2019/01/17 07:00

官民ファンド「高額報酬」「辞任」騒動が間違えていること

経営コンサルタントの大前研一氏
経営コンサルタントの大前研一氏

 日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が逮捕された件が注目を集めている昨今、役員報酬について取り沙汰されることが増えている。高額すぎると問題視されることが多いが、果たしてその議論は妥当なのか。取締役がいっせいに辞任した官民ファンド「産業革新投資機構」の報酬問題をもとに、経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。

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 昨年暮れ、官民ファンド「産業革新投資機構(JIC)」の田中正明社長(元三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長)ら民間出身の取締役9人全員が辞任した。経営陣への高額報酬や国の経営関与のあり方などをめぐって所管官庁の経済産業省との対立が決定的になり、三行半を突きつけた格好である。

 とくにクローズアップされたのは高額報酬問題だ。報道によると、昨年9月に発足したJICは当初、経産省から経営陣の報酬総額が業績によって最大で年1億円を超える案を示され、その提案通りに報酬規定の大枠を決めた。ところが、政府内で高額報酬に対する批判が高まり、経産省は提案を白紙撤回して「報酬を3150万円に減額する」「公的資金の運用益から成功報酬は出さない」と通告。この手のひら返しに田中社長が激しく反発し、経産省と財務省出身の常務2人を除く取締役が総退陣する異常事態となったのである。

 記者会見で田中社長は「経産省による信頼関係の毀損行為が9人の辞任の根本的な理由だ」とした上で、「私自身は固定部分が1550万円で、短期業績報酬部分が4000万円。ベンチャーキャピタルなどの世界では8000万円、9000万円のレベルだという調査もあり、それなりに抑えたレベルだと思っていた」と説明した。

 この田中社長の指摘は間違っていない。最大で年1億円超と聞くと日本の一般サラリーマンの感覚では高額に思えるかもしれないが、そんなことは全くない。ベンチャーキャピタルの役員やファンドマネージャーは、資金の運用結果さえ良ければ、報酬はいくらでもかまわない。

 たとえば、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」を創業した著名起業家のマーク・アンドリーセン氏とベン・ホロウィッツ氏は、おそらく年100億円くらいもらっているだろう。経営者は生み出した価値に見合った報酬を得る──それが世界の常識なのである。

 JICに対する高額報酬批判では、経営陣の年間報酬が首相(約4000万円)や日銀総裁(約3500万円)を上回るという政府・公的機関との差も問題になった。しかし、この議論も間違いだ。むしろ閣僚や役人の給料を、もっと高くすればよいのである。

 なぜか? 分かりやすい例は中国だ。中国共産党の機関紙『人民日報』(2015年1月)によると、習近平国家主席の年収は13万6620元(約225万円)にすぎない。共産党一党支配の下では公僕の給料は低く抑えられる。そのため、権限を持っている役人の汚職が蔓延するのである。

 日本の場合は人事院勧告によって国家公務員の給与を民間企業の従業員の給与水準と均衡させる仕組みになっているから、中国のような構造的な腐敗はない。だが、トップクラスの給与は民間企業のトップに比べると低いので、私はもっと引き上げるべきだと思う。

 ただし、条件がある。すでに本連載で述べてきたように、AI(人工知能)隆盛の時代に、最も不要になるのが公務員の仕事である。つまり、公務員の仕事の大半は決められたことをやる定型業務だから、AIやロボットへの移行を推し進めてクリエイティブな仕事を担う人だけにすれば、公務員の数は少なくとも10分の1に削減できるはずだ。それを実現するのが政治の仕事であり、それでコストを削減できたら、その仕事に見合うだけ給料を上げればよいのである。たとえば、101兆円の予算の命運を決める首相が、その1万分の1の10億円もらっても、コストを5兆円削減してくれれば安いものだ。

 ところが、いま政府がやっているのはそれとは正反対のことだ。国家公務員の定年延長やマイナンバー制度など古いシステムを温存し、お手盛りでコスト(=税金)を増やす。その愚かさには唖然とするしかない。

 結局、今回のJICの問題は、経済の「け」の字も、投資の「と」の字も、リスクの「リ」の字も知らない政治家と役人がファンドを作っていること自体が間違いなのだ。JICはもとより、官民ファンドはすべてさっさと廃止すべきである。

※週刊ポスト2019年1月18・25日号

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