2019/05/06 15:00

医師・夏川草介が描く大学病院の実相 『新章 神様のカルテ』を著者が語る

人間同士の信頼感が
取り戻せるような物語を


今月のオススメ本
『新章 神様のカルテ』

 栗原一止は大学院生の身分でありながら、第四内科第三班の実質的な班長を務めている。ベッドの差配といった事務仕事も兼務し、医療研究に従事し、後輩を教育し……。〈大学病院という場所は、まことにもって不思議な空間である〉。その不思議さは、読者にとって面白さだ。
夏川草介 小学館 1,800円

 映画化もされた医療小説シリーズ『神様のカルテ』が、「新章」の看板とともに再起動を果たした。

 長野県松本市に暮らす主人公の青年内科医・栗原一止が、一般病院から信濃大学病院へと籍を移し、2年が経過したところから物語はスタート。この1冊から読んでも楽しめる。

「これまで通り、難病手術をゴッドハンドで成し遂げるようなスーパードクターは出てきません(笑)。理想としている医者像と現実の自分とのギャップに悩みながら、それでも諦めずに努力し続ける、普通の医者たちの話です」

 著者は長野で地域医療に従事する現役医師。かつて大学病院に勤務した経験で得たリアリティが、過去のフィクションによって印象付けられた大学病院像を鮮やかに塗り替える。

「僕自身も大学病院で働く前は、医者たちは教授選のために陰謀を張り巡らせて、現場そっちのけで票集めに奔走する……というイメージがあったんです。実際に中に入ってみたら、そんな動きはかけらもありませんでした。各分野の専門知識の豊富な先生たちが集まり、チームを組んでひとりひとりの患者と向き合う。あるいは、育て上げた若い医者を、僻地の病院に送り込む。素晴らしい組織だなと痛感した部分を、小説で書いてみたかった」

 だが、組織運営にはさまざまな矛盾があり、弊害もある。主人公はそれらを敏感に察知しながらも、糾弾する思いを飲み込み、正義感に燃える後輩医師をいさめる立場にある。

「“なんとかしろ!”と大声を出しても意味がないんです。今いる場所には問題があると知りながらも、そこで腐らず自分なりの居方を探る。どんなに考え方が違ったとしても、他者と分かり合う努力を常に怠らない。栗原一止の言葉や行動に、僕自身も励まされる感覚があります」

 大学病院は、社会の縮図なのだ。主人公が抱える矛盾は、誰しもの中にある。だからこそ、濃密な群像劇の先で、主人公の溜め込んだ思いが爆発するクライマックスシーンは、快感と共に突き刺さってくる。

「現場で働いていると時々感じるのが、患者さんも医者も看護師さんも、みんなが攻撃的になっている気がするんです。うっすらと人間不信感を持っている。世の中自体がそういう雰囲気をまとい始めていますよね。でも、こんな生き方をしたら、もっと気持ちの良い世界になるかもしれないんじゃないか。人間同士の信頼感が取り戻せるような物語を、これからも紡ぎ続けていきたいんです」


夏川草介(なつかわそうすけ)

1978年大阪府生まれ。信州大学医学部卒。
長野県にて地域医療に従事。2009年『神様のカルテ』で第十回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。
同書は10年本屋大賞第2位となり、映画化された。

文=吉田大助



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