2017/12/08 16:00

【山内昌之氏書評】個性と意志力で家綱を補佐した保科正之

小池進・著『保科正之』
小池進・著『保科正之』

【書評】『保科正之』/小池進・著/吉川弘文館/2300円+税

【評者】山内昌之(明治大学特任教授)

 保科正之は三代将軍家光の庶弟として、甥の四代家綱の治世を補佐した名宰相である。すでに作家の中村彰彦氏は正之の事績や逸話について好著をいくつか出している。しかし、学界レベルでは正之の研究は乏しかった。今回著者によって、正之は、家光在世中に幕府行政へ関与した形跡はなく、家綱将軍襲職後に家光の「託孤の命」により、老中の上にあって重要な幕議に参画したことが確認された。

 家康の孫だけに、なかなかに強い個性と意志力の持ち主だったことは史料を通して伝わってくる。たとえば、朱子学と神道について並の学者も及ばぬ造詣をもつ正之は、山鹿素行が朱子学を実生活の役に立たぬ机上の空論と批判したことを許せず、激しい言葉で素行を糾弾し赤穂に流罪処分とした。

 武家諸法度の改定に際しても、殉死の禁を明文化するように厳しく主張し、主君への忠義の発露でもある殉死を文章で禁じるのはいかがなものかという反論に遭っている。しかし老中阿部忠秋あたりの慎重な議論を聴くうちに、禁を口頭伝達することで妥協したあたりに、政治家として成熟した人格を感じるのだ。著者は、大老職にも後見型大老や執事系大老と、元老型大老と三種あり、正之はさしずめ後見型だと位置づける。

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