2018/10/19 07:00

脚本家・坂元裕二インタビュー (1) 「10代の人たちに観てもらいたい」

「東京ラブストーリー」「わたしたちの教科書」「Mother」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「Woman」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「anone」──。

 数々の脚本を手がけてきた坂元裕二さんの作品世界に迫る単行本『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット刊)が発売されました。延べ13時間にわたったインタビューの中から、紙幅の都合で単行本に載せられなかった未公開テキストを、全4回にわたってお届けします。


Interview 01
脚本を書くということ

『脚本家 坂元裕二』には、初めて語る自らの半生や、ドラマを書くときの信念、全ドラマ解説などのインタビューが収録されている。ここでお届けする未公開テキストは、年齢と脚本の相関関係、誰に向かって脚本を書いているか、女性の気持ちを書くことについて。

──2018年まで、「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「anone」と、4年連続で1月クールの連ドラを書かれていましたが、そのあいだお休みはありましたか?

坂元 台本を書いて、プロデューサーに送って、プロデューサーから「何時からにしましょう」みたいな打ち合わせ時刻を指定する連絡が来るんです。その時が来るまでが、唯一何も考えずにいられるお休みでした(笑)。そこだけは考えてもしょうがないじゃないですか。

 プロデューサーによってその時間はまちまちで、数時間後だったり、1日あくこともあるんですけど。その休みには、だいたい六本木ヒルズに行って映画を観ます。その時間にできることって、それぐらいしかないですから。

──坂元さんは19歳で脚本家デビューされて、23歳という若さで「東京ラブストーリー」を書かれています。「若かったからこそ書けたこと」、「成熟した現在だから書けること」がそれぞれあったりするのでしょうか?

坂元 自分としては、以前書けていたものが書けなくなったなあっていう気はまったくしないですね。今のほうがいろんなものが書けるようになったと思っています。

 やっぱり20代の頃は自分の周りのことしか見えてなかったし、その頃に書いてた登場人物は、お仕事がみんなフワッとしてるんですよね(笑)。「東京ラブストーリー」のカンチ(織田裕二)も、トレンディドラマの特徴ですけど、なんの仕事してるのかよくわかんない(笑)。それって当時のドラマのいいところでもあるけど、でも自分の若さゆえの欠点だと思います。

 当時「職人として上手く書けた」と思った脚本も、今もう一度書いたらもっと上手く書けるっていう思いはありますし、こっそりと好きで書いていた単発のドラマ(「1992年のバタフライ」「海が見たいと君が言って」)とか、センスだけで書いていたドラマだって、今でも書けると思います。何かを失った気はまったくしないですね。ほんとに、得るものばっかりです。

常に引き返しながら脚本を書く

──脚本を書くということが、年齢を重ねるごとに面白くなっているんですか。

坂元 でも、1回あたりで書く分量が増えたから、仕上げるのが遅くなった。そこは大きく後退してますね(笑)。

 僕は脚本を何回も何回も直して、常に引き返しながら書くんです。現場からの注文を受けて直すのも好きだし、セリフの語尾の微調整とかも楽しくて仕方なくて、ちまちまとずっとやってられる(笑)。昔から勢いで書くタイプじゃなかったから、今もあんまり変わらないのかもしれないです。

──ときどき、坂元さんのドラマに出てくる登場人物を自分の友達のように思い出すことがあります。ドラマは誰かの人生や考え方に影響を及ぼすものでもありますが、何か思うことはありますか?

坂元 僕個人としては常に10代の人たちに観てもらいたいと思って書いていますし、公共の電波で流しているということも意識しているので、テーマとか答えを提示するようなお話にはしたくないし、できるだけ真面目に、真摯に作りたいなとは思っていますね。

――「10代に見てもらいたい」というのは、一番多感な時期だからでしょうか。

坂元 そうですね。大人は他に娯楽がいっぱいあるしね(笑)。10代は息抜きのためには観ないでしょ。楽しいものと面白いものは違っていて、面白いものを求めているのが10代のイメージ。「重いもの」「わかりにくいもの」「観たことのないもの」だってしっかり受け止めてくれるし、10代を中心として、上の世代にも広がったらいいなって。

 実際、僕が脚本を書いてるドラマを観てくれてる方たちは圧倒的に若い方が多いそうですし、上の世代で見てるのは僕の友達だけなんじゃないかなって思う時もあります(笑)。

 それに、「中高生に観てほしい」というのを中心にして作っていると、その子たちが今後どういう映画を観るようになるかとか、どういう大人になっていくかということに、もしかしたらそのドラマも関わるかもしれないから、責任があるというか、やっぱり背筋が伸びますよね。僕はもう自分の人生に求めることは特にないし、後はどう次の世代に繋げていくかだけですよね。

 特に「カルテット」と「anone」は、僕の中であるひとりの10代の人に向かって書いたものです。

──「カルテット」と「anone」は、明確に届ける人物の顔が見えていたんですね。

坂元 うん、迷った時はその子のことを思い浮かべながら書きました。指針、旗ですよね。どこに行けばいいかわからない時、旗が立っていると、明確にそっちに行こうとすることができるんです。

 でも、そういうことを考えるのはストーリーとか展開を考える時だけで、実際に書いている時は俳優さんのことだけを考えていますよ。

──ストーリーありきで脚本を書いているわけではないんですね。

坂元 自分の中では、ストーリーよりも登場人物を魅力的に描くことのほうがプライオリティが遙かに高い。

理想的な登場人物の人数は?

──だからこそ、どの俳優さんに出てもらうかが大事なんですね。

坂元 そうですね。もうそれしかないです。好きな俳優のセリフを書いていないと、生きていけない人間なんです。

――登場人物ありきで脚本を書くのは、どうしてなのでしょうか。

坂元 そういうふうにしか書けなくなっちゃったんです。ドラマだから当然ストーリーというものが登場人物に襲いかかってくるわけですけど、自分もその人たちといちいち一緒に生きているんですよね。

 最初に大きなストーリーみたいなものもなんとなく決めるんです。でも脚本を書き始めると、1行1行その登場人物になりきってしまうので、書きながら「こんなことが起きてしまって、一体どうすればいいんだろう?」とひとつひとつ対処していくしかなくて。その人たちと一緒に生きていくしかないし、他人事じゃないので、そこで何か大変なことが起きたときに、さてどうしたのものかと悩むんですよね。

 はじめに自分で作ったストーリーに襲いかかられるたびに、「何でこんな目に遭うんだ?」って困ってる(笑)。自分に嘘のないように1行1行生きていくしかないんですよね。

──登場人物が、全部自分なんですね。

坂元 そう、当事者なんです。自分の意識としては、演出家というより俳優のほうが近いと思っていて。その役に憑依して、その役になって書いているから、登場人物が入れ替わって喋るたびに、ひとりで5役、6役やっている感覚なんです。

――理想的な登場人物の人数は?

坂元 4人ですね。4人が最高です。

──セリフの読み方やお芝居について、何かリクエストをされることはありますか?

坂元 脚本は設計図ですし、どういうドラマなのか、どこを目指せばいいのかも含めて、みんなの想像力を呼び起こすものを書かないと意味がないので、僕から何かを言うことはありません。どうやって登場人物が生きていくのかは、役者さんが現場に立って、呼吸をしながら作っていくもの。撮影現場に行かない僕にはわからないことですよね。

――現場でセリフを変えられたときは、どう思いますか?

坂元 ドラマが始まる前に「変えないでね」とは言わないですけど、変わったときに意見はハッキリ言いますね。でも、大体みんなずっと一緒に仕事してる人たちだし、決定稿にする前に意見交換してるから、セリフが変わることはほとんどないです。

『ジャンゴ』の登場人物に感動した

──「女性の気持ちを描くのがうまい」と評されることも多いですよね。

坂元 女性のセリフが書けてるかどうかは、自分ではあんまりわからないです。僕は男女で分類しないで書いていて、男女でセリフの語尾も変えないんですよ。特別な存在ではなく、個々の人物として書けば、「女性が書けてるね」って言われるのかなあって勝手に想像しているんですけど。

 男性を書く時の方がどうしても自分と重ねてしまうから、書きづらいです。「ここでこんなにテンション上がらないよなあ」とか「俺はこんなに勝手なことは言わないなあ」って不自由になってしまうところがある。でも、女性を書くときは、自由に書いてますね。

 デビュー作(「GIRL-LONG-SKIRT~嫌いになってもいいですか~」)も女の子3人の話ですし、「問題のあるレストラン」もずっと書きたかった女性ばっかり出てくる話ですから、もともと女性のお話を書くのが好きなんでしょうね。でも本当に、「女性を描くのが上手い」って何で言われるのか、さっぱりわかりません。

 小学生の頃からひとりで映画館に通い、映画の仕事に就きたいと思っていた坂元さん。『脚本家 坂元裕二』では、10代~20代のときに観た映画の中から「特にお気に入りの映画」を挙げてもらった。クエンティン・タランティーノ監督の話題になったとき、こんなことも話してくれた。

──坂元さんの仕事場には様々な映画のDVDがありますが、タランティーノもお好きなんですか?

坂元 たまたま買ったんだと思います。タランティーノは特別に好きってわけじゃないですけど、映画『ジャンゴ 繋がれざる者』のクリストフ・ヴァルツがやってる役(ドクター・キング・シュルツ)はほんとに好きで、ここ十何年で一番感動した登場人物なんです。

 どういう人なのか、どこから来た何者なのか、バックボーンがさっぱりわからないんだけど、なんにも語らずに、ただただ素敵な行動をしていくんですよね。理由がわからないから素敵なんです。ああいう役が書けるようになったら最高だなあと思って、何回かチャレンジしていますけど、なかなか上手く書けない。誰でもないって人をドラマで描くのは難しいですね。

坂元裕二(さかもと ゆうじ)

1967年大阪府出身。脚本家。主なテレビドラマ作品に、「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「Mother」「anone」などがある。向田邦子賞、芸術選奨新人賞、同文部科学大臣賞、橋田賞を受賞。


『脚本家 坂元裕二』

ギャンビット刊
2,500円+税

構成=上田智子

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