2019/06/26 17:00

小説『県民には買うものがある』は ネットから生まれた新しい愛のかたち

ネットから生まれた
新しい愛のかたち。

今月のオススメ本
『県民には買うものがある』

 ソシャゲに課金しツイッターに張り付いて、インスタやpixivを閲覧する……。スマホやPCを見ている時間がそれ以外の時間と拮抗しつつある現代社会では、どんなふうに新しいコミュニケーションが行われどんな新しい自意識が生まれているか? 全5篇収録。
笹井都和古 新潮社 1,400円

 1994年生まれの笹井都和古は、滋賀県生まれ滋賀県育ち。初単行本の表題作に当たる短篇で、第15回「女による女のためのR-18文学賞」友近賞を受賞した。自身がかつて抱いていた地元に対する焦燥感が、デビュー作を着想するきっかけとなったそう。

「滋賀の中でも都会じゃないほうに住んでいたので、ずっとここにいるのはどうなのかな、外に出たいなって憧れる気持ちがありました。でも、高校へ進学した時、琵琶湖に面した街で生まれ育った子たちと会ったら、自分が今いる場所への肯定感がすごかったんですよ。滋賀県民でも地元が琵琶湖から遠いか近いかでコンプレックスの度合いは違うみたいです」

 主人公は大学進学を機に外へ飛び出すが、SNSに象徴されるネット空間が、新たな閉塞感をもたらす。

「SNSのくだりは、私自身が大学時代に会った、京都のモテる男たちにムカつく気持ちが入ってます(苦笑)。『あの女の子とヤった』とか公言することで、自分の価値を高めようとする男って最悪じゃないですか」

 第2作は2050年代(!)のバーチャルアイドルグループの男性声優を主人公にした「CV:ユキハライッサ」。肉体を必要としないセックスの快楽が、ネットによって実現した世界で巻き起こる悲劇を綴った。

「女の子が主人公だと、自意識のことばかり書いてしまいがちなんです。ネットを介して傷つける側の感情と傷つけられる側の感情、いろんな視点から書きたかったので、男性を主人公にしてみました」

 現実とネットが当たり前のように同居する2010年代のリアルな肌感覚を、作家はその後も物語へと昇華していった。ひとつの達成点が、最終第5篇「続きはオフラインで」。架空のキャラになりきってネット上で会話する、「なりきり」というコミュニケーション文化を題材に選んだ。

「新しいツイッターアカウントを作って、自分でも“なりきり”をやってみました。特定の相手とツイッターのDM機能で、お互いに乙女ゲーのキャラになりきって睦言を交わすんです。最初は女の子同士がネットで繫がる安心感みたいなものが書きたいなと思っていたんですけど、実際にやってみたら、これって愛だなと思ったんですよ」

 ネットに対する違和感や怒りから始まった小説家の旅路は、ネットが生み出した新しい愛のかたちへと辿り着いたのだ。

 次回作は、長篇に初挑戦するという。「近未来を舞台にした、愛についての話です」


笹井都和古(ささいとわこ)

1994年滋賀県生まれ、滋賀県育ち。京都精華大学人文学部中退。
2016年「県民には買うものがある」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」友近賞を受賞。ドラえもんとハムスターがすき。

文=吉田大助



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