2018/12/22 08:00

台湾の原風景が残る台東への旅 原住民の文化に出会い心を洗う

 世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、交替で登板します。

 第198回は、芹澤和美さんが台湾南東部にある台東を訪ねました。


海と山が織りなす絶景に感激


太平洋と険しい山岳地帯に挟まれた東海岸一帯に位置する台東県。そこには、海と山が織りなす絶景が広がっている。

 90年代後半から何度となく旅している台湾。雑貨店やカフェ巡りが楽しめる台北や、ごはんがおいしい台南も好きだけれど、ここ数年ですっかりはまっているのが、東部エリアだ。

 その風景は独特で、幾重にもグラデーションを描く群青の海や、桃源郷のような豊かな自然は、旅するほどに魅了される。


旅先で出会ったルカイ族の子どもたち。笑顔が可愛い!

 何より魅力的なのは、原住民の美しい文化。

「原住民」ときくと、日本語の響きではワイルドな生活をしている人たちを想像してしまうけれど、台湾では正式な呼称。中国大陸から多くの漢民族が移住して来た17世紀以前から台湾に暮らしている先住民族のことを指す。


近代的なライフスタイルと伝統文化が共存する原住民の村。

 台湾全人口に占める原住民の割合は約2%で、政府が認定しているのは16部族。その多くが東部の台東県や花蓮県に暮らしている。

 もちろん、ライフスタイルは、一般的な台湾の人たちと変わらない。だが、その一方で、独自の文化や芸術も守られている。


山間に住宅が立ち並ぶルカイ族の集落。一帯は、初夏にはローゼルの花が咲き、多くの観光客が訪れる。

 今回の旅の目的地は、台東県の金峰郷。

 成田から台湾第二の都市、高雄まで飛行機で約4時間半、そこから高雄駅までタクシーで移動し、電車で金峰郷の太麻里駅まで約3時間。台北のような気軽さはないけれど、だからこそ、旅はワクワクする。


太麻里駅近くの踏切は「スラムダンク踏切」として有名。

 太麻里駅を降りてさっそく目にするのは、青い海と、ローゼルやライチが育つ緑の畑、その合間に点々と立つ原住民のカラフルな家々。

 ちなみに、この駅のすぐ近くにある踏切は、漫画「スラムダンク」に登場する江ノ電の踏切によく似ていることから、台湾では人気のインスタスポットとなっている。


嘉蘭村を案内してくれたのは、ルカイ族の頭目。ただ座っている後ろ姿さえもサマになる。

 金峰郷には5つの村がある。嘉蘭村にはルカイ族が、新興村にはパイワン族が主に暮らしていて、独自の文化を観光資源として旅行者を受け入れている。だから、秘境のようで案外と、外国人でも旅がしやすい。

 到着してまずは、ルカイ族の頭目が案内する1日集落探訪ツアーで、村の中へ。

フレンドリーな村を散策
ヘルシーな料理に舌鼓


村の中心部にある広場で入村式。並ぶ彫刻は、村にある8つの集落の頭目を表したもの。

 嘉蘭村を訪れて最初に行うのは入村式。

 訪れた旅人を家族として迎える儀式で、ここで悪いものを落としてから村に入るよう、そして楽しい旅となるよう、ルカイ族の言葉でお祈りをしてくれる。緑の風を感じていると、禊をしているような神聖な気持ちになる。


頭目の家には、かつての戦いの道具も残されていて、資料館のよう。

 嘉蘭村にはいくつかの集落がある。それぞれのリーダー役を務めるのが「頭目」だ。頭目はほぼ世襲制で、男女を問わず第一子に引き継がれるという。

 このツアーでは、頭目のご自宅にも何軒かお邪魔するのだが、どのお宅でも熱烈歓迎ムード。ルカイ族はフレンドリーなのだ。


集落に伝わる伝説や、先祖から伝わるルールが描かれている家。一目で「頭目の家」ということが分かる。

 頭目の家の外観は一見するとまるで博物館かオブジェのように見える。そのユニークな装飾に込められているのは、大切なメッセージ。

 私たちと同じように、インターネットやスマートフォンなど便利な機能を使って生活しながらも、伝統を受け継いでいるのが素晴らしい。


集会所では、幼稚園児たちがお祭りに向けて踊りの特訓中。

 村の人たちがよく集まる場所が、集会所だ。この日は偶然にも、村のお祭りに向けて、幼稚園児たちが伝統舞踊を一生懸命に練習中。

 色鮮やかな伝統衣装をまとった子どもたちが可愛らしい! 見学しているつもりが、みんな人懐っこくて、あっという間に囲まれてしまった。


集会所に残された伝統的な建物。中は思いのほか広々とした空間。

 集会所には、伝統的な石積み工法の家も残されている。ここに各集落の頭目たちが集まり、トップ会談が開かれることも。

 中に入ってみると、敵の侵入を見張るために作られた穴が作られていたり、涼しく暖かく暮らす工夫がされていて面白い。


村で育てた豚や野菜を使った料理。畑に実るキヌアを贅沢に混ぜたご飯との相性も抜群。

 食事は、ランチ、ディナーともに村内の食堂で。メニューは、オーガニックの野菜や、豚の燻製、スーパーフードのキヌアをたっぷりと混ぜたご飯、味噌汁など。

 一般的に思い描く台湾料理とはずいぶんと異なるけれど、栄養たっぷりで身体に染み入る感じがいい。滋味深くて、ヘルシー志向の女性はとくに気に入るはず。


出汁がきいた味噌汁は、和食にも近い味わい。

 本来、同じ部族は一つの大皿から分け合って食べるのが習慣。ただし食堂では、料理も盛り付けも現代風にアレンジして、食べやすくしている。

 昔は、客人が来たときも大皿で分け合い、仕草やマナーから、相手の性格を読み取ることもあったのだとか。これも生活の知恵なのかも。


食後の腹ごなしは、ルカイ族に伝わる的矢体験。頭目は一発で真ん中に矢を当てた。さすが!

「サーパオ」。ルカイ族の言葉で「ありがとう」とお礼を言って、その日の宿泊場所である、隣村の新興へ。

 嘉蘭村のルカイ族と新興村のパイワン族の間はネットワークが築かれているから、タイミングよく送迎をしてくれる。公共交通機関がなくても移動はスムーズだ。

パイワン族の文化が
ちりばめられた宿


嘉蘭村を後にし、隣の新興村へ。ガイドはルカイ族からパイワン族へとバトンタッチ。

 新興村で宿泊したのは、畑と海を見下ろす高台に立つ「吉廬夫敢藝文民宿」。

 近代的な鉄筋コンクリート造りの一部にパイワン族の伝統的な石積み工法を取り入れた建物は、堂々としていて存在感あり。でも、壁に描かれたパイワン族のストーリーや歴史を記した絵は、カラフルで可愛らしく、どこか親しみが湧く。


「吉廬夫敢藝文民宿」の1階にはパイワン族の伝統工芸を展示。その繊細かつ大胆なアートを見ていると、原住民にアーティストが多いのも、納得できる。

 パイワン族といえば、その民族衣装は台湾原住民のなかでももっとも装飾が多く、華やかだという。

 お祭りでもないかぎり、村で民族衣装を目にする機会はないけれど、この宿の1階はちょっとしたギャラリーになっていて、衣装や昔の生活道具を見ることができる。


日本統治時代の名残が、こんなところに。

 ふと、華やかな衣装や工芸品のなかに、カタカナが彫られた木の板が目に留まった。これは家系図で、日本統治時代に学んだカタカナを表音文字として使っていた頃の名残なのだそう。

 ほかの原住民と同様、パイワン族は文字を持たなかったため、時折、こんなふうに、昔のもののなかに日本語を見つけることがある。


館内はエアコンもWi-Fi環境も整っていて、快適。

 客室は、カラフルなパイワン族の衣装のデザインを反映しつつも、可愛らしい雰囲気。

 おいしくて何杯も飲んでしまったのは、ウエルカムドリンクのローゼルティー。特産品のローゼルから作ったお茶で、美容にもいいのだとか。


原住民といえども、ふだんは民族衣装を着る機会はほとんどない。この日は、オーナー夫妻が特別にまとってくれた。

「吉廬夫敢藝文民宿」のオーナーは鄔久子さん。代々、頭目の家系にある彼は、パイワン族独自の文化を残さなければと、この民宿を始めたのだそう。

 トニー・レオン似の鄔久子さんは、ジェントルマンでとても知的。でも、ひとたび伝統衣装をまとうと一変、勇ましく、伝統を受け継ごうという情熱が伝わってくる。私はすっかりパイワン族のファンになってしまった。

 どんなに暮らしが機能的になっても伝統を守り、自然と共存する台湾原住民の人々。この旅では、生きるうえでのヒントをたくさん得たような気がする。

 台東を訪れて、ますます台湾が好きになっている。

吉廬夫敢藝文民宿

所在地 台東県金峰郷新興村1鄰8之1号
電話番号 886-89-782165
http://jilufugan.com/


芹澤和美 (せりざわ かずみ)

アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオ ノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.journalhouse.co.jp/

文・撮影=芹澤和美
コーディネイト=Shon Feng

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