2019/05/21 21:00

野ざらしになっていた湯河原の名宿 「富士屋旅館」が見事生まれ変わった

 世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、交替で登板します。

 第208回は、たかせ藍沙さんが、伝統ある湯宿の再生物語を綴ります。


新しいスタイルのお茶と
緑の中の足湯


湯河原は海と山に挟まれた谷あいの温泉街だ。

 東京から最短約1時間という好立地にある湯河原。近隣の熱海や箱根に比べて人も少なく、個人旅行に適した温泉町だ。

 そこに、十数年野ざらしになっていた古い旅館がある。「富士屋旅館」だ。3年の歳月をかけた大修復を終え、2019年3月に息を吹き返した。さっそく湯河原へと行ってみた。

 湯河原駅へはチェックイン時間よりも早めに着いたので、まずは駅から徒歩4分の場所にあるティースタンド「サ行」へ。新しいスタイルのお茶をいただくことができるカフェだ。


「サ行」の建物の中央には木があり、木の下のテラスでもお茶することができる。

 店名は、「茶」の読み方のひとつの「さ」と、オーナー2人がサ行から始まる名前だったというユニークないきさつなのだとか。


テイクアウトスタイルなので、好きな場所を選んでお茶を楽しみたい。

 店内にはテーブル席、カウンター席、ベンチ席があり、テラスも建物中央と外側の2カ所にあるので、好きな場所を選んでお茶を楽しむことができる。


左から煎茶豆乳ラテ、チーズクリーム烏龍、トロピカル烏龍。

 メニューは、世界各国、日本各地のストレートティーのほかに、フルーツやチーズクリームを使ったアレンジ茶もあり、新感覚のお茶のおいしさと出会うことができる。

サ行

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町土肥1-16-6-1a
電話番号 080-4919-3829
http://sagyo.co.jp/

 次に、駅の観光案内所で勧められた「万葉公園」へ。


「万葉公園」には、駐車場から滝に繋がるトンネルがあって冒険気分も味わえる。

 ここは、温泉街の中心にある公園で、滞在先の「富士屋旅館」に隣接していて、歩いて行くことができる距離。

 園内には万葉時代の古代建築を模した「万葉亭」や、万葉集の中で出湯を詠った唯一の歌を刻んだ、万葉歌碑等がある。駐車場では、毎週日曜朝に観光朝市も催されている。

 この公園でのマストビジットは2カ所。「狸福神社」と「独歩の湯」だ。


縁結びの「狸福神社」には赤い鳥居が並んでいる。

 前者は、傷ついた老狸が湯河原温泉で完治したという言い伝えにもとづく。その後、温泉に感謝した狸が人々の温泉を広めたとか。


かわいいハート型の縁結びの絵馬は、公園入り口にある観光会館受付か、「独歩の湯」の料金所で買うことができる。

 現在では縁結びの御利益があるとされていて、絵馬に願い事を書くことができる。

 文豪・国木田独歩の名前が付けられた「独歩の湯」は、園内の西端にある足湯施設。


「独歩の湯」では、足湯巡りを楽しみたい。

 円形の施設内には9つの足湯があり、足つぼが刺激できたり、ジャグジーになっていたり。園内の緑に囲まれた足湯巡りを楽しむことができる。


お湯はぬるめながら、じんわり温まってくる。

 入湯料300円には、サンダルの貸出が含まれているし、足を拭くためのタオルの販売もあるので手ぶらでも大丈夫。

 公園自体は24時間入ることができるが、「独歩の湯」は季節によって営業時間が変わるので事前に確認を。

万葉公園 足湯施設「独歩の湯」

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上704
電話番号 0465-64-2326
http://www.yugawara.or.jp/dayplan/ashiyu.php

蘇った老舗旅館の
細やかなおもてなし


到着時に橋のたもとで出迎えてくれた「富士屋旅館」の皆さん。左端は苗代支配人。

 足湯で癒されたところで、「万葉公園」の北隣にある「富士屋旅館」へ。今回の旅の最大の目的地だ。大修復を終えて眠りからさめたばかりの老舗旅館だ。

 湯河原の中心を流れる千歳川沿いに歩いて行くと、鮮やかな赤い手すりの橋の前でハッピ姿の旅館の皆さんが出迎えてくださった。


朱色の手すりの先に旧館の美しい屋根が見える。橋を渡りながらわくわくしてきた。

 橋を渡ると、正面には骨格以外はほとんど建て直したという新館、左手には古い建物を修復した洛味荘と旧館、右手にはメインダイニングの「瓢六亭」がある。

 新館の正面玄関には「富士屋旅館」の上に「FUJIYA RYOKAN」と書かれている。世界各地からの旅行客にも分かりやすい。


レセプションカウンターの背景には富士山のデザインが。

 中に入ると、窓の外の緑が見えるロビーラウンジには、アンティークのイスとテーブルが配され、チェックインカウンターの背景には富士山のシルエットがデザインされている。


ロビーラウンジにはアンティークのイスとテーブルが配されている。

 イスに座ってお茶菓子をいただきながらチェックンの手続きを済ませた。

 メイン棟の新館には、ロビーラウンジと、前述の「瓢六亭」、大浴場、そして10室の客室がある。


新館にある檜の大浴場。天井には古い梁がそのまま使われている。女湯には窓があって広くなっている。

 建物の間取りは以前のものを踏襲しているが、ほとんどの壁や天井などは新たに造られたもの。


新館の洋室。ロッキングチェアに座って中庭を眺めることができる。

新館の和室の檜の内風呂。障子を模したシェードが、柔らかな光の中での朝風呂を演出してくれる。2階の和室は桜のシーズンには花見風呂になるという。

 洋室8室、和室2室のうち2室には檜の内風呂がある。シャワーのみの客室に滞在する場合は、檜の温泉大浴場を利用することになる。

 旧館は、全室温泉檜内風呂付きだ。以前の客室数を半数に減らし、各客室に2〜3間あるという贅沢な造りとなっている。室内に使われている欄間も一度外して洗浄し、再び取り付けたという。

 畳の上にベッドが置かれていたり、浴室の窓から外の緑を眺めることができたり、ゲストが心地よく過ごすことができる工夫が随所に配されている。

 古い建物を生かしながらも洗面台や浴室は刷新されていて使い勝手がいい。


旧館の客室「初名草」の室内。奥の和室はベッドルームになっている。

 客室内には必要なものはすべて揃っている。そぞろ歩き用と寝間着用に浴衣が2枚ずつ、滞在中に使用できる綿の手提げ袋、バスルームのアメニティも充実。

 日本茶のセットのほかにエスプレッソマシンや紅茶のセット、携帯用のマルチ充電器まで。手ぶらで訪れてもなに不自由なく過ごすことができる。



左:野趣溢れる中庭には池と滝がある。中庭から眺める旅館も風情たっぷり。
右:「洛味荘」と旧館の客室には梅にまつわる名前がつけられている。

 客室でひと休みして、アンティークの和箪笥の引き出しを開けると、そこには「富士屋旅館」のロゴ入りの和風便せんと封筒が。やさしい和紙に触れたら手紙を書きたくなった。

めくるめく夕食に
舌鼓を打つ夕べ


夕食の時間が近づくと、「富士屋旅館」は昼間とは違った美景となった。

 あれこれ館内を散策しているうちに、あっという間に食事の時間となった。


「富士屋旅館」内にある「瓢六亭」の入口。ロビーラウンジからも入れるが、外からも直接入ることができる。

 食事は新館1階にある「瓢六亭」でいただくことになる。

 ここは、食事だけでも利用することができるが、オープンしたてなので、今ならまだ予約を入れやすいという。


メインダイニングからは、ガラス越しにテラスを眺めることができる。

 この日の夕食は「春爛漫」というタイトルが付けられ、先付けからお椀、向付、揚げ物、強肴、焼き物、炊き物、ご飯物、そしてお菓子の9品。

 宿泊料金に含まれるコースに、炊き物として鮑のしゃぶしゃぶ(別途10,000円)を追加した豪華版だ。

 実は、この旅館の再建は、全国に飲食店等を約400店舗展開している「際コーポレーション」の渾身のプロジェクトなのだ。食事が美味しくないわけがない。


華やかなお椀は、桜を使った海老とイカのしんじょうにヒスイ豆のすり流しが春の味。

 先付けは、炭火で焼いた筍と貝を添えた一口のご飯。

 色鮮やかなお椀は、海老とイカと桜を使ったしんじょうに、ヒスイ豆のすり流し。桜の香りが春を感じさせてくれる。


お刺身は小田原漁港から。添えてある山菜のこごみも春らしい。

 そして、向付は小田原漁港で水揚げされたアオリイカと鯛の刺身、揚げ物は鰻と山菜、丸十(さつまいも)の天ぷら、強肴は富士山を模したダイコンの酢炊き、焼き物は炭火で焼いた生粋かながわ黒毛和牛と近江牛。

 近江牛は、NHKの人気番組で紹介された滋賀県にある「サカエヤ」の新保吉伸さんが手がけたものだ。


極上の牛肉に、料理人が炭火でていねいに火を入れていく。

左は歯応えがしっかりした近江牛、右はサシが入って柔らかい生粋のかながわ黒毛和牛。コントラストで美味しさが際立つ。

 ここで、オプションの鮑のしゃぶしゃぶとなり、女将がていねいに鮑を1枚ずつ鍋からお皿へと入れてくださる。


薄くスライスした鮑のしゃぶしゃぶの、お刺身でもなく、煮物でもない絶妙な食感に悶絶!

 表面がやわらかく、かすかなコリコリ感が残る絶妙な火入れに悶絶! 実は、鮑のお刺身はコリコリしすぎて好きとは言えなかったのだけど、これは美味しい!

 お肉でそこそこお腹が膨れていたものの、箸が止まらずに完食してしまった。


土鍋ご飯はテーブルで蓋を開けて香りから楽しませてくれる。ご飯の友をつつく箸が止まらなくなる!

 最後に土鍋で炊いたご飯。そこに、アジのなめろう、カツオのふりかけ、ウドのきんぴら、山菜のお浸し、お新香とご飯の友が5種類も!

 どれもこれも美味しくて、お代わりをしたかったけれどもうお腹がはちきれそう。

 それでも別腹は残っていた(笑)。最後のデザートは、日向夏と湘南ゴールドを使ったアイスとわらび餅、そして塩昆布が添えてあった。甘味と塩味のスパイラルでこちらも最後まで美味しくいただいた。

 新鮮な旬の食材のエネルギーと、すぐに部屋に帰れるという安心感とが、胃袋のキャパを広げてくれたようなめくるめく夕食だった。


朝食も土鍋ご飯とともに。絞りたての日向夏のジュースからはじまり、主役の焼き魚はサワラ。自然薯のとろろ、春キャベツと新玉ネギの味噌汁、キンメダイの胡麻酢かけ、イワシ干し、牛肉と蓮根のきんぴら、卵焼き、野菜サラダなどなど。どれも丁寧な仕事がなされていて朝からお腹いっぱい!

 翌日の朝食も土鍋ご飯が主役。またもお腹いっぱい食べざるを得ないほどの(笑)、とびきりの美味しさだったことは言うまでもない。「瓢六亭」では、ランチは1,000円台から丼物などをいただくことができる。

「富士屋旅館」では、2019年7月19日(金)までの開業記念プランや、平日限定のひとり旅プランを設定している。前者は通常宿泊料金の半額に近いお得な料金なので、予約はお早めに!

富士屋旅館

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上557
電話番号 0465-60-0361
http://fujiyaryokan.jp/

瀟洒な一軒家のフレンチと
ガーデンカフェ

 2日目は、前夜にたらふく夕食をいただいたので、早朝に温泉大浴場で代謝を促してから朝食をいただいた。

 ところが、朝食が美味しすぎて、またもお腹がいっぱいに(笑)。ということで、まずは近隣の散策へ。

「富士屋旅館」から山側へ15分ほど歩くと、右手に看板が見えた。そこには、「不動滝 入口 徒歩1分」と書かれていた。階段を上ると、足湯と赤い日除けのあるイスとテーブルがあった。その先に美しい滝が見える。


滝を眺めながらお茶することができる「不動滝茶屋」。

 手前の建物は「不動滝茶屋」だ。4代目という店主の高木さんは、竹の筒にドリルで穴を開け続けていた。お土産物として売ったり、「不動滝茶屋竹あかり」というイベントで使ったりするランプシェードなのだという。


「不動滝茶屋」にある足湯。100円で利用できる。

 滝を眺めながらお茶をしたかったけれど、次の予定があったので我慢。マイナスイオンをたっぷりと浴びてから滝を後にした。

不動滝茶屋

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上750
電話番号 0465-63-4880

 実は、朝食後に歩いたのは、美味しいランチをいただくため。


竹林に囲まれたフレンチレストラン「エルルカン ビス」。

 予約してあったのは「エルルカン ビス」。竹林に囲まれた一軒家のフレンチレストランだ。

 オーナーシェフの伊東さんは、フランス、ベルギー、イタリアの星付きレストランなどで腕を磨き、97年に恵比寿に「エルルカン」をオープン。

 都会育ちのため自然の近くに憧れ、06年には湯河原に支店をつくった。その後、湯河原がすっかり気に入って、恵比寿の本店を閉めてしまったのだという。


店内には竹林を通した柔らかい明かりが差し込む。穏やかな日差しの昼や、月明かりで明るい夜には、テラス席もお勧めだ。

 暖簾をくぐって入口から中に入るとメインダイニングの手前には天然石のたたきがある。テラス越しに竹林の淡い緑が揺れている。なんてステキな雰囲気!

 メニューは、魚料理か肉料理を選ぶことができる「木漏れ日のランチ」と、メインの魚料理と肉料理を両方いただくフルコース「陽差しの中で宵の趣を」の2種類。今回は朝食をたっぷり食べたこともあり、前者を選んだ。

 アミューズはゆず風味のチーズシュー。続く前菜の魚介類のレアーグリルは火入れ具合が絶妙!


イチゴアイスにイチゴとイチゴジュースを添えた、イチゴづくしのデザート。

 秀麗豚肩ロースのコールドポーク カボチャのグリル添え、自家農園のキャベツのスープ、本日の鮮魚、イチゴのデザートまで、感動が続いた。

 そして、最後のハーブティーとともにいただいたのは、ブラジルのおやつのレシピにヒントを得て作ったというブラジルプリン。濃厚なのにしつこくないやさしい味で、恵比寿時代からのスペシャリテ。これを目当てで訪れるゲストも多いという。

「富士屋旅館」の和朝食の後のランチを「エルルカン ビス」にしたのは大正解だった。


オーナーシェフとマダムの伊東さんご夫妻。お話し好きのご主人がお店の雰囲気を温かくしている。

エルルカン ビス

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上744-49
電話番号 0465-62-3633
http://herlequin.com/


「町立湯河原美術館」内にあるミュージアムカフェ「and garden」には、足湯付きのテラスがある。

 ランチの後は「町立湯河原美術館」へ。目指すは美術鑑賞ではなく館内のミュージアムカフェ「and garden」。

 美術館の庭園側にテラスもあって雰囲気がいい。ここは、入館料を支払わずにカフェだけ利用することができる。

 プロデュースしているのは地元で人気の豆腐店「十二庵」。濃厚な豆乳を使ったメニューが人気のカフェなのだ。しかも、テラスには足湯がある!



左:ミニサイズの豆乳トマトスープ(右)と秘伝豆の濃厚ソイラテ。後者には、まるでソフトクリームのような濃厚な豆乳が沈んでいる。
右:無料で楽しめる足湯。この日は湯温がかなり熱かったけれど、お店の方に言ったら適温にしてくださった。お陰さまで歩き疲れた足がすっきりした。

 ランチセットは、ラー油と花山椒の香りの豆乳スープにご飯や惣菜が付いていて美味しそう! でも、無念にもランチ後だったので、ミニサイズの豆乳トマトスープと秘伝豆の濃厚ソイラテにした。

 豆乳なので、どちらもさっぱりしていてすいすいと胃袋に収まった。ちなみに、ランチのスープは食べている間に豆腐のように固まっていくというお楽しみがあるという。

and garden

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上623-1 町立湯河原美術館内
電話番号 0465-63-8686
http://www.facebook.com/andgardenyugawara/


「十二庵」は、小さな店舗ながら地元で人気の湯葉と豆腐の専門店。

 駅へと向かう途中、「十二庵」に立ち寄り、先ほどいただいた秘伝豆の豆乳や、豆腐、湯葉、お総菜などを大人買い。充実した一日となったのだった。


店主の浅沼さんは、契約農家などの安心できる素材を使い、湯河原の美味しい水によって、昔ながらの製法で豆腐を作っている。

十二庵

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上170-1
電話番号 0465-43-7750
http://www.12an.jp/

【取材協力】
際コーポレーション

https://kiwa-group.co.jp/

湯河原温泉観光協会

http://www.yugawara.or.jp/


たかせ藍沙 (たかせ あいしゃ)

トラベル&スパジャーナリスト。渡航約150回・70カ国、海外スパ取材約250軒超、ダイビング歴約800本超。日々楽しい旅の提案を発信中。著書は『美食と雑貨と美肌の王国 魅惑のモロッコ』(ダイヤモンド社)、薔薇でキレイになるためのMOOK『LOVE! ROSE』(宝島社)など。楽園写真家・三好和義氏と共著の『死ぬまでに絶対行きたい世界の楽園リゾート』(PHP研究所)は台湾と中国で翻訳出版、第2弾『地球の奇跡、大自然の宝石に逢いに… 青の楽園へ』(PHP研究所)も中国で出版された。新刊『ファーストクラスで世界一周』(ブックマン社)は発売即3刷!
Twitter https://twitter.com/aisha_t
ブログ http://ameblo.jp/aisha
「たかせ藍沙のファーストクラスで世界一周」Facebook
http://www.facebook.com/WRT.by.FirstClassFlight

文・撮影=たかせ藍沙



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