2019/02/21 16:00

【嵐山光三郎氏書評】中国で1500年以上著され続けた怪異譚集

『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』
『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』

【書評】『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』/井波律子・編訳/平凡社/2400円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)

 中国で千五百年以上にわたって著されつづけた、超現実的な怪異譚集。妖怪、鬼、亡霊、死者がマスコット人形みたいにゴロゴロ出てくるから、ドキドキ。よくもまあシュールな話を思いつくなあ、こんなのアリ? と仰天して、そのシーンを読み返してしまう。

 陶淵明(とうえんめい)といえば「帰去来辞」で故郷の田園に帰った文人として知られるが、陶潜の名で「地獄の沙汰も『腕輪』次第」という怪談を書いた。夫の遺体がむっくり起きあがって、妻の金の腕輪をつけてくれ、と頼む。冥土の役人に袖の下を渡すためである。「常春の異界」は、死者の極楽旅行記で、「浦島太郎」の龍宮城に通じる。こんな異界ならば、死ぬのが愉しみになる。

 読みながら膝を打ったのは、「籠のなかの小宇宙」で作者は呉均(四六九~五二〇)。書生が口から若い女を吐き出し、若い女が聡明そうな若い愛人を吐き出す。中国古代の妖怪譚、仙人譚はファンタジックな迷宮をぐるぐる廻る。書生の肉体が、この世の裏切りでできているという不思議。

 唐代の傑作は「枕中記」(フシギな枕の話。「邯鄲(かんたん)の夢」で知られる)と「美女になった狐」(狐の化身の美女と人間の男の恋)、恋する少女の分身の術「離魂記」など、奇想天外な物語展開である。

 宋代の「居酒屋の娘」は、酒を飲んだ娘に祟られる怖い体験。鬼気がつよい女に惚れられたら西方三百里の外へ逃げないと死んじゃいます。明代に入ると「牡丹灯籠」(剪灯新話」)の怪談。三遊亭円朝がアレンジして「怪談牡丹灯籠」となった。こういう奇想小説26篇を井波律子さんが翻訳し、小気味のいい解説をつけた。26篇のうち17編が新訳である。

 井波さんは『論語』『三国志演義』『水滸伝』などの訳者として知られるが、奇想小説が好きで、楽しみながら自在に編訳し、そのワクワクした呼吸が伝わってくる。この本を英訳して、トランプ大統領に読ませたら「トニカク中国人スゴイネ、ケンカシナイホウガイイヨ」と思うかな。トランプ氏は読解力がないからムリか。

※週刊ポスト2019年3月1日号

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