2018/11/22 12:00

死者と生者の都を分かつのはナイル川 ルクソールで古代へとタイムトリップ

 世界最大の石造建築物ピラミッドの内部を上ってみよう。ツタンカーメンの煌びやかな宝物を間近で見てみよう。古代エジプトのファラオたちが成し遂げた偉業を、およそ5,000年の時を超えた今、体験できるのはまさに奇跡!

 偉大なるエジプト体験は時を超越して人の心を動かし、価値観さえ変えてしまう。2017年10月から直行便が復活し、日本からカイロへは約14時間。ファラオたちの栄華が花開く地へ、ひとっ飛びだ!


ツタンカーメンに会いに
王家の谷へ


ナイル川の西岸を望む。河畔から内陸へ、現世とつながる耕作地、来世の入口の葬祭殿、来世の岩窟墓の順に配置されている。

 3,500年以上前、人口100万人を抱える上エジプトの首都だった古都テーベが、今のルクソール。繁栄を極めたかつての都は、ナイル川を境に見どころが異なる。

 太陽が沈む西側はファラオたちが眠る「王家の谷」や「王妃の谷」などがある“死者の都”。一方の太陽が昇る東側は、エジプト最大の規模を誇る「カルナック神殿」と「ルクソール神殿」、2つの神殿が構える“生者の都”。

 どちらもエジプト旅行のハイライトだ。


新王国時代は泥棒に狙われやすいピラミッドは避け、ピラミッド型の山の麓に墳墓を築いた。

 まず向かったのは、見渡すかぎりサンドベージュの岩山が折り重なるように続く、エルクルン山の麓「王家の谷」。数十人のファラオの63もの岩窟墓がある。

 ピラミッドが建造された古王国時代から1,000年後の新王国時代、ファラオたちは墓泥棒から自らの墳墓を守るためにナイル川から奥へ、奥へと入っていった。そしてピラミッドのような形をした山の麓にある、この地に行き着いたのだという。


“タフタフ”というトロッコバスで墓が点在する岩山エリアへ。

 ゲートからタフタフというトロッコバスに乗り、灼熱の太陽が照り付ける中、乾いた岩山の合間を行く。ところどころで見かける岩山に開いた口が、岩窟墓の入口だ。

 調査中のところや開放されていないところもあり、すべてを見て回るのは到底できないので、今回はラムセス3世、ラムセス4世、ラムセス9世、そしてツタンカーメンの墓を回ることにした。


墓の坑道は王朝の時期により、スタイルが異なる。第20王朝のラムセス3世は直線型。

 墓の中に入ると、炎天下から一転して、空気がひんやりしている。


色鮮やかな絵とヒエログリフ(聖刻文字)が壁一面に。

 坑道の両壁や天井にびっしりと描かれたレリーフの中には、「死者の書」もある。これは死後、魂がどこへ行くのかを描いた、いわば死後の世界の手引書のようなもの。

 冥界の神オシリスをはじめ42の神々の前で現世の業が裁かれる流れは、どこか閻魔大王の裁判と似ている。そもそも“あの世”の概念は、古代エジプト人が生み出したものだそうだ。


ツタンカーメンの墓は62番。

 そして20世紀最大の発見とされる、ツタンカーメンの墓へ。

 18世紀頃から、古代エジプト文化に魅了されたヨーロッパの探検家たちは遺跡の発掘に駆り立てられ、考古学的発見と美しい宝物を見出してきた。

 けれどツタンカーメンに関しては、存在は信じられていたものの、墓が見つからない。王家の谷はもう掘りつくしたと誰もが諦めていたが、考古学者ハワード・カーターは粘った。

「ラムセス6世の墓の造営時、ツタンカーメンのことは世の中から忘れ去られていて、彼の墓の上に人夫小屋を建ててしまったのではないか?」との仮説を立て、それがみごとに的中。

 1922年、誰も手を付けなかった人夫小屋の下から、ツタンカーメンの墓が盗難に遭うこともなく、ほぼ埋葬時の状態で発見されたのだ。

 ツタンカーメンの墓は他のものと比べて規模が小さい。ガイドさんいわく、19歳の時に若くして他界したため、墓の準備が間に合わなかったらしい。

 それでも来世で現世と変わらぬ暮らしができるよう、少年王の墓内には金銀財宝がたっぷりと収められていた。その膨大な量の宝飾品は整理・分類・記録を行うのに、およそ10年もかかったという。

 財宝類はカイロのエジプト考古学博物館内に移されたが、ツタンカーメンのミイラは発見者の考古学者ハワード・カーターの希望によりそのまま玄室に残されている。教科書で見た少年王を前にしてみると、思いのほか、小さいことに驚いた。

泥沼化した人間関係も見て取れる
モダンなデザインの葬祭殿


王家の谷の山を越えた裏手にある、ハトシェプスト女王葬祭殿。

 王家の谷と岩山を挟んで背中合わせにあるのが、壮麗な建築美のハトシェプスト女王葬祭殿。ここは女性初のファラオとなったハトシェプスト女王の葬儀のために造営されたものだ。


3階建ての構造で、それぞれの階にテラスがある。

 ただ、彼女は幼きトトメス3世の裏をかいた形で王位に就いたため、人間関係は泥沼化。

 長年虐げられたトトメス3世は、ハトシェプスト女王の死後、恨みを晴らそうと葬祭殿の像を破壊し、壁画や名前を削り取る(死者にとっては大ダメージ)という暴挙に出たと、言われている。


連続する石柱がシャープな印象。3,500年前の建築デザインなのに新鮮。

初の女王となったハトシェプスト。ファラオの象徴である付け髭を付け、男装した彼女がオシリス柱に。

 おとなげない行為を後世に残してしまったが、ファラオといえども人間なのだと、どこか親近感も湧いてくる。

クレオパトラとカエサルも訪れた
生者の都の神殿


死者の都からタクシーボートに乗り、ナイル川を横断して生者の都へ。

 一方のナイル川の東岸は“生者の都”と呼ばれ、神々を崇め、国の安定と繁栄を祈る場所だった。

 そんな東岸のハイライトは2つの神殿。エジプト最大級の「カルナック神殿」と、目下、修復作業中のスフィンクス参道で結ばれた「ルクソール神殿」。3,500年ほど前の古都テーベの隆盛を、圧倒的な迫力の遺跡が今に伝える。


アメン神の象徴はヒツジ。そのため、アメン大神殿へつながる参道のスフィンクスはヒツジの頭になっている。

 カルナック神殿はアメン大神殿を中心に、いくつかの神殿や礼拝堂からなり、その周囲は5キロに及ぶ。数代のファラオが増改築を重ね、かかった年月は1,500年間とも2,000年間ともいわれている。


アメン大神殿の大列柱室。幅102メートル、奥行53メートルの広間に134本の石柱が並ぶ。

大列柱室の近くのベンチで一休み中。

 最大の見どころは、国家最高神のアメン神に捧げたアメン大神殿。

 随所にラムセス2世の巨像やセティ1世のレリーフ、ハトシェプスト女王のオベリスクなど、聞き覚えのあるファラオが手掛けた遺構があり、まるでオールスター的賑わいだ。


大列柱室の石柱は見ているコチラが圧倒される迫力。

 中でも圧倒されるのが、直径3メートルもの石柱が134本も並ぶ大列柱室。

 高さ15メートルのつぼみ(未開花式)のパピルス柱が並ぶ中、中央通路の両脇の12本のみ、高さ21メートルと一段高く、パピルスの花が開いた(開花式)デザインになっている。

 これはパピルスが繁茂する原初の海を表しているのだとか。天井を見上げれば、色鮮やかなレリーフが残っていて、かつての華やかな大神殿の様子を彷彿とさせる。

ルクソール神殿に残る
新婚夫婦の像にほっこり


第1塔門前のオベリスクとラムセス2世像。ルクソール神殿は夜9時まで入場できる。

 もうひとつの「ルクソール神殿」は薄暮の頃に訪れた。

 こちらはカルナック神殿のアメン大神殿副殿にあたり、修復中の約2キロのスフィンクス参道でかつては結ばれていたという。

 ライトアップされた第1塔門の両脇にはラムセス2世の巨像が構え、その前に高さ25メートルのオベリスクが1本、立っている。対となるもう1本のオベリスクはパリのコンコルド広場にあるそうだ。


仲睦まじいツタンカーメンご夫妻。背後を見れば、仲の良さがよくわかる。

 第1塔門を抜け、ラムセス2世の中庭を過ぎ、第2塔門を越えたところに、ツタンカーメンの坐像がある。

 ガイドさんによると、ツタンカーメンと妻のアンケセナーメンとの新婚旅行時の姿だそう。像の背後へ回ると、奥さんの手が旦那さんの背中に添えられているのが微笑ましい。


ライトアップされたアメンホテプ3世の中庭と月。古代エジプトでは松明が焚かれていたのだろうと、想像する。

 開花式パピルス柱が14本続く大列柱廊を通り抜けると、思わず足が止まった。

 巨大な未開花式パピルス柱に囲まれた大広間、アメンホテプ3世の中庭の上に月がぽかりと浮かんでいた。その時、月と神殿だけが視界に広がり、周囲の観光客のざわめきが遠のくような錯覚が。

 かつて、カエサルとクレオパトラの世紀のカップルはナイル川の船旅の際、テーベの神殿に訪れたという。松明が揺れる神殿で、二人して夜空を見上げたのでは? と、想像が膨らむ。


ラムセス2世の中庭に立つモスク。今も使われているが、かつての入口は形だけ。

 ルクソール神殿には古代エジプトの信仰以外にも、歴史の中で他宗教や文化が混ざった形跡が残されている。

 ラムセス2世の中庭には、13世紀に建造されたイスラム教のモスクがある。

 この建物が建造された時、ルクソール神殿は砂に埋まっていたために、神殿の上とは知らずに建てられたのだ。だから当時の1階入口は遥か頭上にある、不思議な造りになっている。

 また、アメンホテプ3世の中庭の奥には、エジプトにおけるキリスト教である“コプト教”を示す刻印や、フレスコ画や円形ドーム、コリント様式の柱など、4~6世紀のローマ時代の名残も。古代エジプト終焉以降の歴史が、神殿内に見て取れるのも興味深い。


ナイル川東岸の河畔に立つホテル、シュタイゲンベルガー・ナイル・パレス。早朝、ナイルビューの部屋から王家の谷を遊覧するバルーンの幻想的な風景が見えた。

【取材協力】
エジプト政府観光局

http://www.egypt.travel/ja


古関千恵子 (こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること1/4世紀あまり。世界各国のビーチを紹介する「世界のビーチガイド」で、日々ニュースを発信中。
「世界のビーチガイド」 http://www.world-beach-guide.com/

文・撮影=古関千恵子

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