2019/05/28 17:00

近田春夫がアラン・メリルから学んだ ロックにおける曲作りの奥義とは?

 ロック、歌謡曲、ヒップホップ、テクノなど、変幻自在に幅広すぎる最先端のサウンドを世に送るかと思えば、勢い余って、タレント、文筆家、画家としても活躍。

 音楽界きっての才人、近田春夫がその67年の半生を自ら語るトークイベントが、2018年6月16日(土)、青山「本の場所」にて開催された。その模様をスペシャル連載としてお届けします!


▼talk04
日劇ウエスタンカーニバルに
憧れて


このイベントの会場となった青山「本の場所」では、川崎徹氏、朝吹真理子氏、円城塔氏、山内マリコ氏といった作家の朗読会なども開催されている。

 あれは1971年のこと。かのアミューズ帝国を築き上げた大里洋吉――当時は渡辺プロダクションの一介の若手マネージャーでした――の申し出により、20代になったばかりの私は、アラン・メリル、ロック・パイロット、ザ・ワイルドワンズという3組のキーボード演奏を行うことで、1組分のギャラを得られることになりました。

 まあ、冷静に考えてみるとかなり理不尽な契約なんですが、応じるにはそれなりの理由があった。

 私は、日劇ウエスタンカーニバルが好きだったんですよ。当時のグループサウンズの人気バンドが結集する一大フェスですね。

 それまでも、いろいろうまくコネを見つけて楽屋の方からタダで入ったりするコツは体得していたんですけど、いざ自分自身がステージに出られるとなると、本当にうれしくなった。もう金は二の次、二つ返事でOKしました。

 なかでも忘れられないのが、アラン・メリルのバックミュージシャンとしての活動。

 アランは、「ニューヨークのため息」と称される高名な女性ジャズシンガー、ヘレン・メリルの長男です。

 母親の再婚相手が米国の通信社のアジア総局長だったため、その仕事の関係で日本に住んでいた彼は、そのカッコいいルックスを買われ、ナベプロによってアイドル的に売り出されていました。

 しかし、その戦略は頓挫。契約が切れるまでは好きにやっていいよということで、放置されていました。

 もはや事務所側が用意したいわゆるGS的な持ち歌はやらなくてよくって、単純にアランが好きな洋物の曲を好き勝手に演奏していたんです。

 ウエスタンカーニバルは1週間続きますし、PYGというバンドの前座として地方を巡ったりすることもあったので、彼と楽屋で話す機会も増え、そんな中で意気投合しました。

 信じていただけないかもしれませんが、当時、私は楽屋ではすべて英語でコミュニケーションを取っていたんですよ。おかげさまで英会話も結構上手くなりました。今ではその片鱗すら残っていませんが……。

「ゴジラ」という
バンド名の由来は?

 そんなわけで、アランとナベプロとの契約が切れたら、一緒にバンドを組まないかという話が浮上した。

 ヴォーカルとギターのアラン、キーボードの僕、そしてドラムの金沢ジュンという編成で、新しいバンドが誕生しました。僕が左手でベース音を奏でるという、いわばドアーズのスタイルですね。

 その頃、T・レックスというイギリスのグラムロックのグループが人気を博していました。僕らも大好きで、よくステージで彼らの楽曲を披露していたんです。

 T・レックスに勝つにはどうすればいいか、ということで、アランが提案したバンド名が「ゴジラ」だった。彼の発音通りに言えば「ガッズィーラ」。

 T・レックスというのはティラノサウルス・レックスの略称だから、それに勝つのはゴジラしかないって論理なんです。ゴジラならアメリカに行ってもみんなその存在を知ってるからいいんだという。

 最初にやった仕事は、パイオニアが販売促進のために全国を巡業するツアーだったはず。第1部がライブで、第2部がフィルムコンサートだったと思う。

 あと、軽井沢の簡易ディスコみたいなところで1カ月ずーっと演奏するという仕事もやったなあ。

 そのうちバンドの音もまとまってきたから、コロムビアだったかな、レコード会社のオーディションを受けてみたんですが、その評価は今ひとつ芳しいものではなく、デビューの話はポシャってしまった。

楽曲の構築法の根本的な違い


【近田春夫絵画館④】
《前進あるのみ》
この先に何が待ち受けていようと、課せられた任務は果たさなければならぬ。それにしてもハイヒールを選んだことは失敗だったのか。裸足になるべきなのか? このまま履き続けるべきなのか? 今、まさに問われているのはそのことなのである。

 そんな頃に、アラン・メリルが、自分が書いたというオリジナルの楽曲を聴かせてくれた。これが、どれもこれもカッコいいんですよ。

我々日本人がロックとしてとらえている音楽の作り方と、彼のそれは、まったく違う。楽曲を構成する要素のプライオリティが異なっているんです。

 例えば日本人だったら、まずメロディーがあって、それに対してコードを付けていくみたいなやり方をするんですが、アランの場合は、まずひとつの太いリフを考える。それに対し、カウンターとなるひとつの旋律があって、そのふたつだけで音楽が成り立つ。

 いわゆるコード進行とか、そういう発想がまったく存在しない。もちろん、楽曲の中でコードは変わっていったりもするんですが、とにかく、自分がそれまで考えていた音楽の構築法とは違う。

 それまでの私には、ずっと抱いていた疑問がありました。GSのバンドがジャズ喫茶でコピーしていた洋物の曲と、彼らがレコードとしてリリースした日本製の曲との間には、何か歴然とした違いがある。

もちろん歌う言語の差異もあるわけですが、それだけには収まらない絶対的な違いがある。

 自分は、外国の人が作るような音楽を作りたいという一心でいたものですから、アラン・メリルの音作りとの出会いは衝撃でした。

 レコードとしてすでに完成した外国の音楽ではなく、ゼロの状態から外国人が作る音楽というものに生で接して、音楽へのアプローチの意味が根本的に違うんだという事実に愕然としました。

 ただ、アメリカ人やイギリス人すべてがそういうアプローチを行っているのか、アラン・メリルという人間に限ってのことだったのかは分からない。

 まあ、後になって、日本人と同じように、旋律と和声という関係性から普通に音楽を作っているロックミュージシャンも英語圏にはいっぱいいるんだということにだんだん気づいてきましたけど。

 さて、アランはアメリカ国籍だったので、ビザの更新のたびに本国に帰らなくちゃならない。バンドって、ずっと続けてないと気持ちが離れちゃうのよ。

 アランが3カ月ぐらい渡米して、帰って来たその日に、有楽町かどこかで一緒に『時計じかけのオレンジ』を観たことをよく覚えています。あの映画のどこがどういう風に面白いのか、彼はいろいろと説明してくれました。

布施明から学んだ
ステージマナー

 その後、疎遠になったわけじゃないんだけど、2人とも実家住まいだし、半分アマチュアみたいなものなんで、あんまり仕事もせずにブラブラしているうちに、バンドの存在自体があいまいになっちゃった。

 そうこうしているうちに、アランは、元ザ・スパイダースのかまやつひろしさんや元ザ・テンプターズの大口広司さんとウォッカ・コリンズというグループを作って73年にデビュー。「オートマティック・パイロット」「サンズ・オブ・タイム」という名曲を世に出します。

 一方の僕はといえば、しばらくロックから離れて、ナベプロ関係の仕事を結構請け負っていました。

 布施明さんのバックでもよく演奏してたんですが、布施さんから学んだものは大きかった。

 昔の日劇公演というのは、一日に3ステージもやっていたんですよ。同じ日に3回も同じことをやると飽きてくる。その時に、どうやってお客さんに分からないように悪ふざけをするか。そういうことはずいぶん教わりましたね。

 忘れもしない、「愛の園」(作詞/山上路夫 作曲/平尾昌晃)という曲に、♪ちょうどアダムとイヴのように~ という歌詞があるんですが、布施さんは、この曲を何回も歌うのに飽きてきた頃に、お客さんには気づかれないように、♪ちょうど熱海と伊豆のように~ と歌う。

 ものすごい真顔で歌っているんだけど、その後に、振り向いて僕らにウインクしたりするんです。

 そんな風にロック界から遠のいていたある日、アラン・メリルから久しぶりに連絡が入りました。

talk05に続く


近田春夫(ちかだ はるお)

1951年東京都生まれ。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。80年代以降はビブラトーンズなどを率いてバンド活動を続ける傍ら、タレント、ラジオDJ、作詞・作曲家、CM音楽作家など多彩に活躍する。86年にはプレジデントBPMを名乗って日本語ラップの先駆者となり、87年には人力ヒップホップバンドのビブラストーンを結成。96年からは週刊文春で「考えるヒット」を連載している。現在は、元ハルヲフォンのメンバー3人による新バンド「活躍中」として活躍中。2018年10月には、ソロアルバム『超冗談だから』をリリース。12月には、OMBとのユニット、LUNASUNのアルバム『Organ Heaven』が発売された。最新の著書に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)がある。



近田春夫&ビブラストーン
『Vibra is Back』

近田春夫が結成したファンク&ヒップホップバンドがメジャーデビュー前の1989年にリリースした唯一のライブ盤が復刻。DAT一発録音のダイナミズムに圧倒される。ブックレットには、近田自身による楽曲解説と、近田と高木完が時代背景を語り合う対談を収録。
ソリッド 発売中 2,300円(税抜)



近田春夫『超冗談だから』

ソロ名義としては38年ぶりとなるニューアルバム。作詞・作曲・編曲には、秋元康、のん、AxSxE、児玉雨子らに加え、筒美京平マニアの市井の作家などが参加。男性アイドルポップス、ラテン歌謡、ディスコ歌謡、シティポップなど、バラエティに富んだ10曲を収録。
ビクター 発売中 2,778円(税抜)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026255/VICL-65050.html



LUNASUN『Organ Heaven』

近田春夫がDJにしてトラックメーカーであるOMBとともに活動する2人組ユニット、LUNASUNによるアルバム。近田のグルーヴィーな手弾きのハモンドオルガンが炸裂している。ジャケットを飾るのは、画家としても活躍する近田春夫書き下ろしのイラスト。
ビクター 発売中 2,037円(税抜)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026255/VICL-65087.html



近田春夫『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』

近田春夫の長いキャリアにおけるロックおよびポップスのオリジナル楽曲に焦点を絞ったベストアルバム。ソロ名義、ハルヲフォン、ビブラトーンズ、そして現在の所属バンドである「活躍中」の楽曲も収録。最新リマスタリングで過去の楽曲もブラッシュアップされた。
ビクター 2019年2月27日(水)発売 2,778円(税抜)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026255/VICL-65138.html

【取材協力】
本の場所

https://www.honnobasyo.com/

構成=下井草 秀(文化デリック)
撮影=釜谷洋史
写真=文藝春秋



【関連ニュース】

今日の運勢

おひつじ座

全体運

人当たりは柔らかいけれど、内面は決してゆずらない今日のあな...もっと見る >