2018/11/02 18:00

脚本家・坂元裕二インタビュー (3) 「初対面の芦田愛菜にオーラを見た」

「東京ラブストーリー」「わたしたちの教科書」「Mother」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「Woman」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「anone」──。

 数々の脚本を手がけてきた坂元裕二さんの作品世界に迫る単行本『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット刊)が発売されました。延べ13時間にわたったインタビューの中から、紙幅の都合で単行本に載せられなかった未公開テキストを、全4回にわたってお届けします。


Interview 03
「あのドラマ」の
「あのシーン」ができるまで partII

 フジテレビ ヤングシナリオ大賞を受賞したデビュー作から「anone」まで。『脚本家 坂元裕二』には坂元さん自身が解説する「全ドラマ作品年表」が掲載されている。ここで紹介するのは、単行本に入りきらなかった3作品のエピソード。

■「Mother」

三姉妹の物語になる予定だった

──『脚本家 坂元裕二』に掲載している「Mother」の履歴書(登場人物表)には、奈緒(松雪泰子)とふたりの妹の背景が詳細に書き込まれていました。当初は三姉妹の物語になる予定だったのでしょうか。

坂元 三姉妹の話って定番だし、いつかやりたいと思ってたんですね。まず長女の話を考えたんだけど、それだけで連ドラ1本分になると思わなかったので、三姉妹の話も交差させながら次から次へといろんなことが起こるお話にしようかなあと思っていました。

 当時は話をたくさん盛り込むことが大事だと思ってたんですね。でもプロデューサーが「いや、長女の話をメインでいけるんじゃないか」と言ってくれて、それから軌道修正して。妹たちの話も挿話としていれながら、長女のお話を中心に書いていきました。

──「Mother」で道木怜南を演じた芦田愛菜さんと初めて出会ったときのことを教えてください。

坂元 普段はオーディションに行かないんですけど、「Mother」プロデューサーの次屋(尚)さんに「ちょっと揉めてるから来てくれ」って言われて、日本テレビのリハーサル室に行ってドアを開けたら、最後まで残った5人が並んで座っていて。パッと見た瞬間、「あ、あの子だ」と思ったんです。変な話ですけど、オーラを見たのは愛菜ちゃんが最初で最後です。

 道木怜南は小学1年生という設定なので、ほかの子は1年生から3年生ぐらいまでのちょっと大きい子だったんだけど、愛菜ちゃんはひとりだけ幼稚園の年中さんだったんです。一番幼かったけど、明らかにたたずまいが違っていました。特別な子っていうのはいるもんなんだなと思いましたね。

──瞬く間に人気者になり、今もなお女優として活躍されている芦田さんをどのようにご覧になっていますか?

坂元 活躍を見るたびに「あ、大きくなったな」と思いますね、普通に(笑)。親戚の子供の成長を見るように、嬉しい気持ちになります。

「Mother」の8話で、実の母の仁美(尾野真千子)が訪ねて来て、愛菜ちゃんが「もうお母さんじゃない」って追い返したあとに松雪さんの胸で泣くんですけど、胸をかきむしられるような泣き声でした。どうしてあんな風に泣いたんでしょうね。技術とかじゃないし、5歳の芦田愛菜ちゃんがどんなふうに感情を作ったのかもわからないし、本当に不思議です。あれはすごかった。

 道木怜南の役が芦田愛菜ちゃんになったときに、「もしかしたらこの子の人生を変えてしまうのかもなあ」って頭をよぎったりもしましたけど、それは大きな間違いで。愛菜ちゃんの本質はあれから何ひとつ変わらず、いろんなものを全部自分の力にしながら、活動の範囲を広げていってるように思えます。持って生まれたものとしか言いようがないですよね。

 こないだ雑誌『BRUTUS』に愛菜ちゃんが田中裕子さんをおんぶしている写真が載っていたんですけど、そのページを切り取って額に入れて飾っています(笑)。

■「それでも、生きてゆく」

満島ひかりとの対面で手が震えた

──「それでも、生きてゆく」には瑛太さん、満島ひかりさんという、坂元さんと何度もタッグを組んでいるおふたりが出演されています。

坂元 瑛太さんが10代のときにも会ったことがあるんですけど、僕にとっての瑛太さんとの仕事は「それでも、生きてゆく」から始まっていると思っています。

──満島さんとの出会いは、その前にやったスペシャルドラマ「さよならぼくたちのようちえん」ですね。

坂元 映画『愛のむきだし』を観てから、どうしても満島さんとお仕事してみたいと思ったんです。「Mother」の打ち上げのカラオケボックスで、プロデューサーの次屋さんから「次は誰と仕事したいですか?」と聞かれて「満島さんです」と答えたら、次の「さよならぼくたちのようちえん」にキャスティングしてくれたんですよ。

 でも、あのドラマは「幼稚園児5人だけで友達に会いに行く」という子供たちメインのお話だし、「俺が思ってる満島ひかりは、この役じゃ足りないなあ」と思いながら脚本を書きました(笑)。だから、最初は脚本に無かった、足の親指のない友達の話をするセリフを足したりして。満島さんご本人は子供たちとお芝居するのが好きだから、楽しんでいただけたみたいで良かったです。

──その後、「それでも、生きてゆく」で双葉をやることになったんですね。

坂元 このドラマのキャスティングは、まず瑛太さんが決まったんです。で、加害者の妹に関しても僕ははじめから、「満島さんでやりたい」って頼んでいて。でも、満島さんは既に他のドラマが同時期に何本か決まっていて、「スケジュール的にできないです」って3回か4回ぐらい断られたんですよ。

 プロデューサーの石井(浩二)さんが事務所に来て、「ダメでした。もう無理です」って言うんですよ。僕はもう満島さんのことしか想定出来なかったから、「いや、俺は満島さんじゃないとイヤなんですよ。書けないんですよ」って(笑)。そしたら、「じゃあ坂元さん、満島さんと直接会って話してください」と言われました。

 石井さんとしては「そんなに言うなら、あなた直接断られなさい」という思いだったんじゃないかな(笑)。それで、キャスティングで役者さんと会うなんて初めてだったんですけど、満島さんの事務所に行ったんです。

 初めて満島さんに会ったら、割と淡々とした感じでね、「坂元さんがいい脚本書かない人だとは思ってないんですけど」みたいなことを言ってて、僕は内心「うわ~、ヤッバいなあ。もう絶対ダメだダメだ」なんて思ってたら事務所の方からお茶を出されて、そのお茶を持つ手が震えてしまったんですよ。「ヤバいヤバい、気持ち悪い人だと思われてしまう……」と思いながら、とにかく自分の思いを、満島さんじゃないとイヤなんだ、満島さん以外考えてないんだ、っていう話だけをして帰ったら、何故か後日「やります」というお返事をいただいたんです。

 あれはなんでだったのかな? とずっと思ってたんだけど、何年も後にテレビを見たら、「坂元さんの手が震えてるのを見てやろうって決めた」ということを満島さんがお話しになっていて、びっくりしましたね。

 満島さんは、人の何を見てるかわかんないですからね。嘘のないように、誠実に接するしかないです。全部見透かされちゃうから。

風間俊介の声はミステリアス

──インタビューでも「『それでも、生きてゆく』の頃から、この人たちと仕事をしていく自分が自分なんだ、みたいなことを確信できた」とおっしゃっていましたが、脚本家と役者の関係性って不思議ですね。

坂元 距離がすごく遠いからね。瑛太さんとも満島さんともドラマの内容とか演技について話したことはほとんどないし。遠距離でお手紙をやりとりしてるような感じなんです。

――脚本とお芝居を通して、すごく深いところでつながっている感じがします。

坂元 こっちが本気で好きだと、向こうも好きになってくれるんだなあって思います(笑)。本当に好きだからね、この人たちのことは。脚本に気持ちをこめた分だけ、ちゃんと気持ちのこもったお芝居で返してくれるなあって思います。

──文哉を演じた風間俊介さんも素晴らしかったですね。

坂元 キャスティングが決まったとき、噂は聞いてたけど、風間さんのことを僕はあまり知らないままで。それから脚本を書き始めて、加害者である文哉のことがずっとわかんないまま書いてたんですけど、4話か5話を書いてる頃に、風間くんが演じた1話か2話のシーンを見せてもらったら、なんとなく掴めてきて。

「文哉はこういう人なのかなあ」ってことが、理屈じゃなくて、その人の実像として伝わってきたんです。小野武彦さんと農作業をしているような、なんてことないシーンだったと思うんですけど。

 声がね、彼もちょっと震えるんですよ。和音みたいになってる。風間くんと普通に会話をしているときも、声に聞き入ってしまう時がある。ミステリアスですよね。優しいんだけど冷たくもあって、感情がどっちに向いてんのかわかんないような声。全般的にそういう声の人が好きなんですけどね。

──坂元さんは「声フェチ」だとか。

坂元 ここ1、2年でようやく気づいたんですけどね(笑)。人の多面性みたいなものを表現するのって、声に依ってる部分も大きいと思いますね。

■「anone」

広瀬すずの泣き方に驚いた

──「anone」でハリカを演じた広瀬すずさんは、静かでありながら、情感豊かな芝居を見せていました。

坂元 底知れない人ですよね。9話の病室で彦星(清水尋也)とカーテン越しに話すシーンも、ト書きにはただ普通に「泣く」としか書いてないのに、すずちゃんがなんていうか、ミニマムな泣き方をしていて。あんな泣き方、ドラマでも映画でも見たことなかった。

 世界中のどんな俳優にも似ていない、本当にオリジナルなお芝居でしたね。それを撮るほうも淡々と撮っていて、ちょっと見たことがないシーンになったと思います。

 4話で阿部サダヲさんとちょっと軽いやりとりをするところがあるんですけど、それも面白くて。「ああ、こういうやり方もあったかな」って発見がありましたね。すずちゃんともまた仕事したいですね。次はコメディとかやってみたいです。

──坂元さんの一番最近の連ドラ脚本作である「anone」は、世界最大の国際映像コンテンツ見本市「MIPCOM 2018」で「MIPCOM BUYERS'AWARD for Japanese Drama」のグランプリを受賞しました。「anone」にはどんな思い入れがありますか?

坂元 「anone」はね、あと1年くらい書いていたかったです(笑)。とにかくこの4人(広瀬すず、小林聡美、阿部サダヲ、田中裕子が演じた疑似家族)のことが好きになったので、自分の中で全然終わらなかったんですよね。書きながら、「このままずーっとこの話を書いていたいなあ」って思ってました。別に終わらなくていいよって(笑)。

坂元裕二(さかもと ゆうじ)

1967年大阪府出身。脚本家。主なテレビドラマ作品に、「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「Mother」「anone」などがある。向田邦子賞、芸術選奨新人賞、同文部科学大臣賞、橋田賞を受賞。


『脚本家 坂元裕二』

ギャンビット刊
2,500円+税

構成=上田智子

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