2019/01/05 10:00

女子の貧困を描く圧倒的リアリティー 畑野智美の『神さまを待っている』

現代を生きる女子の
さまざまな貧困のかたち


今月のオススメ本
『神さまを待っている』

 派遣切り。DVの夫。親の性的虐待。苦況から逃げて、居場所を失い、やむにやまれず、出会い喫茶でお金を稼ぐ女性たちの群像。明日が見えない苦しさと、そこからどう這い上がるかまでを、具体的な対策法なども交えてリアルに描く。自己責任論時代の貧困小説。
畑野智美 文藝春秋 1,600円

 派遣社員の雇い止めに遭い、失業保険の給付中に正社員になれなかった26歳の水越 愛。日雇いアルバイトをしながら漫画喫茶で暮らすしかなくなって……。読んだ人の胸には、「自分だってこうなってしまうことがあるかもしれない」という不安がひたひたと広がるだろう。女子の貧困を描いた畑野智美さんの『神さまを待っている』には、そんな圧倒的なリアリティーがある。

「主人公の愛のように、評価される仕事ぶりでも、ちょっと状況が悪くなれば堕ちるリスクは誰にでもある。そういう平成の貧困のかたちをきちんと書きたいと思いました」

 愛は、底辺の暮らしから抜け出すお金欲しさに、出会い喫茶に出入りするようになる。出会い喫茶の仲間でシングルマザーのサチさんは、愛を指して〈戻れる人〉と言ったが、愛自身は、日に日に元の暮らしに戻る自信を失っていく。希望が小さくなっていく中で、自分も〈ワリキリ(=売春)〉をするしかないのかと追い詰められていく様が重苦しい。

「周囲の大人たちが言う、『みんなやっていることだから』って魔法のセリフですよね。女の子は共感が大事だから、“みんなも同じ”という免罪符でどんどんガードが甘くなる。そのリスクも訴えたかった」

 執筆に際しては、巻末にあるような多くの資料を読み込んだほか、ホームレスのための炊き出しなどにも出向いた。〈いちご〉〈茶飯〉など出会い系のSNSで飛び交う用語などもそうした中で知ったことだ。

「〈神待ち〉も不思議な言葉です。泊まるところを提供する代わりに……って、そんなの神様じゃないのに」

 愛の気の置けない友人・雨宮は、区役所の福祉課勤務。しかし、愛は彼に苦況を訴えるどころか、遠慮や恥ずかしさから逆に遠ざけてしまう。だが、作家になる夢を追い、10年以上アルバイト生活をしていた畑野さんには、「助けて」を言えない愛の揺れる心情がわかるという。

「だからこそ、行政や友人にSOSを出すことは恥じゃないと言いたかった。日本はいま、何につけても自己責任の国ですよね。でも、きちんと働いているのに派遣やフリーランスなら不安定なのは当たり前だとか、転職に失敗したらホームレスになるリスクがあるとか、そんな社会の方がおかしいと思う。変わるべきは、国や自治体側であり、セーフティネットのようなものをもっと周知させること。また、女性の若さや肉体を換金するシステムを必要悪みたいに許している社会の方です」


畑野智美(はたの ともみ)

1979年、東京都生まれ。2010年『国道沿いのファミレス』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。ほかに『海の見える街』『感情8号線』「南部芸能事務所」シリーズなど著書多数。

文=三浦天紗子

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