2018/11/22 07:00

クレイジーケンバンドのあの名曲に ヒントを与えた松任谷由実の作品は?

 東洋一のサウンド・マシーン、クレイジーケンバンドを率いる横山剣さん。その常人の域を超えた旺盛なクリエイティヴィティにインスピレーションを与える源泉のひとつが、魅力的な女性たちの存在です。これまでの人生で恋し憧れてきた、古今東西の素敵な女性について熱く語ります!


#006 松任谷由実(後篇)


(C)文藝春秋

松任谷由実(まつとうや ゆみ)

1954年、東京・八王子生まれ。72年にシングル「返事はいらない」で荒井由実としてデビュー。76年には松任谷正隆と結婚し、松任谷由実に改名。「ひこうき雲」「あの日にかえりたい」「守ってあげたい」「恋人がサンタクロース」「真夏の夜の夢」など、無数の名曲を世に放つ。これまで発表したオリジナルアルバムは全38作品。2018年、第66回菊池寛賞を受賞。

 1970年代からずっと憧れ続けていたユーミンに直接お目にかかることができたのは、21世紀になってすぐのこと。

 時期は少しずれますが、僕とユーミンは「オールナイトニッポン」の違う時間帯をそれぞれ受け持っていました。その縁もあって、いろいろなラジオ番組で共演する機会が多かったんです。

 最初にお目にかかった時の印象は、今でも鮮烈に覚えています。

 すごく感じがよくて、スターの近寄りがたいオーラはもちろんあるんですけど、ちゃんとこっちの目線に合わせてくれるんです。そして、あいさつはごくごく簡単に済ませて、いきなり本題に入る。

 僕としては聞きたいことがあふれてたんで、一気に質問を浴びせちゃいましたね。

 ユーミンの対応は、否定から入らないのがすごくいい。まず肯定から入って、相手の話を広げてくれる。

 僕がユーミンにシンパシーを感じる理由のひとつに、彼女がシンガーではなく、まず作曲家としてキャリアをスタートしたという事実があります。

 ユーミンは、17歳の時に、元ザ・タイガースの加橋かつみさんに「愛は突然に…」という楽曲を提供したのが音楽業界での初めの一歩でした。

 歌手としての立場以前に、まずは作曲家として音楽出版社と契約を結んでいる。本人としては作曲家志望だったのに、その後、周りに自ら歌うことをすすめられたんですよね。

 僕も、実を言うと歌い手になりたかったんじゃない。裏方の職業作曲家になりたかった。とりあえず作曲のプレゼンテーションの手段として自分で歌うことにしたら、こうなっちゃった(笑)。

シャンパンとスキューバダイビング


クレイジーケンバンド「あぶく」(04)。このシングルの表題曲は、椎名桔平、中谷美紀、妻夫木聡らが出演した映画『約三十の嘘』の主題歌に起用された。

 彼女との関係で言えば、クレイジーケンバンドには「あぶく」というレパートリーがありますが、実はこのナンバー、ユーミンが87年に発表した「ダイアモンドダストが消えぬまに」から影響を受けているんです。

 ……と言いながら、その事実を自分が認識したのは、曲を作っただいぶ後になってからなんですけど(笑)。

 シャンパンの泡に、スキューバダイビングのスノーケルから立ち昇る泡を重ね合わせる発想は、まさにあのバブルの時代のミューズ、ユーミンならではのもの。

「あぶく」には、さらにもうひとつインスピレーションの源があります。


シュガー・ベイブ『SONGS』(75)。山下達郎、大貫妙子、村松邦男らを擁する伝説のグループがリリースした唯一のアルバム。「DOWN TOWN」の他、「SHOW」「雨は手のひらにいっぱい」などの名曲を収録。大瀧詠一と山下達郎がプロデュースを手がけている。

 この曲は、アイズレー・ブラザーズの「イフ・ユー・ワー・ゼア」という楽曲のリズムパターンを採り入れているんですが、同じ試みを僕らよりずっと前に行っていたのが、山下達郎さんが70年代に率いた伝説のバンド、シュガー・ベイブ。

 その楽曲「DOWN TOWN」は、EPOさんによるカバーヴァージョンが「オレたちひょうきん族」のエンディングテーマとして採用されたことでも有名です。

 つまり、「あぶく」は、松任谷由実さんと山下達郎さんのお二人がいなければ生まれなかった。

 その「あぶく」、滅多に他人の曲を褒めないという山下達郎さんもラジオ番組で褒めてくださったというから、ちょっと尋常じゃない感激を覚えました。

 そうそう、彼女の楽曲や歌声について特筆したいのは、窒息感を伴う切なさ。ブレスレスな感じが、胸をかきむしる。それこそ、「ダイアモンドダストが消えぬまに」で歌われたような状況が目に浮かぶんです。

『ひこうき雲』リリース
45周年コンサートに出演

 時計の針をだいぶ巻き戻すと、僕が初めてユーミンの実物を目にしたのは、10代の頃に観た、神奈川県民ホールでのコンサートでした。

 ものすごくスタイリッシュでしたね。後に、ピチカート・ファイヴの野宮真貴さんが七変化みたいな着替えを披露するわけですけど、それを先取りしていた。

 もう、ユーミンに目が釘付け。照明や美術を含め、他の舞台演出も相当レベルが高かったと思うんですけど、失礼ながら、そっちに関してはほとんど覚えてないぐらい(笑)。


荒井由実『ひこうき雲』(73)。オープニングを飾る表題曲の他、「曇り空」「ベルベット・イースター」「返事はいらない」など、名曲が満載。

 そんな経験を持つ僕にとって、最近、ものすごくうれしかった経験が、ユーミンのデビューアルバム『ひこうき雲』のリリース45周年コンサート「SONGS & FRIENDS」にゲスト出演者として招かれたこと。

 ユーミンとティン・パン・アレーに加え、井上陽水さん、原田知世さん、久保田利伸さん、それからSuchmosのYonceさんといった面々が顔を揃え、2018年春に行われたこのイベントの会場は、調布にある武蔵野の森総合スポーツプラザ。

 僕が歌ったのは、『ひこうき雲』の収録曲「ベルベット・イースター」でした。

 ユーミンの地元である多摩エリアで、彼女の名曲を歌うことができた。ものすごく感激しましたね。


横山剣 (よこやま けん)

1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
●クレイジーケンバンド公式サイト http://www.crazykenband.com/

構成=下井草 秀(文化デリック)

今日の運勢

おひつじ座

全体運

運気はやや不安定。いいかげんな人にふりまわされるかも。でも...もっと見る >