2018/10/26 18:00

脚本家・坂元裕二インタビュー (2) 「カルテット」キャスティングの裏側

「東京ラブストーリー」「わたしたちの教科書」「Mother」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「Woman」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「anone」──。

 数々の脚本を手がけてきた坂元裕二さんの作品世界に迫る単行本『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット刊)が発売されました。延べ13時間にわたったインタビューの中から、紙幅の都合で単行本に載せられなかった未公開テキストを、全4回にわたってお届けします。


Interview 02
「あのドラマ」の
「あのシーン」ができるまで partI

 フジテレビ ヤングシナリオ大賞を受賞したデビュー作から「anone」まで。『脚本家 坂元裕二』には坂元さん自身が解説する「全ドラマ作品年表」が掲載されている。ここで紹介するのは、単行本に入りきらなかった4作品のエピソード。

■「最高の離婚」

自分の物の見方が反映されている

──「最高の離婚」の光生(瑛太)のセリフは、坂元さん自身の物の見方が反映されているそうですね。

坂元 どの役もそうですけど、僕も普段から「あ~、つらい」「いやだいやだ」「あ~、面倒くさい」って言っているし、そういうところは似てるかな(笑)、偏屈で文句が多いところなんかは光生に近いと思います。

 仕事場を中目黒に移した直後だったので、ドラマの舞台も中目黒になりました。ロケ場所を把握してると、すごく書きやすいんですよ。

 あと、光生のおばあちゃん(八千草薫)は自分のおばあちゃんのイメージで書いています。当時、祖母が亡くなったばっかりだったので、それもあって。

 光生のおばあちゃんって、プロレス好きでしょ。僕の祖母は昔、大阪府立体育館の横に住んでいて、近所にプロレスのポスターがよく貼ってあったから、おばあちゃんとプロレスというのは僕の中でつながってるんですよね。

──東日本大震災で帰宅難民として歩いているときに出会った光生と結夏(尾野真千子)は、最終回で新横浜から中目黒までの距離を歩いて帰りますね。

坂元 このドラマは撮影していて、スタッフやキャストが登場人物にかなり愛情持ってくれていたのが伝わってきたんですね。

 だから最終回の登場人物の行く末の描き方にプレッシャーがありました。最終回を想像する中で、何か特別なものが欲しいと思って、光生と結夏の「1話が始まる前のこと」を書いてみたんです。

 1話で既にこのふたりは結婚しているので、「結婚する前」とか、「新婚期間」とか、そのへんを回想として描こうっていうことをまず念頭に置いて。回想を入れるためにはどうすればいいかなと思って、ふたりを歩かせよう、と。

 それで、新横浜から中目黒まで延々と歩くなかで、過去の新しい回想──要するにドラマでは描かれたことのない回想シーンが描かれていく最終回にしました。

 自分も普段生活していて、大きな出来事より、なんてことない道を雑談しながら歩いたこととかを妙に覚えていたりする。そういうのが自分の中にあったんでしょうね。

■「問題のあるレストラン」

女性ばかりのドラマが書きたかった

──「女性ばっかり出てくるドラマが書きたい」という坂元さんの夢が叶ったという「問題のあるレストラン」。真木よう子さん、二階堂ふみさん、高畑充希さん、松岡茉優さん、臼田あさ美さん、YOUさんという女性チームの中に、安田顕さんをキャスティングしたのはなぜですか?

坂元 TBSの土井(裕泰)さんから勧められて、映画『HK 変態仮面』を観たら、変態仮面の扮装よりヤスケンさんの役のほうが遙かに変態なかっこうをしていて(笑)。

 変態仮面はパンツかぶってるから顔が見えないけど、ヤスケンさんは顔が見えてて、「絶対こっちのほうがつらいじゃん。変態仮面より変態な役をやってるヤスケンさんすげえ」と思ったっていう(笑)。

 ヤスケンさんが敵側の役っていうのは想像できなかったし、せっかくだから女性チームの中にいてほしいなあ、と思って、あのような設定にしました。

──YOUさんが途中で弁護士だと判明するのは驚きました。

坂元 YOUさんは、映画『誰も知らない』が素晴らしいキャスティングだと思って、僕もずっとお仕事したいなあと思っていたんです。YOUさんに入ってほしいってお願いしたあと、ストーリーを考えるより先に「正体不明なんだけど実は弁護士だった」っていう設定に決めました。

 YOUさんは、「法廷シーンはあるの?」っておっしゃっていたみたいですけどね。「できないよ」って。法廷シーンははじめから入れる気なかったんで、ちょうど良かったです(笑)。

■「いつかこの恋を思い出して
  きっと泣いてしまう」

まずキャスティングから進めた

──「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」は久々のラブストーリーです。どのように物語を組み立てていったんですか?

坂元 ラブストーリーはメインの男女の役を誰に出てもらうかですべてが決まると思うので、お話はギリギリまで考えず、とにかくまずキャスティングから進めました。

 そして、有村架純さんと高良健吾くんが決まり、「人生はつらいけど、恋をしているときは忘れられる」というテーマで第1話を書いたんです。

 でも、最初に書いた設定が上手く行かなくて、時間もなくなってきちゃって、どうしようか? ってなったとき、真夜中でしたけど、プロデューサーの村瀬(健)さんが「学生のときに、家に泥棒が入ってお父さんからもらった手紙を破られた」という話をしてくださって、「その話、僕にください」って。

 そこから考えて、1話は、高良くんが有村さんにお母さんの手紙を届けに行く話になりました。

――上京前の音ちゃん(有村架純)が北海道に住んでいるのはなぜですか?

坂元 駆け落ちの話にしたかったんですよ。東京に駆け落ちしにくるわけだから、東京から遠い場所のほうがいいし、1月のドラマだったし、雪が見たいですよね。

 あと、僕は1回でいいから関西弁を話す主人公が書きたかったんです。有村さんは関西の方だし、音ちゃんを「大阪出身だけど北海道に住んでいる」という設定にしました。

──有村さんが音ちゃん役になったことで、やりたかったことが叶ったんですね。

坂元 そうですね。予期していなかったのに、何かがつながっていくときは楽しいです。高畑さんは何の縁もない博多弁を話す設定でしたけど(笑)。

■「カルテット」

松たか子を起用した理由は?

──「カルテット」のキャスティングの話をしているとき、土井裕泰さん(プロデューサー・演出)と坂元さんは同時に「松たか子さん」と。坂元さんは「松さんと満島ひかりさん」とおっしゃったそうですね。松さんとお仕事してみたいと思った理由は?

坂元 松さんとは、もともと作詞家としてはおつき合いがあるんですけど、脚本家として仕事をしたことはなかったんです。

 僕は「こういうプランでこういう演技をしているんだろうなあ」ということが見えてしまうお芝居が苦手で、そういうのが少なければ少ないほど好きなんですけど、松さんからはそういう企みがまったく感じられない。どういうつもりでそういう芝居をしているのかが全然わかんない。意図もプランも理屈もわかんなくて、ただただ見てて面白いんですよね。

 松さんはあるときからテレビドラマに出なくなった印象がありました。ドラマをやらなくなっていく人はたくさんいるけど、連ドラを主な場所として書いている自分としては、いい役者さんが出てくれないのはすごく寂しいので、松さんに「ドラマも意外と楽しいね」って思ってもらたい一心で書いてました。とにかく気持ち良くお帰りいただこうと。

 日本一のコメディエンヌでもあると思っていたから、「松さんとコメディをやりたい」という思いもありましたね。

──坂元さん脚本ということで出てくれることになったんですか。

坂元 全然わかんないです。たぶん松さんは、僕が何なのか、どんな脚本を書くのかも知らなかったんじゃないかな。

 昔、僕が松さんの「明日、春が来たら」(松たか子のデビューシングル)の作詞をしたときに、ロサンゼルスで録音することになったんですよ。

 スタッフみんなで1カ月ぐらい行くことになって、全員でバスに乗って空港に着いたら、「坂元さん、坂元さん」ってカウンターに呼ばれて。僕のパスポートの期限が切れてたんです(笑)。

 そのとき松さんは19歳ぐらいで、僕は30歳ぐらい。松さんは「え、この人大人なのに……」って思ったらしいです(笑)。僕は遅れてロサンゼルスに到着して、無事に「明日、春が来たら」が完成いたしました(笑)。

──(笑) パスポートはうっかりしてたんですか。

坂元 JanとJulyを間違えてたんです(笑)。ちゃんと確認して「あ、大丈夫だ」と思ったのに、7月まであるかと思ったら、1月までだった。だから、松さんは「あのパスポート忘れた人だ」っていう目線でしか見てなかったと思います(笑)。

──「カルテット」の松さんはいかがでしたか?

坂元 やっぱり、何を考えてお芝居してるのかが全然わかんなかったです。

 すずめちゃん(満島ひかり)のお父さん(高橋源一郎)が亡くなったときの真紀さんの表情とか、今この人は何を思ってるんだろう? って、全然わからないんですよね。どういうプランなんでしょうね。それがなんともいえず面白いし、最高ですよね。

高橋一生が生んだ作品の普遍性

──満島さんとは何作もお仕事されていますが、「カルテット」の満島さんについては?

坂元 いつも重荷を背負う役が多かったから、楽しい役にしたかったんです。でも、演奏家という大変な役にしてしまいましたね。

「カルテット」がインする前に、満島さんから連絡が来ました。あの人は音も全部自分でやるところまで行こうとしてたんですよ。自分で弾けないのは嘘だと彼女は思っていて、相当な負担をかけてしまいましたね。

 だから顔合わせの日に、「いつかチェロを弾く役の映画を書いてください」って頼まれました。いつか叶えたいですね。

──「カルテット」の高橋一生さんは?

坂元 企画から放送までに4年かかったドラマなんですけど、そのあいだに高橋一生くんが人気者になっていて。彼があの状況になってなかったら、「カルテット」もちょっと違う見え方になっていたと思います。

 こんなに変なドラマなのに、時代を背負っている明らかなポップアイコンがそこにいると普遍性が生まれるんだなあ、ということをひしひしと感じましたね。もちろん、4人ともお客さんを惹きつける求心力を持った人でしたけど。一生くんが「カルテット」をポピュラーなものにしたのは間違いないですね。

──松田龍平さんについてはいかがですか。

坂元 龍平くんはほんとに素晴らしかった。彼が演じた別府さんは、4人の中で一番まともでありながら、同じだけ変なとこもあるという役。回し役もやってもらって。僕は別府さんが大好きだし、2話の菊池亜希子さんとの回は自分でも好き。

「カルテット/別府さんスペシャル」とかやりたいんですけどね(笑)。別府さんの毎日を淡々と追い続けるだけのお話とか。龍平くんとも何度でも仕事がしたいし、次は彼が垂れ流してる色気を隠さず、存分に出すようなドラマとか書いてみたいなあと思います。

──「カルテット」の劇中で4人が弾く曲は、その都度指定されたんですか。

坂元 選曲はしましたね。演奏する曲はお話と関わるから。4人の演奏は、YouTubeで(スーパー)マリオ(ブラザーズ)を弾いてるカルテットの映像を見て、面白いと思った人たちがモデルになっています。その人たちが実際の音もやってくださいました。

──ドラマの舞台を軽井沢にしたのはなぜですか。

坂元 今は東京で撮ることがすごく難しいんですよ。結果的に場所がどこなのかよくわからないツギハギみたいになってしまうし。地方だけど田舎の話ではないから、リゾートにしたいなあっていう気持ちもありました。

 スキーをやりに冬の軽井沢にはしょっちゅう行ってるので、「軽井沢でやりたいです」ってお願いして。東京から片道3時間ぐらいかかるんですけど。土井さんの猛反対に遭いながら(笑)、何回言われてもそこは変えなかったですね。

 ほとんどの場面は別荘の中だから、室内はセットでだし、大丈夫だろうと思ってましたね。本当に大丈夫だったかどうかは知りませんけど(笑)。

吉岡里帆の名演技に拍手した

──真紀さんの夫が失踪している、というサスペンスの要素はどういう流れで生まれたんですか。

坂元 まだこの話になる前、一番最初に考えていた企画が「誘拐もの」だったんですよ。誘拐されてきた男女と、それを見張ることを命じられた男女のサスペンス・ラブコメディみたいな話だったんです。

 そのときの名残で、サスペンスっぽいもの入れたいねっていうことになり、夫の失踪話が自然と入ってきましたね。

──5話で有朱(吉岡里帆)が別荘に来て、松さん、満島さんのふたりと対峙するシーンの緊張感もすごかったですね。

坂元 1カ月前から台本があって、「何月何日に3人テーブル囲んでのシーンを撮ります」ということがわかっていたので、吉岡さんはカレンダーのその日に丸をつけて、ものすごい切迫感の中で向かっていったとプロデューサーから聞きました。

 松さん、満島さんというふたりのすごい女優を相手に手玉に取る芝居をやらなきゃいけないわけじゃないですか。「吉岡里帆が松たか子と満島ひかりと対決するまでの30日間」はすごいドキュメンタリーですよね。

 僕は、出来上がった完パケを見て拍手しました。彼女も唯一無二の素晴らしい女優さんだと思います。

──坂元さんはいつも脚本を書きながらラストを考えていくそうですが、「カルテット」のラストはいつ頃決めたんですか。

坂元 お風呂に入ってる時に、8話のラストで大倉孝二さん(刑事)が出てきて、もたいまさこさんに「あの女は誰でもない女です」っていうシーンから、最終回のみんなで歌うところまでの全部のプロットが、バッと一気に自分の中で組み上がりました。

 忘れないうちにそのままお風呂に入ったまま、プロデューサーの佐野(亜裕美)さんにLINEでプロットを打って送りました。すぐに土井さんと佐野さんが駆けつけて、近所で焼き鳥食べながら、「あなた、何言ってるんですか?」みたいな感じで事情聴取を受けました(笑)。

 最後にもう1回リゾートに行くことにしたけど、4人が住んでいる軽井沢は山だから、今度は海かなあ、熱海かなあ、って。

 椎名林檎さんの主題歌を4人が役として歌うのも、自分の中ではなんとなくできそうなイメージがあって。「最終回、4人で歌って終わるのはどうですか?」って言ったときは、みんなに「こいつ何言ってんだ?」って顔をされましたけど(笑)、このドラマだったら出来ると思ったから書いてみました。

 楽屋落ちですからね、「カルテット」じゃなかったら出来なかったことですね。

坂元裕二(さかもと ゆうじ)

1967年大阪府出身。脚本家。主なテレビドラマ作品に、「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「Mother」「anone」などがある。向田邦子賞、芸術選奨新人賞、同文部科学大臣賞、橋田賞を受賞。


『脚本家 坂元裕二』

ギャンビット刊
2,500円+税

構成=上田智子

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