2018/01/12 11:30

「適温相場」の行方を「熊と少女」の物語で占う

「適温相場」の行方を「熊と少女」の物語で占う
「適温相場」の行方を「熊と少女」の物語で占う

ここ最近、国内外の経済系メディアで「ゴルディロックス」という言葉を見聞きします。ゴルディロックス経済とか、ゴルディロックス相場などの表現がよく登場するのです。

例えばここ1ヶ月以内の記事に限っても「ゴルディロックス的なマーケット環境が変わる感じはないが」(ロイター2018年1月3日)とか、「『ゴルディロックス(中略)状態』が続くとみる投資家は54%」(日本経済新聞2017年12月19日)といった表現を見つけることができます。

実はこの言葉、英国で発祥したある「童話」が語源なのだそうです。

果たしてゴルディロックスとは一体どんな意味なのでしょうか。そして各種メディアで囁かれているゴルディロックス相場の行く末は、どうなるのでしょうか。筆者の専門分野は言葉ですので、強引に「言葉の観点」から相場の未来を占ってみましょう。

ゴルディロックス=適温

まずはゴルディロックスの意味について探ります。

実は経済分野でゴルディロックスという言葉が使われるようになったのは、最近ではありません。1992年、米投資銀行ソロモン・ブラザーズ(当時)のデビッド・シャルマンが「The Goldilocks Economy: Keeping the Bears at Bay」(ゴルディロックス経済:熊を寄せ付けない)と題した論文を発表しました。これがゴルディロックスと経済の最初の結びつきでした。

辞書の中には、ゴルディロックス経済(Goldilocks economy)の意味をすでに載せているところもあります。例えば、研究社・新英和中辞典(第7版)のGoldilocks economyの項目には、こんな説明がありました。「景気が過熱も冷え込みもしない、ほどよい成長経済」。この「ほどよい」という部分がゴルディロックスの意味の中核。日本語のメディアではこれを「適温」と表現するところも多いようです。

つまりゴルディロックス経済とは、「適温経済」のこと。またゴルディロックス相場とは「適温相場」を意味します。ここでいう適温とは「過度のインフレがないまま経済成長が続いている状態」を表現しています。

少なくとも米国では、このような経済現象が1990年代の中盤、2000年代の中盤の2度、起こっていました(参考:ウォール・ストリート・ジャーナル2017年4月17日「WSJで学ぶ絵経済英語 第275回 ゴルディロックス」)。

そして2017年後半以降は、日本を含む世界経済全体にゴルディロックスの状態が訪れているとする分析も登場しています(参考:日本経済新聞2017年12月20日「メリル調査、機関投資家の現金比率が上昇 株に『買いシグナル』か」)。

宇宙のゴルディロックス

余談ながら「ほどよさ」を意味するゴルディロックスは、経済以外の分野にもよく登場します。発達心理学、医学、通信、数学などの分野でも、「ほどよさ」を意味するゴルディロックスが登場するのです。

なかでも有名なのが、宇宙・天文分野におけるゴルディロックスではないでしょうか。

宇宙のなかで生命が誕生するのに適した環境のことを、専門用語でハビタブルゾーン(habitable zone:居住可能区域ぐらいの意味)と呼ぶのですが、この用語にはゴルディロックスゾーン(Goldilocks zone)という別名もあるのです。

例えばある惑星系において、恒星(太陽)に近い惑星は表面温度が高くなりすぎます。逆に恒星から遠い惑星は、表面温度が低くなりすぎます。その中間であるほどよい場所、いいかえると適温の場所こそが、生物が存在するのに適したゾーンということになります。

「金髪の娘」が「適温」になった由来

さてここまでゴルディロックスの意味が「ほどよさ・適温」であることを説明しました。

しかしゴルディロックスの「おおもと」の意味は、「ほどよさ・適温」などではありません。再び研究社・新英和中辞典のgoldilocksの項目を参照すると、最初の意味として次の説明が登場するのです。

「金髪の(きれいな)人、金髪娘」。goldilocksのうちgoldiの方が金(gold)、locksが髪を意味するため「金髪の人(娘)」となるわけです。なお辞書の説明には登場しませんが、この言葉は「おてんば」のニュアンスも含んでいるようです。

ではどうして「金髪の娘」が「ほどよさ・適温」を意味するのでしょうか?

その謎は、英国に古くから伝わる童話『Goldilocks and the Three Bears(ゴルディロックスと三匹の熊)』に隠されています。日本では『3びきのくま』というタイトルで知られる童話です。もともと英国の民間伝承であった物語を、1837年に詩人のロバート・サウジー(1774-1843)が再話。さらに『戦争と平和』などの作品で知られるロシアの作家レフ・トルストイ(1828-1910)が再話を行ったことでも知られます。日本でも絵本に登場する定番のストーリーとして、この題名を知っている人もいることでしょう。

その物語の冒頭に「金髪の娘」と「ほどよさ・適温」を結びつけるエピソードが登場するのです。物語の主人公は、金髪の女の子と、大・中・小の熊たち(物語によっては熊のパパ、ママ、子どもの家族とされることもある)。森の奥にある熊たちの家が、物語の舞台です。

ほどよい温度の「おかゆ」

「三匹の熊は、ある朝、朝食のおかゆを作りました。そのおかゆが熱かったので、おかゆが冷めるまでしばらく散歩することにしました。その留守中の熊の家の前を、お腹をすかせた金髪の女の子が偶然通りかかかったのです。つい家の中に入ってしまった女の子は、テーブルの上におかゆの入った3つの皿が置いてあるのを見つけました。そこで女の子はそのおかゆを、口につけてしまったのです。大きなお皿のおかゆは、とても熱くて食べられません。中ぐらいのお皿のおかゆも、まだ熱くて食べられませんでした。しかし最後に口にした小さなお皿のおかゆは『ほどよい』温度だったのです。女の子は、その丁度いいおかゆを全部食べてしまいました」

そう。童話の中で、金髪の女の子がほどよい温度のスープを飲んでしまったことこそが、ゴルディロックス=ほどよさ・適温という連想の元ネタであったわけです。これが巡り巡って「経済や相場の適温状態」を意味するようになったんですね。

物語の続き

さて筆者は冒頭「ゴルディロックス相場の行く末を、言葉の観点で予想してみる」と書きました。というのも「三匹の熊」の続きに、相場の行く末を想像させる展開が待ち受けているのです。

「おなかが一杯になった女の子は、近くの椅子に座ろうとしました。皿と同じように椅子も3つあります。一番小さい椅子が丁度良かったので座ってみると椅子が壊れてしまいました。眠くなった女の子はベッドで眠ろうとしました。皿や椅子と同じようにベッドも3つあります。このうち一番小さいベッドが丁度良かったので、女の子はそこで眠ってしまいました。そうこうしているうちに三匹の熊が家に戻ることに。家の中を荒らされていることを知った熊たちが家の中をおそるおそる見回っていると、寝室で女の子と鉢合わせ。女の子はあわてて逃げ出してしまいました」

この物語、どうみても女の子が加害者で、大・中・小の三匹の熊は被害者ですよね。トルストイは当時のロシアの子供の行儀の悪さを、物語のなかで諌めるつもりだったのかもしれません。

ともあれここで筆者が注目したいのは「女の子によって心地よい時間は長く続かなかった」ということです。あくまで筆者の個人的な見方ですが、経済的文脈でゴルディロックスという言葉を使う人は、相場の「継続可能性」を心配しているがゆえに、ゴルディロックスという言葉をわざわざ選択しているように思えてなりません。

相場と熊

相場の用語のひとつに「ベア相場」という言葉があります。弱気相場(下落傾向にある相場)を意味する言葉です。このベアとは、bear、すなわち熊のこと。熊が前足を振り下ろす様子が語源との説もあるそうです。

ベア相場の熊はゴルディロックスの熊と直接関係ありません。ただ適温相場と弱気相場の双方に、熊が潜んでいることは興味深く思えます。「ゴルディロックス相場のそう遠くない未来にやってくるベア相場を」つい想像してしまう筆者は、心配性が過ぎるかもしれません。

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