2018/10/23 20:00

2時間ドラマ冬の時代に振り返る 「土ワイ」「火サス」の遺産とは?

 一冊の本が、ここのところマニアックなTVウォッチャーの間で話題を呼んでいる。その名は『2時間ドラマ 40年の軌跡』(東京ニュース通信社)。「土曜ワイド劇場」「火曜サスペンス劇場」をはじめとする2時間ドラマの歴史を、制作現場のスタッフによる証言や各局の内部資料などを用いて見事に掘り下げた快著だ。

 電通、NHKなどを経て現在は阪南大学教授を務める著者の大野茂氏と語り合うのは、2時間ドラマファンを自負するライター・評論家の速水健朗氏。さあ、「土ワイ」や「火サス」のディープな世界へようこそ!


▼talk05

2時間ドラマのノウハウは死なない


大野茂氏が『2時間ドラマ 40年の軌跡』を執筆することになったきっかけは、「TVガイド」などを発行する東京ニュース通信社の地下倉庫で大量の資料と出会ったことだった。

速水 2000年代後半ぐらいからばたばたと人気シリーズが終了し、2時間ドラマも全盛期を終えた感じになってきます。とはいえ、2時間ドラマはなくなりはしませんよね。僕は最近でも「赤い霊柩車」シリーズとかは新作やってると観ちゃいますけど。

大野 消えることはないんです。とはいえ、火サスは2005年に枠がなくなり、土ワイもなくなったんです。火サスは当時終わるにあたって話題になりましたけど、土ワイが2017年に日曜に移ったことは、さほど話題になりませんでした。

速水 あ、それ知りませんでした。

大野 2時間ドラマを愛している方々も、さすがに日曜の朝から殺人事件は観たくないよとおっしゃっていたと。それで日曜の枠も今年でなくなったんです。

速水 2時間ドラマの最老舗が消えたのに、僕らはあまりにあっさりと受け止めてしまってますね。


速水健朗氏は、『2時間ドラマ 40年の軌跡』を読んで非常に感銘を受け、複数の新聞や雑誌に書評を寄稿した。

大野 2時間ドラマは冬の時代ですけど、昨今はミステリの連続ドラマは、むしろ増えてます。これは2時間ドラマの制作のノウハウとか、女優さんたちの使い方なんかは、うまく活かされているということだと思います。「科捜研の女」に代表されるような。プロデューサーなんかは同じ人がスライドしてやっていたりするので。

2時間ドラマ版「アベンジャーズ」

速水 僕はかつて脚本のスクールに通っていたことがあるんですけど、それは2時間ドラマやりたいなって思ってたんですよ。ちなみに当時考えてたアイデアは、いろんな2時間ドラマの主人公が集結する、マーベルで言う「アベンジャーズ」みたいなやつなんですけど、冬の時代の今だからこそ、それは可能だったりしません?


最近はもっぱらヨガの達人としてメディアに取り上げられる片岡鶴太郎。土ワイに始まる「終着駅」シリーズには、96年から主演し続けている。

大野 実は、単発ではあるんですよ。片岡鶴太郎さんの森村誠一原作「終着駅」シリーズの牛尾刑事と小林桂樹さんの「牟田刑事官事件ファイル」シリーズの牟田刑事官と水野真紀さんの「事件記者冴子の殺人スクープ」シリーズの川村冴子が登場する合体作品とかは、土ワイで実現しています。

速水 そんな企画あったんですか。ワンポイントで捕まえたタクシーの運転手が渡瀬恒彦だったり、泊まった宿の女将が東ちづるだったりしたら超豪華ですよね。



左:およそ四半世紀にわたって牟田刑事官を演じた小林桂樹は、2010年に86歳で逝去した。なお、父は警察官であった。
右:水野真紀は、週刊誌記者の川村冴子を熱演。かつて正月の風物詩として親しまれた「スチュワーデス刑事」も思い出深い。

大野 原作者が異なるシリーズを合わせるのはいろいろ難しそうですけど。

速水 もしくは時代に即したものをもう一度作るか。

大野 西村京太郎さんが言っていたんですけど、新幹線とか鉄道が高速化して車両が密室化すると、窓から死体を投げたりとか、昔はできたことができなくなった。

速水 窓から身代金を投げたりするのは定番でしたけど、新幹線ではできないですね。はめ殺しになっちゃってて。

大野 昔みたいな複雑なダイヤも新幹線時代にはシンプルになってしまってます。

速水 鉄道のトリックはなかなか難しい時代になっているのか。

大野 それとどんな奇抜な犯罪を思いついても、携帯電話、スマホ時代には通用しなかったりもしますよね。

速水 スマホで録画されて配信されちゃったりしたら犯人もやってられないですね。

大野 時代が進化すると、それに合わせて原作を産み出すのも限界はあるでしょう。

2時間ドラマを研究する意義とは

速水 西村京太郎先生には、ぜひリニアモーターカーを舞台に2時間ドラマの原作になる小説を書いていただきたいですね。

大野 それですよね。最新技術のリニアモーターカーで移動することによってなし得る犯罪というのはあるはずです。

速水 2時間ドラマは、戦後の観光とか交通などの発展を、ある種の記録としてとどめている文化じゃないですか。となると次世代の乗り物の登場を描くことはジャンル的な義務ですよ。


もちろんリニア中央新幹線の開通そのものはだいぶ先のことであるが、西村京太郎は、リニア新幹線計画が殺人事件の鍵を握る小説『陰謀は時を超えて リニア新幹線と世界遺産』(文春文庫)をすでに発表している。さすがだ。

大野 2時間ドラマは、高度経済成長後の日本社会の都市と地方の関係とか、様々なものを無意識に切り取ったメディアでもあるんですよね。

速水 あまりにも膨大で、かつ大衆文化過ぎて、これまで誰も研究材料として捉えることのなかった分野じゃないですか。大野さん、本当にいいところに目をつけたと思います。

大野 誰もやらなかったんです。あと、たまたま大量の資料が廃棄されそうなところを引き受けることになった経緯があって。確かにおっしゃるとおり、これほどおもしろいテーマもないんですけど、とにかく掘り起こすために必要な資料が膨大にあったので……。

速水 本当にたいへんだったと思います。映像や紙の資料だけでなく、オーラルヒストリーとして関係者の話を集めたのも並大抵の労力じゃないですよね。

大野 最初は皆さんインタビューに応じられないって断ってくるケースが多かったんです。黎明期に活躍されていた皆さん、結構なお年になっていて、中には入院されていたり、あまりうまく話せなくなっていたりというのもあって。すでに他界されている方もいますし。

速水 けど、形にしておかなければ残らない歴史でもありますよね。

大野 そうなんです。テレビ局で偉くなるのは、主流の報道局とか編成局とかの人たちなので、2時間ドラマに人生を捧げた方たちって、会社からは冷遇されているんですよ。なので話を聞かせてくださいってお願いしても「エッ、2時間ドラマの話を聞きたいの? 連続ドラマの間違いだろ?」って。


この対談の本篇終了後も、お気に入りの作品の具体名を挙げながらの2時間ドラマ談義はしばらく続いた。

速水 2時間ドラマって、下に見られてしまっているんですね。大衆的な文化故に、下に見られてしまうっていうことですか。

大野 そう、「俺たちはB級だからさ」って自虐的におっしゃるんです。でもおじいちゃんたち、のちに「いろいろ取材してくれてありがとう」とか「あの時ちょっと言いすぎちゃって、そのまま本になっちゃったけど大丈夫? 後輩に迷惑かけないか?」って手紙をくれたり電話をくれたりするんですよ。そういう手紙、宝物として大事にとっておいてますけど。

速水 初めて取材されるからうれしいんでしょうね。いい話を聞かせてもらいました。2時間ドラマという分野の研究が、これを機にもっと深まるといいですよね。


『2時間ドラマ 40年の軌跡』

著・大野 茂
発行 東京ニュース通信社
発売 徳間書店
1,500円+税


大野 茂(おおの しげる)

阪南大学教授(メディア・広告・キャラクター)。1965年東京生まれ。慶応義塾大学卒。電通のラジオ・テレビ部門、スペースシャワーTV/スカパー! 出向、NHKディレクターを経て現職。著書に『サンデーとマガジン』(光文社新書)がある。


速水健朗(はやみず・けんろう)

ライター・評論家。1973年金沢市生まれ。TOKYO FM「速水健朗のクロノス・フライデー」などに出演中。近著に『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)、『東京β:更新され続ける都市の物語』(筑摩書房)など。

構成=速水健朗
撮影=深野未季
写真=文藝春秋

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