2019/02/26 21:00

駆け出しプレイヤー時代の近田春夫に 内田裕也が激怒した理不尽な理由とは

 ロック、歌謡曲、ヒップホップ、テクノなど、変幻自在に幅広すぎる最先端のサウンドを世に送るかと思えば、勢い余って、タレント、文筆家、画家としても活躍。

 音楽界きっての才人、近田春夫がその67年の半生を自ら語るトークイベントが、2018年6月16日(土)、青山「本の場所」にて開催された。その模様をスペシャル連載としてお届けします!


▼talk03
プロの音楽家としての
スタートライン


トークイベントが行われた「本の場所」は、CMディレクターにして小説家の川崎徹氏が運営を手がけるユニークな空間だ。

 1969年の9月、ザ・フィンガーズなどで活躍した著名なギタリストであり、ブリヂストンの創業者の孫でもある成毛滋さんが主催する「10円コンサート」が日比谷野外音楽堂で開催されました。

 成毛さんとの縁からスタッフとして参加していたその現場で、私は、とある人物と運命の出会いを果たすことになります。

 内田裕也さんです。

 今となっては、裕也さんがこのイベントに出演していたのか単に顔を利かせていただけなのか覚束ないんですが、とにかく、楽屋で成毛さんが裕也さんに僕のことを紹介してくれました。

「この男はちゃんとキーボードが弾けるんですよ」みたいなことを成毛さんが言ったのを、裕也さんは記憶していたらしく、しばらく経ったある日、「(裕也氏を上手に真似て)あのさ、ちょっとキーボードを弾いてくれないかな」という連絡が入ったんです。

 その仕事というのは、麻生レミさんのバックバンドの一員を務めることでした。

 当時の麻生レミさんは、裕也さんがプロデュースを手がけたフラワーズにヴォーカリストとして参加するも、ほどなく脱退、フラワーズがフラワー・トラベリン・バンドと改名して活躍する一方で、自身はソロとしての活動を行っていました。

 和製ジャニス・ジョプリンと称された麻生さんのヴォーカルは、今聴いても本当にすごいものです。

「ムゲン」で観た
バーケイズの素晴らしさ

 その頃、赤坂に「ムゲン」というディスコがあったんですが、ここに、ザ・バーケイズというアメリカのバンドがハコバンとして入っていたんです。

 えー、説明が必要ですね。ハコバンというのは、その店にレギュラーとして雇われているバンドのこと。

 このバーケイズが、ほんとに素晴らしかった。今まで生きてきた中で観たバンドの中でも、一、二を争うほど素晴らしい演奏を連日連夜繰り広げていたんです。だから、私は毎晩のようにバーケイズを観るために「ムゲン」に通っていました。

 バーケイズは、そもそもオーティス・レディングのバックバンドだったんですが、飛行機の墜落事故で、オーティスもろともメンバーの数人を失ってしまう。

「ムゲン」で演奏していたのはその後メンバーチェンジを経てからの編成でした。それにしても最高だった。

 そのバーケイズが、麻生レミさんと一緒に日比谷の野音でコンサートをやることになった。

 71年には、後楽園球場で行われて伝説となったグランド・ファンク・レイルロードの来日公演の前座を麻生レミさんのグループが務め、評判になりました。

 そのライブを含め、普段、麻生さんのバンドでは柳田ヒロさんがキーボードを弾いていたんです。はっぴいえんどの前身となったエイプリル・フールのメンバーとしても知られるミュージシャンですね。

 ところが、バーケイズとの共演の日は、何かの都合で柳田さんのスケジュールが空いていなかった。それで急遽、私にお呼びがかかったというわけです。

 野音で「ムーヴ・オーヴァー」とか、ジャニスのカバーを演奏したのが、僕にとっていわゆるプロのバンドでお金をもらった初めての機会となりました。

 高校生の頃、ビアホールのステージなんかでキーボードを弾いてバイト料をもらったことはありましたが、それとこれとは話が違う。

 この日の野音でのプレイが、自分にとってプロフェッショナルとしてのスタートラインになったと思っています。

かまやつひろしとのすれ違い

 その時、その演奏をステージの袖から観ていたのがかまやつひろしさんでした。

 出番が終わると、かまやつさんがツカツカと歩み寄ってきて、「君のキーボード、すごくいいねえ。今度、僕は九州でツアーをやるんだけど参加してくれない?」と誘ってくれた。

 僕はザ・スパイダースのファンだったものですから、その言葉を聞いて、天にも昇る気持ちになりました。あまりにもうれしくて、そのことを裕也さんに報告したんです。

「あの時、裕也さんが声をかけてくれたことがきっかけになって、かまやつさんのバンドに参加することになりました」

 てっきり喜んでくれるかと思ったら、何と、返ってきた答えは「(裕也氏に瓜二つの声色で)てめえ、ムッシュと俺とどっち取るんだよ、馬鹿野郎!」。

 烈火のごとくというのはこういう様子を言うんだなと思うぐらい怒られまして、かまやつさんには「すいません。これこれこういうことでかまやつさんとご一緒することは一生無理だと思いますので」と電話で謝りました。

 その後、かまやつさんとともに演奏することは本当に一度もありませんでした。

 この間、かまやつさんが亡くなった後に、故人を追悼する番組で、初めてかまやつさんの楽曲を演奏することができました。あれは誰とやったんだっけかな。Charもいたんじゃないかな。

 その放送を観ていた裕也さんが「あれ、よかったよ」と言ってくれたんですが、50年近く前のあの烈火のごとき怒りは何だったんだろうと思いました。

 とにかく、あの時以来、私は内田裕也の一家の者になったんだなと観念し、今日までずっとやってきております。


近田氏がプロデュースを手がけインタビュアーを務めた内田裕也氏の語り下ろし自伝『俺は最低な奴さ』、そしてモブ・ノリオ氏の小説と裕也氏の対談集が合体した『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』の刊行を記念して2009年に行われた握手会での一枚。

ザ・ワイルドワンズの
バックに起用される


【近田春夫絵画館③】
《輪廻と競争原理》
我々はまた生まれ変わってくるのか、或いはもうすでに何度も生まれ変わって、そしてここにいるのか。それは誰にも分からない。ただ、そうであろうとなかろうと、今、我々の生きるこの世には、必ず“競い”、“争い”がある。それは定め? はたまた掟? ただ、競争はするのではない。させられているのだ。としたら……。 誰が一体何の為にそうさせているのだろう。 俯瞰してみると、我々はゴールの見えぬトラックを走り続けさせられていることに気づく、そしてその競技場の観客席を埋め尽くしているのは……おそらく神たちに違いない。彼らはこの競技の見物が本当に好きなのだ。

 ちょうど同じ頃、もうひとり、やたらと私のキーボードを評価してくれる男が現れました。

 現在、アミューズという芸能プロダクションの代表取締役会長を務めている大里洋吉です。

 当時、大里さんは渡辺プロダクションにいて、グループサウンズのマネジメントを手がけていたんです。彼が受け持っていたのは、まずザ・ワイルドワンズ。

 あの頃、なぜかワイルドワンズは急にジャクソン5を目指すというわけの分からない方向性に迷走し、楽器を捨てて「ネヴァー・キャン・セイ・グッバイ」とかを全員で踊りながら歌い始めたんですよ。

 だから、バックバンドが必要になった。そのキーボードとして引き入れられたのが僕なんです。

 それに加え、大里さんが担当していたバンドに、ロック・パイロットがあった。

 当時、英米ではスーパーグループというのが流行っていました。エリック・クラプトンやスティーヴ・ウィンウッドが組んだブラインド・フェイスとか、プログレ系のエマーソン・レイク&パーマーとか、ロックの世界の大物同士が結成するバンドですね。

 そのムーヴメントに呼応する形で、日本でも、タイガースとスパイダースとテンプターズという人気GSの元メンバーが集ったPYGというバンドが誕生したりしました。

 ロック・パイロットは、いわばその小型版でした。ピーターズやファニーズといったB級GSの残党が集まったこのバンドでも、サポートメンバーとして私がキーボードを弾くことになりました。

 さらに、アラン・メリルという米国人ミュージシャンもまた、大里さんが担当していました。有名なジャズシンガー、ヘレン・メリルの息子であり、後に、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツの大ヒット曲「アイ・ラヴ・ロックンロール」を作曲することになる男ですね。

 彼は、ザ・リードという外国人やハーフばかりのグループで活動していたんですが、鳴かず飛ばずで解散してしまい、ソロに転身していた。

 大里さん曰く「ワイルドワンズ、ロック・パイロット、アラン・メリル、この3組のキーボードを全部やってくれたら、1組分のギャラを払うよ」。

 今思えばどう考えても割に合わない仕事なんですが、そんな誘いに応じて、僕は本格的に音楽業界に足を踏み入れることになるわけです。

talk04に続く


近田春夫(ちかだ はるお)

1951年東京都生まれ。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。80年代以降はビブラトーンズなどを率いてバンド活動を続ける傍ら、タレント、ラジオDJ、作詞・作曲家、CM音楽作家など多彩に活躍する。86年にはプレジデントBPMを名乗って日本語ラップの先駆者となり、87年には人力ヒップホップバンドのビブラストーンを結成。96年からは週刊文春で「考えるヒット」を連載している。現在は、元ハルヲフォンのメンバー3人による新バンド「活躍中」として活躍中。2018年10月には、ソロアルバム『超冗談だから』をリリース。12月には、OMBとのユニット、LUNASUNのアルバム『Organ Heaven』が発売された。最新の著書に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)がある。



近田春夫『超冗談だから』

ソロ名義としては38年ぶりとなるニューアルバム。作詞・作曲・編曲には、秋元康、のん、AxSxE、児玉雨子らに加え、筒美京平マニアの市井の作家などが参加。男性アイドルポップス、ラテン歌謡、ディスコ歌謡、シティポップなど、バラエティに富んだ10曲を収録。
ビクター 発売中 2,778円(税抜)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026255/VICL-65050.html



LUNASUN『Organ Heaven』

近田春夫がDJにしてトラックメーカーであるOMBとともに活動する2人組ユニット、LUNASUNによるアルバム。近田のグルーヴィーな手弾きのハモンドオルガンが炸裂している。ジャケットを飾るのは、画家としても活躍する近田春夫書き下ろしのイラスト。
ビクター 発売中 2,037円(税抜)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026255/VICL-65087.html



近田春夫『世界でいちばんいけない男~近田春夫ベスト』

近田春夫の長いキャリアにおけるロックおよびポップスのオリジナル楽曲に焦点を絞ったベストアルバム。ソロ名義、ハルヲフォン、ビブラトーンズ、そして現在の所属バンドである「活躍中」の楽曲を収録。最新マスタリングで過去の楽曲もブラッシュアップされた。
ビクター 2019年2月27日(水)発売 2,778円(税抜)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026255/VICL-65138.html

【取材協力】
本の場所

https://www.honnobasyo.com/

構成=下井草 秀(文化デリック)
撮影=釜谷洋史
写真=文藝春秋



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