなものは、どうやらこの長江寺にしか残されていないようです。
 
そんなわけで長江寺にご住職を訪ね、貴重な「貘頭の玉枕」を拝見すべく、箱を開けていただきました。

木箱の一片が30センチほど。実際に枕として使われることが前提なためか、意外に小ぶりでキュートな印象

 
木彫りの枕は器になっていて、愛らしいバクの頭を模したフタを外すと、中には小動物の頭蓋骨が収められています。なにしろ伝説の話なので、バクの骨だといわれればバクの骨にも見えなくも……。寸法としてはイノシシほどでしょうか。骨には刃物の傷もなく、ていねいに扱われた印象です。
 
ところでこのバク、なぜ枕になっているのかと思っていたら、ご住職から意外な説明がありました。
 
どうやらこれ、本来は占いの道具として作られたものらしいのです。バクを模した枕は、豊臣秀吉や正室のねね、徳川家康などに広く使われていましたが、それは「悪夢を食べてもらう」というより、ここいちばんの重要な判断をしなければならないときに、前夜にバクの枕を使うことで「夢中に天啓を得る」というのが目的だったらしいのです。
 
なので、毎晩使うものではなく、ふだんは蔵に収めるか、あるいは菩提寺に預け、必要に応じて取り出して使っていたようです。歴史って面白い!
 
ということで、この「貘頭の玉枕」が島根の人の快眠を支えているのかどうかといえば、「判定不能」というところでしょうか。でも、数百年に渡って誰も使っていない「貘頭の玉枕」なので、お腹をすかせて、最近では悪夢を食べてくれているのかもしれません。
 
ちなみにご住職に、おそるおそる「ご自身でお使いになったことは……」と尋ねてみたら「まさか!」と一喝されました。うーん、試してみたいぞ!

仮説3:鳥取県民はコーヒー飲みすぎ?

島根県といえば宍道湖であり、しじみです。しじみに多く含まれるオルニチンは、眠りの体感や翌朝の頭の働きを改善するとも言われています。前回の記事では「しじみよりも青魚」という解説がありましたが、島根の食文化が日々の「すっきりとした目覚め」の重要なポイントになっていることは事実でしょう。

島根県出雲市、駅前の繁華街。この手の看板があちこちにあり、しじみを大プッシュ中。それに対して鳥取県には、意外なデータがあります。
 
2015年、総務省統計局が実施した全国の家計調査で、鳥取市のコーヒーへの平均支出金額が8,126円となり、全国のトップに立ったのです。これは前年の5,976円(全国29位)から2,000円以上を増やしての急上昇。
 
ちなみに2位の奈良市は7,838円、3位の金沢市は7,820円でした。コーヒーに関する統計では、よく「喫茶店に使う支出は岐阜県がトップ」などと紹介されますが、あちらは「喫茶店」での支出なので、有名な「うどん付きモーニング」などのように食事としての要因が大きいわけです。
 
それに対してこの統計には、純粋に「コーヒーをたくさん飲んでいる」という結果が表れています。鳥取の人、そりゃ眠れないでしょ──というのが3つ目の仮説です。
 
となれば、気になるのはあの店!
 
ダジャレ名人として話題を呼んだ鳥取県知事、平井伸治さんの「鳥取にはスタバはないけど、日本一のスナバがある」という発言を受けて登場した、「すなば珈琲」です。

すなば珈琲の「砂焼きコーヒー」。一杯432円(税込)はかなりのコストパフォーマンス

 
2014年にすなば珈琲が誕生し、鳥取の皆さんが大いに盛り上がってコーヒーを飲みに通い詰め、その結果として全国トップの支出額に…カフェインの摂取量が増えれば睡眠への影響は避けられませんから、快眠度の低下にも納得がいきます。早々に結論を出しますが、仮説としては「そこそこアリ」でしょうか。
 
でも、そんなに通いたくなるほど美味しいの? と考えるのが、コーヒー好きの性というもの。そこで一杯のコーヒーを飲むために、島根県から県境を越えて、米子まで行ってきました。

すなば珈琲米子店。県西部への初の進出として、2017年3月に待望のオープン

 
このすなば珈琲、温かいコーヒーのメニューは基本のハウスブレンドと、鳥取砂丘の砂で焙煎した「砂焼きコーヒー」の2種類。迷わず「砂焼きコーヒー」でしょ! ということでいただいてみましたが……驚きました。
 
昨今のサードウェーブ的な浅煎りのスタイルをイメージしていたら、ノックアウトされそうなフルボディの一杯。ハウスブレンドよりもディープローストだということですが、まさしく堂々たる深煎りでした。
 
この風味が広く県民に受け入れられたのだとしたら、鳥取県民のコーヒー好きな度合いは、単に話題に乗った一過性のものではありません。

さすが「まんが王国」の鳥取県。お出迎えの看板もこのテイスト

 
というわけで、実際に「砂焼きコーヒー」を堪能した今となっては、最後の仮説は「そこそこアリ」から「かなりアリ」に変更せざるを得ないのでありました。
 
ちなみに、島根県は出雲市駅の構内にある喫茶店では、オリジナルの「そば粉入りコーヒー」をいただきました。出雲といえばそば、という地域産品の活用事例ですが、実にマイルドな味わい。鳥取県民には、少し物足りないのかもしれません。

仮説X:「県民性の違い」が睡眠満足度を変える?

というわけで、ここまで3つの仮説を検証してきましたが、どれも一長一短あり、なかなか一発回答というわけにはいかない悩ましい結果となりました。
 
ただ、その中で浮かび上がってきたのが、「県民性の違い」。そこで、島根、鳥取の両県をはじめ、山陰地方を広く、かつ広範なカテゴリーでよく知る人物に疑問をぶつけてみることにしました。

いつも朗らかな曽我部先生。あれこれの仮説をニコニコしながら聞いてくださいました。皆さんも島根にお出かけの際は、ぜひ出雲科学館へ!

 
島根大学名誉教授で、出雲科学館の名誉館長でもある曽我部國久先生。夜討ち朝駆けで飛び込んだぶっつけ本番の取材でしたが、まさかの取材OK! このラスボス感!
 
でんじろう先生の登場でファンの増えた実験エンターテインメントの世界ですが、元祖「実験先生」と呼ばれるのが曽我部先生です。
 
──というわけで曽我部先生、今回は島根と鳥取の快眠度の差を探る、ということで調査にやってきたのですが……。
 
「あ~、それは違うかもしれないね。気質が違うからね。鳥取には砂丘があるよね。あれは堆積岩地層の上に立地しているので、崩落や侵食でどんどん砂ができて、それが砂丘になったんだ。でも島根には砂丘がないでしょ?
 
島根県って、花崗岩の上にあるんだよ。だから固くて、崩れにくい。砂浜もあるけど、他所から潮流で運ばれてきた砂が大半だから、砂浜が狭い。これは内陸部の地勢にも影響があって、花崗岩の産地って岩肌が剥がれるように崩れるから、いつまでたってもなだらかになりにくい。だから裾野が広がらず、平地が少なくなる。
 
すると、人々はその限られた平地を使って、生活を成り立たせようと考えるわけだよね。その結果、あまり高望みをせず、得られるもので満たされる感覚を身につける。このあたりが島根の人の気質の土台になっていると思うんだよね」

出雲の市街から見る、島根半島の山の連なり。堅固な土質が太古からの鋭い稜線を残しています

 
「それに対して鳥取の人は、平坦な土地の確保にもある程度の余裕があるから、それを開拓してやろうという向上心も強くなる。手を広げていくことに挑戦するんだよね」

米子の歴史ある繁華街、朝日町の一角。路地というには贅沢な空間

 
「よく『風の人、土の人』っていうでしょ? 風の人が居つくかどうかは、その土地の気質による。というか、風の人が集まる場所か、風の人が馴染まない場所かで、それぞれの地域性が生じてくるわけだね。そういう意味では、島根よりも鳥取の方が、風の人には向いている感じがあるね」
 
そういえば、すなば珈琲の生みの親ともいえる平井知事、実はチャキチャキの江戸っ子で、生まれも育ちも東京は神田明神下の人。まさしく風の人ですね。そんな人が現在3期目を務めていることを考えると、やはり鳥取の人は「風の人」を好む気質なのでしょう。

右の「大国主命」のコスプレをしているのが、鳥取県知事の平井伸治さん。攻めてます

 
──そういう地域性、県民性の違いが、どう「眠り」と関係してくるんでしょうか?
 
「いい睡眠のためにはいい疲労が必要なんだけど、それは身体の話だけじゃないんだよ。人間が摂取したエネルギーは、実は7割くらいを脳で消費しているんだけど、そう考えると、いい睡眠に恵まれるためには、頭をよく使ったほうがいい、ということになるんだ。
 
島根の人はおっとり、ゆっくり、じっくりだから、ものを考えるのにも時間をかけ、性急に結論を出さない傾向がある。これはエネルギーとしては消費量が多いわけで、それだけよく眠れることになる。かといって、あまりくよくよと悩まないのも島根の人だから、それもまた睡眠の質という点では、いいのかもしれないね」

そういえば出雲大社の祭神である大国主命は、幽冥界の主でもありました。毎夜、よき眠りをいただきたいものです

 
「ところが鳥取の人は、ぱっと考えてさっと行動できる。新しいことにもどんどん挑戦する。
 
そういえば東北の震災の時にも、鳥取からは若者だけでなく、多くの人がはるばるボランティアに飛んでいったんだ。もちろん島根の若者にもボランティアの声はあったんだけど、当時の島根大学では学生をボランティアに行かせることに対して、講義が遅れるからという教授陣の抵抗があったんだよね。だから、ボクが副学長として『どんどん行ってこい!』と学生を送り出す必要があったんだ。そのくらい、島根と鳥取は違うんだよ。思い切りというか、フットワークというか……。
 
そんなわけで、のんびり落ち着いた島根県民と、アクティブで決断の早い鳥取県民では、眠りに対する認識の差があっても、おかしくないよね
 
なるほど、よき眠りのためには、よきアタマの疲労も必要ということですか。なんだか自分の生き方にも釘を刺された気がします。これですっきりとして、帰りの夜行バスでも快適な眠りに恵まれるといいのだけれど……。
 

 
というわけで、今回の調査では「地形」「伝説(バク)」「食文化」という3つの観点から仮説を検証したところ、新たな仮説(県民性の違い)が生まれるという結果になりました。皆さんは、とくに島根県・鳥取県ご出身の皆さんは、どう感じられたでしょうか?
 
異論、反論、新しい仮説など、ぜひお寄せいただきたいと思います。そのときはもしかしたらもう一度、新たな検証をするために山陰の旅に……次回は飛行機か新幹線で行きたいと思います!
 
ライター:ブゥニィ ブゥ

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