2019/02/24 16:00

サッチーの口癖「大丈夫よ」はストレスに勝つ万能キーワード

おしどり夫婦として知られた(時事通信フォト)
おしどり夫婦として知られた(時事通信フォト)

 人生で最も大きなストレスは何だろうか。アメリカの精神科医、トーマス・ホームズらの研究によれば、ライフイベント(人生の出来事)のうち最も心に大きな負担のかかる出来事は「配偶者の死」だという。

 たとえば、ホームズらが作成したライフイベント・ストレス表では、高い点数の出来事(遭遇すると心にかかる負担の程度が大きいもの)として、次のようなものが挙げられている(参考:小杉正太郎編著『ストレス心理学』)。

「配偶者の死 100」
「拘留 63」
「個人のけがや病気 53」
「解雇・失業 47」
「1万ドル以上の抵当(借金) 31」

 この数字について、ストレス・マネジメント研究者で、『「首尾一貫感覚」で心を強くする』著者の舟木彩乃氏はこう解説する。

「ホームズらの研究は今から半世紀以上も前のもので、ストレスを受ける度合いは生活環境や個人差も大きいので、この数字自体は絶対的なものではありません。それでも、けがや病気、失業や借金といった心理的負担の大きい出来事と比較しても、配偶者を失うことのダメージがいかに大きいかを示している一例だと言えるでしょう」

 配偶者は、最も身近にいる理解者であり、さまざまな課題やトラブルを解決する際の支えになってくれる存在でもある。そんな配偶者の死は、日々の不安やストレスに立ち向かう際の“よりどころ”が失われることを意味する。そのため、他のライフイベント以上に大きな喪失感につながるのかもしれない。

◆「なんとかなる」という安心感

 最近も、妻を失った俳優やタレントが葬儀で悲しみに満ちた心情を吐露したり、夫を失った妻が沈痛な想いを綴った手記が話題になったりしている。

 その中でもとくに印象深いのは、プロ野球の野村克也元監督が、「サッチー」の愛称で親しまれた妻の沙知代さんを亡くした際に見せた意気消沈ぶりだろう。

 二人は、球界きってのおしどり夫婦として知られ、現役時代、「野球をとるか女をとるか」と迫られた野村元監督が次のように答えたエピソードは有名だ。

「仕事は世の中にいくらでもある。でも、沙知代は世界に一人しかいない」

 そんな最愛の妻に先立たれた野村元監督の精神的なダメージの大きさは想像に余りあるが、ストレス・マネジメントの観点から見ても、沙知代夫人の不在は野村元監督にとって大きな痛手になっているのではないか、と舟木氏は推測する。その理由は、沙知代夫人の口癖だった「大丈夫よ」という言葉にある。

「野村元監督は、生前の沙知代さんについて『どんなことが起きても“大丈夫よ”、最後の言葉も“大丈夫よ”だった』と、インタビューで答えています。沙知代さんといえば、サッチーの愛称で親しまれながら、一方でその強気な発言などからさまざまな形で世間を騒がせてきました。その彼女が言う『大丈夫よ』からは、“今までなんとかなってきたんだし、これからだってなんとかなるわよ”という強気の姿勢がうかがえます。

 これは、別名ストレス対処力とも呼ばれる『首尾一貫感覚』の一つ、『処理可能感』の高さに通じるものです。この『大丈夫』という言葉は、大きなストレスを抱えていたり、精神的に弱っていたりする場面で威力を発揮する、万能のキーワードなのです」(舟木氏)

◆陰で支えた最高のサポーター

 たとえば、勉強や仕事で悩んでいる時に、先生や上司、先輩などから「大丈夫」と言われると、誰しもそれだけで心強く感じるのではないだろうか? もちろん、誰に言ってもらえるかによって印象も違ってくるが、それまで自分の悩んでいたことが小さなことのように感じられ、急に元気が出てきた──といった経験をした人も多いだろう。

 そんな「処理可能感」を含めたストレス対処のカギとも言われる「首尾一貫感覚」は、大きく3つの感覚からなっている(参考:舟木彩乃著『「首尾一貫感覚」で心を強くする』)。

■把握可能感(=「だいたいわかった」という感覚)──自分の置かれている状況や今後の展開を把握できると感じること。

■処理可能感(=「なんとかなる」という感覚)──自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると感じること。

■有意味感(=「どんなことにも意味がある」という感覚)──自分の人生や自身に起こることには意味があると感じること。

 舟木氏によれば、これら3つの感覚を高めることで、不安やストレスを軽減することができるようになるという。そして、沙知代夫人の口癖でもあった「大丈夫」は、この「処理可能感」を高め、安心感を与える効果があると考えられるという。

 名監督もまた、ストレスと無縁ではいられない。「世界に一人しかいない」最愛のパートナーだった沙知代夫人は、激務をこなす野村元監督のストレスを軽減させ、陰で支えてくれた最高のサポーターだった。
 
「大丈夫よ」──今も沙知代夫人は、天国からそう夫を励まし続けているに違いない。

【プロフィール】舟木彩乃(ふなき・あやの)/ストレス・マネジメント研究者。10年以上にわたってカウンセラーとしてのべ8000人以上の相談に対応。現在、筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻(3年制博士課程/ストレス・マネジメント領域)に在籍。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』。



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