2019/01/25 07:00

狂言師・野村萬斎が 社会派映画で万年係長役に挑む

日本のいまを問う社会派映画で
初のサラリーマン役

場所:都内某所
時刻:14時頃
天気:晴れ


「サラリーマン役には憧れもあったので、初めてオファーをいただいて嬉しかったです。ただ、役の設定が社内で浮いている人だったので、やはりそこからは逃れられないのかと思いましたけど(笑)」

 映画『のぼうの城』や『花戦さ』などで、一風変わった魅力的な人々を演じてきた野村萬斎さん。最新作『七つの会議』では無精髭をたくわえ、中堅メーカーに勤めるぐうたら社員の八角、通称「ハッカク」を演じている。原作は、『下町ロケット』や半沢直樹シリーズで人気の池井戸潤の同名小説だ。

「(善人なのか悪人なのか捉えどころがなく)バットマンなのか? と思うようなところもありましたが(笑)、八角を演じるにあたっては、原作を読んだときに抱いた『清貧』のイメージを大事にしたいと思いましたね」

 パワハラ騒動を発端に、不可解な人事がなされ、やがて会社の存続を揺るがす出来事に。誰が何を企んでいるのか?  香川照之、及川光博、片岡愛之助、世良公則、北大路欣也など、百戦錬磨の俳優陣が迫力の演技バトルを繰り広げる。まるで演者自身の生き様まで見せるかのように。

「とても熱い現場でした。福澤克雄監督は役者に熱量を求めましたし、基本、長回しで、格闘技やスポーツに近い、ガチでぶつからないといられないような肉弾戦でした」

 大勢のエキストラを使うダイナミズムも含め、萬斎さんが映画デビュー作『乱』で目にした黒澤明監督の現場に近い空気を感じたそうだ。

「登場人物たちは、殿様に逆らう、幕末の藩士にも見えてくる。現代の時代劇のようですよね。藩の存続のために個人を犠牲にする江戸時代の体質が、一部の企業にはまだ残っている。日本がまだそこから脱却できていないという問題を突きつけられ、恐ろしくもあります」

 会社が利益を追求するのは当然だが、行き過ぎて本質を見失うこともある。道を間違えないためには、「懐疑の精神」が大事なのではと語る。客観性や批評眼を持つことは、650年続く狂言師を受け継ぐ家に生まれた萬斎さんにとって必然だった。

「親からハンドオンされたけれども、狂言が現代に本当に必要なのか? その問いは、僕自身の存在意義とほとんど同義でした。能楽がたとえ無形文化遺産になろうとも、権威化してはいけない。いま現在も『面白い』『美しい』と謳えるものかを問う姿勢は忘れてはならないと思います」

 映画のなかで、正義や信念が問われているが、萬斎さんにとっての信念とは「人間を描いた作品を生み出すこと」。その作品が観客の鏡となり、自身の存在に立ち返ることに、芸術の意義があると信じている。

「自分の信念に、社会性があるかということも考えます。ただ、注意しなければいけないのは、それが『お国のため』というところに行き着いてしまうと、個人の正義と乖離してしまう。俯瞰して見れば、王様も兵隊もアリも同じ。目先の営利ではなく、人間をフラットに見つめる機会は必要なんじゃないでしょうか」

 監督は終盤、八角の長い語りを加えた。伝統の延長で闘う萬斎さんだからこそ、重みを増した台詞。それは祈りにも似て、強く胸を打つ。

野村萬斎(のむら まんさい)

1966年生まれ、東京都出身。狂言師。重要無形文化財総合指定者。3歳のときに『靱猿』で初舞台を踏む。85年に黒澤 明監督の『乱』にて映画初出演。94年に萬斎を襲名。97年にNHK連続テレビ小説「あぐり」にて全国的な人気を博す。以後、映画やドラマ、舞台でも活躍。主な出演映画に『陰陽師』(2001)、『陰陽師Ⅱ』(03)『のぼうの城』(12)、『花戦さ』(17)など。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督に。東京2020オリンピック・パラリンピック開閉会式演出の総合統括を務める。


映画『七つの会議』

中堅メーカー・東京建電。営業部長の北川(香川照之)から課せられる厳しいノルマに、社員たちは震え上がっていた。唯一、馬耳東風でやり過ごしているのが万年係長の八角(野村萬斎)。坂戸課長(片岡愛之助)は年上の部下のぐうたらぶりに業を煮やしパワハラ騒動に発展。

原作:池井戸 潤
監督:福澤克雄
出演:野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、北大路欣也ほか
2019年2月1日(金)より東宝系にて全国公開

文=黒瀬朋子
撮影=松本昇大
スタイリング=中川原寛(CaNN)
ヘア&メイクアップ=奥山信次(barrel)



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