2019/02/18 16:00

大坂なおみ動画騒動から考える 錯綜とした現実と人種差別

評論家の呉智英氏
評論家の呉智英氏

 大坂なおみのPR動画をはじめ、「黒人」や「有色人種」に関して考現学の観点から様々な事例をとりあげてみると、錯綜とした現実が見えてくる。評論家の呉智英氏が考えた。

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 テニス選手大坂なおみのキャラを使ったネットのPR動画が批判されている。大坂はハイチ系米人の父と日本人の母との混血である。ことわっておくが、日本語の「混血」を差別表現として排斥し、英語の「ハーフ」を強制する厚顔なアジア蔑視の風潮に、私は断じて与しない。でも、人権思想ってもともとそういう偽善的差別思想だよ、というのなら話は別だが。

 本題に戻って、この動画だ。大坂の顔がほとんど白人のように白い。“忖度”が働いたらしい。彼女が黒人系だと思われたら失礼になるからと。動画の製作者は恥ずべき連中だ。批判も当然である。

 同じような例を二〇一七年十一月十四日付朝日新聞が報じている。

 ハリウッド女優ルピタ・ニョンゴは、英国の雑誌の表紙写真で縮れ毛を修正され、抗議して謝罪させた。ニョンゴは両親がケニア人。肌は黒く髪は縮れている。それを「欧州中心の概念に当てはまるように修正」されたことに抗議したのだ。彼女の抗議も当然である。

 この記事にはオチもついている。この写真を撮ったカメラマンは、在米のベトナム人だというのだ。同じ有色人種としての“忖度”があったのだろうか。

 それにしても「黒人問題」は根が深く奥が深い。

 二〇一四年一月十八日付中日新聞に刀剣専門誌「銀座情報」二月号の広告が載った。その「今月のトップ情報」が「くろんぼ切りの異名で知られる太刀 景秀」。

 新聞紙面に「くろんぼ」という言葉が出るのは何十年ぶりだろう。というより、出たことがあるのか。遠藤周作『黒ん坊』(毎日新聞社、一九七一)と十一年後のその角川文庫版の時は、どうだったか。書評は出たのだろうか。

 遠藤の『黒ん坊』は『信長公記』にも記述のある織田信長のもとに南蛮人が連れてきた黒人の話である。名刀くろんぼ切りは、黒人を切ったという説もあるが、黒い妖怪、あるいは猿の異称とする説もある。後二説の方が本当らしい。

 もっと複雑な話もある。二〇一二年十二月十八日付朝日新聞の外報部記事だ。

 南アフリカの人気モデル、D・フォレストは「透き通るような肌」の女性だ。子供の頃はからかわれた。しかし「私だって黒人よ」と言い返した。彼女は色素欠乏のアルビノ(白子)なのだ。差別を乗り超えて世界的モデルとなった。同じくアフリカのタンザニアでは「アルビノ狩り」が横行している。アルビノの手足を切り落として呪医に売るのだ。一人分の身体が数百万円になる。万病に効くという迷信のためだ。残酷極まりない。

 私は考現学の観点から注目しているのだが、喫茶店やスナックの店名に、どういうわけか「クロンボ」という名前が散見する。私の知るだけでも名古屋で二軒、東京新宿に一軒、伊豆に一軒、熊本に一軒ある。差別の意図の命名とは思えず、千客万来のラッキー名だろうが、理由が分からない。

 我々はこの錯綜した現実の中で人種差別とどう闘えるのか。

●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。

※週刊ポスト2019年3月1日号



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