2019/04/03 21:00

芥川賞作家・町屋良平が語る 最新作『ぼくはきっとやさしい』

誠実に向き合うほどに
ちぐはぐになる心、言葉、他者


今月のオススメ本
『ぼくはきっとやさしい』

 元クラスメイトの冬実への、インド旅行で出会った香港からきたセリナへの、全力投球な恋を経て、岳文が次に恋した相手は……。まっすぐだからこそ掛け違う恋とコミュニケーションの難しさを、新芥川賞作家がユーモアと狂気をまぶして描く。
町屋良平 河出書房新社 1,400円

「学生時代から恋愛小説が好きで、江國香織さんの小説などをよく読んでいました。

 恋に落ちるって瞬間的なものなのに、少し関係が進むと、つきあうとか結婚とか約束めいたものが介入してくる。

 ただ好きであること以前に、相手とどうしたいとか自分の欲望が前に出てきてしまう。だから、その一歩手前でとどまり、岳文くんの思いや身体を通して、恋の感情そのものを突き詰めてみたかったんです」

 受験を控えた冬の日に、とある一瞬でクラスメイトの冬実に恋してしまった〈ぼく〉こと岳文。

 冬実と同じ大学に進学したが、親しくなるわけでもない状況のまま、〈すきのきもちが高じて〉告白。

 冬実からは〈あっさり「いいよ」といわれて〉、むしろ燻らせていた恋心が変質したのを岳文自身が感じたりする。

 だから、冒頭から予感はあるのだ。恋愛渦中の彼の純粋すぎる高揚感とは裏腹に、彼の恋愛のしかたは危うい、と。

「岳文くんは恋するたびに運命の瞬間とかを感じていますが、実はたいした恋愛していないですよね。なのに、彼が出会いや恋愛を一人前に語ること自体、『コイツ、何言ってるんだ』と怒られそうです(笑)」

 町屋良平さんの小説には必ずといっていいほど、主人公のそばに、少しだけ才能やそつのなさに恵まれた人物がいる。本書では、大学入学直後から親しくなった友人の照雪だ。

「主人公にしていない人物の方が主人公性があるとは結構言われます。『しき』なら、星崎じゃない子の方が気になるとか。

 ただ僕は、男社会が求める物語性に寄っていってしまう照雪くんの方がありきたりな生き方なんじゃないかと思っていて、岳文くんとか一見主人公向きじゃない人物に興味がある。

 むしろ自分の感覚や感情に全力でこだわる彼を見習って、『自分がスペシャルな存在でなくても、言葉を持っていいんだよ、もっと語っていいんだよ』と伝えたいです」

 町屋さんはこれまで、青春、恋愛、ボクシングやダンスといった身体感覚、そこから受け取る感情などの題材を、繰り返し取り上げてきた。

「僕の中では、ボクシングや恋愛と小説に親和性があるんです。ボクシングって自分を更新していくことの連続なんですね。次の瞬間は新しい自分になってないと勝てない。

 同様に、誰かに出会って『こんな自分がいるなんて知らなかった』と更新されるのが恋だし、小説でも、こんな文章や人物や場面が自分の中から見つかったぞと自分を更新できたとき、書ける手応えをつかめるんです」


写真:
小原太平

町屋良平(まちやりょうへい)

1983年、東京都生まれ。2016年、「青が破れる」で第53回文藝賞を受賞しデビュー。2019年『1R1分34秒』で第160回芥川賞受賞。他に『しき』がある。

文=三浦天紗子



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