2018/11/09 18:00

脚本家・坂元裕二インタビュー (4) 登場人物がクリーニング店で働く理由

「東京ラブストーリー」「わたしたちの教科書」「Mother」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「Woman」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「anone」──。

 数々の脚本を手がけてきた坂元裕二さんの作品世界に迫る単行本『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット刊)が発売されました。延べ13時間にわたったインタビューの中から、紙幅の都合で単行本に載せられなかった未公開テキストを、全4回にわたってお届けします。


Interview 04
あのモチーフが出てくる理由

『脚本家 坂元裕二』には、半生と仕事の変遷を振り返る「ヒストリー」インタビューと、どんな信念で脚本に向かっているかを紐解く「パーソナル」インタビューが収録されている。最後にお届けする未公開テキストは、名前の決め方や、坂元さんのドラマに登場するモチーフについて。

キャラクターの名前はどう決める?

──登場人物の名前はどのように決めるんですか?

坂元 脚本って書く時の形式が決まっていて、「名前『セリフ』」、「名前『セリフ』」と、まず名前を書いてからセリフを書いていくんですよ。

 脚本家が何を一番多く書いているかというと、登場人物の「名前」。常に目にするものだから、身近だし、そこから言葉が呼び起こされるわけだから、しっくりこない名前だと自分が気持ち悪いんです。

 ドラマの第1話は、決定稿までにだいたい5稿か6稿書くんですけど、名前は最後まで決まらないことが多いです。

「名は人を表す」という占いみたいなことを信じているので、登場人物の輪郭が決まらないと名前も決まらないし、名前がうまくいかないと最後まで人物が掴めなかったりする。「こういう役なのかな?」と探りながら名前を決めていきますね。

──名前に使う漢字にもこだわりがありますか?

坂元 漢字の字面や、ひらがなにするか、カタカナにするか、バランスとかは気にしますね。一行目にフワフワした字があると気持ち悪いので、カチッと収まりのいい字を選んで名前を決めます。

 キャストやスタッフが読みやすいってことも大事ですね。似たような字面が並んでると、誰のセリフなのかいちいち意味を理解しなきゃいけなくて、スイスイ読めないんですよ。

 登場人物が4人いたら、漢字二文字の名前、一文字の名前、ひらがなの名前、カタカナの名前、って分けたりしますね。字面が記号的だったり、顔のようになってると、読みやすいんじゃないかなって。

 もちろん実際にドラマになった時は音として届くわけだから、その前提があった上でのことですけど。

ダッフルコートのポケットに唐揚げ

──ドラマの音楽は坂元さんが希望を出されることもあるんですか?

坂元 サントラはディレクターがプロデューサーと相談して決めるものです。「こんな感じの曲がいいなあ」ってイメージを伝えるときはありますけど、基本的に音楽はお任せですね。

 実際に出来上がったものを見て、音楽が人物の感情を説明しすぎてたりしたら、「こういうことはやめましょうよ」って言ったりしますけど。

──坂元さんは「雑談を書くのが一番楽しい」とおっしゃっています。登場人物の会話で「私の知り合いの誰々さんって人が、こんなことを言ってたんです」といった、「知り合いの誰々さん」の話がよく出てくるのはなぜですか?

坂元 たとえば僕に起きた面白いエピソードがあったとしたら、僕が話すより、それを見ていた誰かがしゃべったほうが絶対面白いじゃないですか。

 そもそも他人の話は面白いと思ってるし、「誰々にこういうことがあったんだよ」って、そこにいない人のことを面白く話すっていうのは、雑談界の四天王のひとりだと思ってます(笑)。

──確かに、他のドラマにはあまり出てこないけど、日常生活では普通に「そこにいない誰かの話」をしますもんね。

坂元 そう、普通のドラマではやらないですけどね。僕はそういうことも必要だと思ってるから。

 決してその雑談自体を書きたいわけじゃないんですよね。基本的に僕が書く雑談は、登場人物が言いたいことを隠そうとしているときに書いていて。

 本来そこで話すべきこと、話されるであろうことが話されずに、関係のない誰かの失敗談を話しているから興味が持続するし、面白いんですよね。

 その隠された感情がなくて、いきなり他人の話をしてもただの余談になっちゃう。登場人物の感情が別の方向を向いていて、お客さんもそれを知ってるのに、「他人の話」をはじめるから面白いんだと思います。

「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の5話で朝陽(西島隆弘)が話す「ポケットに唐揚げを入れている近藤さんの話」は、僕自身のエピソードですね。

 5年ぐらい前まで何故かカバンを持たないというポリシーを持っていて、商店街で買った唐揚げをダッフルコートのポケットに入れてたことがあるんですよ。

 その後、人と話している時に唐揚げのことを思い出してポケットから出してなにげなく食べたら、「おまえ何してるんだ」って言われたことがあったっていう(笑)。

敬語なのかタメ口なのか
名字で呼ぶか下の名前で呼ぶか

──「Mother」では「うっかりさん」、「Woman」では「なまけものさん」、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」では「引っ越し屋さん」、「カルテット」と「anone」では「夫さん」。「さん」づけが出てくるのは?

坂元 「うっかりさん」っていうのが自分のなかで気持ちよかったので、なかなかあれを超えるものがでないんですけど、ちょっと「さん」づけは好きですね。

 テレビドラマって脈々とあだ名で呼び合う文化があるんですよね。

 昔のドラマで言うと、刑事たちが「ジーパン」とかあだ名で呼び合うのも子供っぽいじゃないですか(笑)。芦田愛菜ちゃんや鈴木梨央ちゃんが言う「うっかりさん」とか「なまけものさん」は、子供っぽさを出そうとしていたのかもしれませんね。

 だいたい僕は、人の名前も「名字にさんづけ」で呼び合うお話を書いているし、人と人との距離感を、できるだけ敬語とタメ口を使い分けて作ろうと心がけています。

 タメ口だけの会話って面白くないんですよね。すごく仲のいい友達同士の会話や、仲のいい夫婦には興味がなくて、そこにズレが生まれるから面白い。

 人と人との間に足りない距離があって、会話が気まずかったり、意志がちゃんと伝わらなかったりするレベルのちょうどいい遠さ、ちょうどいい近さがあって、それが展開の中で伸び縮みする。そこを描くために敬語とタメ口を併用して混ぜているんです。

「カルテット」の4人も、お互いに敬語を使いながら、名前を呼ぶ時は「別府さん」「家森さん」。「巻真紀さん」は、わざと名字か下の名前かわかんないようにしたし。そのなかで「すずめちゃん」だけ名字で呼ばれてないっていう。

 あの4人の距離感が近すぎて、「諭高」とか「司」とか呼び合ってたら、ドラマの世界観自体変わってきますよね。最終回では小ネタとして書きましたけど(笑)。

 敬語なのかタメ口なのか、名字で呼ぶのか下の名前で呼ぶのか、そういうことで生まれる関係性って、ささいなことじゃなくて、ドラマの根底を成すものだと思ってます。

動物の動画を毎日見ている

──「最高の離婚」の光生の家も、「Woman」の小春の職場も、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」で音ちゃんが北海道で働いていたのも、クリーニング屋さんですね。

坂元 あんまり自覚してることじゃないけど、クリーニング屋さんが好きなんでしょうね。服についてるタグとかも、昔からよくドラマに書いてますね。

 ものを売ってるわけじゃないし、カウンターだけじゃないですか。ちょっと中途半端な感じがいいのかな。

 そこでゆっくり腰を下ろして食べるでもなく、何か買うわけでもなく、洗濯物を預けて帰って行くだけの場所だから。

 しかもそれを取りにもう1回行くし、往復しますもんね。絶対2回会う仕事って、いいですね。

──時事ネタやコネタを脚本に入れることは意識されていますか? 「それでも、生きてゆく」で双葉が野茂選手の真似をしたり、「カルテット」で「ドラゴンクエスト」の曲を演奏したり、映画やアイドルの話もたくさんでてきます。

坂元 時事ネタとかコネタは、普通に書いてれば入っちゃいます。

 要するに、時事ネタや固有名詞を書いちゃいけないと思ってないだけで、普通に友達と話してたらダイオウイカの話が出るじゃないですか。

 特別それを書きたいわけじゃなくて、雑談してたら自然に入るだろうっていう、それぐらいのことです。時代のことを意識してるわけでもないですね。

 僕の生活に深く密接してるのは、動物動画かな(笑)。執筆中は毎日ひたすら見ています。

──「最高の離婚」の光生さんみたいですね(笑)。

坂元 そこは、ほんとに同じことをしています。ニュース見ないで、動物動画を見てるから。自分のインスタグラムだって、おすすめのところには動物しか出てきません(笑)。

──最後にバカみたいな質問ですが、好きな食べ物はなんですか?

坂元 仕事中はずっとチョコレート食べてます。

「つぶあん」が一番好きなんですけど、好きすぎて、美味しいつぶあんは食べたいけど、美味しくないつぶあんは絶対食べたくない。

 好きだから選ばないってわけじゃないでしょ。好きなつぶあんは一番好きだけど、好きじゃないつぶあんは一番嫌いです(笑)。なんだってそうですよね。

坂元裕二(さかもと ゆうじ)

1967年大阪府出身。脚本家。主なテレビドラマ作品に、「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「Mother」「anone」などがある。向田邦子賞、芸術選奨新人賞、同文部科学大臣賞、橋田賞を受賞。


『脚本家 坂元裕二』

ギャンビット刊
2,500円+税

構成=上田智子

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