2018/07/08 20:00

カンヌで『万引き家族』と争った 珠玉のライバル作品の魅力をご紹介!

批評家が絶賛すると無冠?
そんなジンクスを覆しての受賞


受賞後、日本のプレスから囲み取材を受ける是枝裕和監督。パルムドールのトロフィー(ショパール製)は非常に重いそうで、途中から置いて話していた。

 ようこそ、カンヌへ!

 今年もカンヌ国際映画祭に行ってきた。是枝裕和監督の『万引き家族』が最高賞パルムドールを受賞したというニュースは、日本でも大きく報道されたのではないか。もしくは同時期の西城秀樹や朝丘雪路の訃報の方が大きかったのだろうか。

 カンヌにいると実はそこらへんのところが、よくわからないのが正直なところ。ネットを見ているだけでは、やはりある程度、ざっくりとした感じしかわからないのだ(誤解のないように言うと、私は秀樹の大ファンだったので、カンヌでも秀樹ロスにうなされた)。

 一方、現地では大ニュースだ。フランスの、そしてヨーロッパの大きなお祭りなのだから。言うなれば、映画のワールドカップ。そこで優勝したのだから、是枝監督への注目度も大きく上がる。


是枝監督受賞の瞬間。当日、会場に呼ばれると、受賞は確定だが、何を受賞したかは知らされないため、かなりドキドキしたそう。

 授賞式で、是枝監督の名前が呼ばれたときは「キャー!」と声をあげて大喜びしてしまった。私が映画に関わったわけでも何でもないけど、やっぱり応援している作品が受賞するのは素直に嬉しい。

 是枝監督、改めておめでとうございます。当日、ムービープラスで会場から生中継レポをやったので、観てくれた方もいたかしらん。かなり興奮してしゃべっていた気がする。


シアター・ルミエールでの授賞式にはプレスパスでは入れないので、私たちプレスはすぐ隣の第二会場シアター・ドビュッシーで生中継を見ていた。それじゃ、日本で中継見てるのと一緒じゃん、と言われそうだが、記者たちのリアクションがすごいのだ。

 もっとも、『万引き家族』の受賞はまったく意外ではなかった。とにかく観終わった瞬間からガツンと来たし、各紙のレビューもかなり良く、映画業界誌の星取り表(カンヌでは毎日、仏「フィルム・フランセーズ」、英「スクリーン・インターナショナル」他、いくつもの業界誌が会場の内外で無料で配られる)は、どれも高得点。

 ただ、批評家が絶賛すると無冠に終わることも多く、近いところでは2016年の『ありがとう、トニ・エルドマン』が絶賛の嵐(私も大絶賛)で星取り表でも高得点だったが、公式な賞は何も受賞できず(そのお詫びなのか、翌年には監督のマーレン・アデが審査員に選ばれていた)。実は、同じことが今年も起きていたのだ。それは後述しよう。


マダムアヤコと同室のライターさんによると、是枝監督のパルム受賞に大興奮したその晩、マダムは寝言で「ヒデキ……」とつぶやいていたらしい。写真はマダムが高校生の頃、「明星」の企画に当たって、秀樹に会った時の記事。超カッコよくて、とっても気さくだった。「モーニングサラダ」時代。合掌。

 さて、『万引き家族』は、『誰も知らない』以来の是枝作品の集大成であり、その素晴らしさと凄みは、もう公開されているのでぜひ映画館で確かめてほしいのだが(ちゃんと論評しろよ、と言われそうだがまずは先に進む)、カンヌのような国際映画祭で受賞するには、映画そのものの力はもちろん、他にもいくつか重要な要素がある。

 ちょっと偉そうだけど、『万引き家族』だけを観たのでは、なぜこの映画が「今年のパルムドール」を獲得したのかは分析できないのだ。だから、カンヌまで実際に行く甲斐があるわけよ。ま、自腹だけど(恨みがましくてすみません。だってユーロが高いんだもん!)。

コンペティション部門の
候補に入るだけでも大変!


今年の審査委員長は、ケイト・ブランシェット。ファッションもカッコイイが、それだけでなく発言、行動も含め、ここ数年の委員長の中で、一番存在感があった。

 ということで、どうして『万引き家族』が最高賞を受賞したのか、カンヌに15回通っているマダムアヤコなりに分析してみよう。

 その前に少しおさらい。パルムドールを受賞するには、コンペティション部門の候補に入らないとならない。コンペティション=競争なので、ライバルがいるわけだ。だから「映画祭はいいが、映画に順位を付けられるのは嫌いだ」と公言するウディ・アレンは、毎回コンペ外を意味する「アウト・オブ・コンペティション」部門にしか出品しない。

 逆に、クリント・イーストウッドは、カンヌに出品する際はほとんどコンペ。10年前に『チェンジリング』で出品したとき、「そこにコンペがあるなら、挑戦しない手はない」と、まるで登山家のようなことを言っていた。

 参加と書いたが、勝手に参加できるわけじゃなく、すでにコンペに入った時点で、映画祭サイドにセレクションされている。「みんな落ちたら言わないから、わからないけど、入っただけでもすごいんだよ」という旨をかつて北野武が言っていたが、それはそのとおり。今年も下馬評では名前が上がっていたものの、コンペから漏れた大物の映画がいくつかあった。

 昨年、『それから』がコンペ入りし、コンペ外でも『クレアのカメラ』が上映されたカンヌの常連であるホン・サンスも、今年撮った新作が入らなかったことを認めている。潔すぎ。まあ、蓋を開けたら「あれれ?」という作品が入っていることもあるが、映画祭サイドが未完成のものを観て判断してしまうこともあるようだ。

 では、コンペ作品は演出や演技、技術面など、どれも一級の作品が肩を並べているということを大前提として、何が受賞作とそれ以外を分けるのか。重要な決め手となるのは、主に3つ。競合作品は何か。審査員は誰か。そしておそらく一番大切なのが、今が反映されているか、だと思う。


監督のスパイク・リーを挟んで、主演のジョン・デヴィッド・ワシントン(デンゼルの息子)と相棒役のアダム・ドライバー。『ブラッククランズマン』のスペルはBLACKKKLANSMAN。KKK(クー・クラックス・クラン)が題名に織り込まれている。

 今年は『万引き家族』を含めて、コンペ作品は21本。

 中でもプレスや関係者の間で評価が高かったのは、『万引き家族』に加え、グランプリを受賞したスパイク・リー(米国)の『ブラッククランズマン』(白人至上主義集団KKKに潜入捜査をした黒人刑事の実話/以下原題または英題)、監督賞を受賞したパヴェウ・パブリコフスキ(ポーランド)の『コールド・ウォー』(冷戦中の破滅的な恋をモノクロで見せる)、特別パルムドールを受賞したフランスの巨匠ジャン=リュック・ゴダールの『イメージ・ブック』(全編過去の映画、ニュース映像のモンタージュで、現代アラブ社会と西洋社会について考える)、キリル・セレブレンニコフ(ロシア)の『レト』(伝説のロッカー、ヴィクトル・ツォイの若き日を描く)、イ・チャンドン(韓国)の『バーニング』(村上春樹の短編「納屋を焼く」をユ・アイン、スティーヴン・ユァンで映画化)などなど。


『バーニング』の監督イ・チャンドン、主演のユ・アイン(『ベテラン』)と、アメドラ「ウォーキング・デッド」で人気のスティーヴン・ユァン。米国育ちのスティーヴンは、韓国語での演技はほぼ初めて。

 なんだか、どれもすごそうでしょう? でもでも、ロシア版『ベルベット・ゴールドマイン』の趣もあって私の大好きだった『レト』、そして特に批評家の絶賛を浴びていた『バーニング』は無冠に終わってしまったのだ。

 さて長くなったので、続きは次回に。


石津文子 (いしづあやこ)

a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。執筆以外にトークショーや番組出演も。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。長嶋有さん主催の俳句同人「傍点」メンバー。俳号は栗人(クリント)。「もっと笑いを!」がモットー。片岡仁左衛門と新しい地図を好む。

文・撮影=石津文子

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