2019/08/03 15:00

特別対談 近田春夫×矢野利裕 ジャニー喜多川の審美眼の謎に迫る

 2019年2月、近田春夫の綴る週刊文春の長寿連載「考えるヒット」から興味深い書籍が誕生した。

『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。タイトル通り、ジャニーズ事務所に所属するアイドルたちの曲を扱った、神回ならぬ「ジャニ回」を抽出してまとめたスピンオフ的な一冊である。

 その出版を記念し、ジャニーズ事務所が60年近くにわたって生み出してきた音楽をめぐって1951年生まれの近田氏と語り合うのは、2016年に『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)を上梓した1983年生まれの矢野利裕氏。

 32歳違いのトークをお楽しみあれ!


▼talk 04
ジャニーズと戦後民主主義


左から、矢野利裕氏、近田春夫氏。ジャニーズを語らせたら最強の論客である。

――矢野さんの『ジャニーズと日本』でいちばん刺激的だったのが、ジャニーさんが日本にアメリカのショービズを輸出していることの意味合いを《戦後日本の民主化を娯楽の面から支える、ということだ》と読み解いているところでした。

矢野 ジャニーさんが米軍の一員として来日したこともあって、日本に戦後民主主義が根づいていく歴史の枠組みから、ジャニーズを捉えるべきだと見立てたんです。

 もともと野球チームだったのも興味深くて、というのは当時の新聞なんかを見ると、野球って必ず民主主義とセットで語られているんですよ。打者が替わっていって全員に機会が与えられるのは平等の表れだ、とか。

 そういう語られ方をしていた時代に少年たちを集めて野球チームを作ったことには、啓蒙的な意識があったのかなと想像しました。

近田 背景にはアメリカの国策があったわけじゃないのかな。

矢野 どれぐらい明文化されているかはわからないんですけれど、米軍は日本の民主化という名目で来ているわけだから、その一環というかミクロな振る舞いとして、野球を含めた娯楽やスポーツを教えるということもあったのかなとは思います。

近田 60年代にテレビでアメリカのテレビドラマが放映されたのは、完全に国策だったらしいよね。ライフスタイルを伝えて日本人を教化するみたいな意味で。そういうこととつながる部分があるんですかね。

矢野 あると思います。スウィングジャズは国策的に輸出されたそうですし、ジャニーさんの振る舞いもそのへんとセットになっている感触はありますよね。

近田 でも、具体的にジャニーさんがなんらかの命を受けて日本に乗り込んできたとか、そういうことじゃないでしょ?

矢野 その裏取りをしたいんですけど、出てこないんですよね。

近田 結果的にそうなっただけじゃないかって気がするんだけどな。

矢野 僕もそっちじゃないかと思っています。ただ、「ジャニーズ系」という顔の好みができるぐらい教育されているのはすごいことだと思います。日本人の価値観を変えたんだなと。

近田 すべてがジャニーさんの好みだからね。

一本釣りの基準は誰にも分からない


近田氏の著書『考えるヒット テーマはジャニーズ』には、週刊文春の連載コラム「考えるヒット」から140回分が抜き出されている。

――ジャニーさんの才能って、以前ご指摘のあった言語感覚と、少年たちのスカウティングと、あとはどんなことがあると思いますか?

近田 若い女の子の気持ちをずっと持っていたということだよね。だからジャニーさんがいいと思うものは女の子たちもいいと思う。それは本当に天才的なものだよ。特殊な目を持っているんだと思う。

矢野 100人ぐらいの子たちが踊っている中で「ユー」って一本釣りするわけじゃないですか。誰にも理由がわからないらしいんですよね。

「なんで隣のこの子じゃなくてこの子なの?」と。でも、いざデビューさせてみると「ああ、やっぱりこの子だったんだ」とみんな納得する、というパターンが本当に多いと聞いたことがあります。

近田 そうそう。

矢野 その審美眼の確かさ、しかもそれが衰えなかったのはすごいですよね。

近田 そればっかりは、ジャニーさんにしかないものだと思うよ。

矢野 あとは、例えば『ウエスト・サイド物語』を見て「これを日本でもやろう」と思ったときに、なかなか初代ジャニーズみたいにはならないと思うんですよ(笑)。

 抜き出し方がものすごく独特で、唯一無二だなと思います。今後、ジャニーズがどうなるかというのは想像もつかないですね。

――音楽面でジャニーさんのセンスが発揮されている部分はあるんでしょうか。

近田 昔はあったと思うけど、今はわからないね。

――よく聞くのは、ジャニーさんもメリーさんも音楽面には無頓着で、何か鳴っていればいいんだ、みたいな。だから結果的にああいうユニークなものになると。

近田 さっきも言ったけど、歌は仮歌みたいなもんなんだよね。やっぱりジャニーズにとっていちばん重要なのはフォーメーションだから。

矢野 何か明確にタッチしているみたいな話は聞かないですけどね。ただ、ジャニーさんの好みとかジャニーさんの世界観を熟知しているブレーンがいるという噂は聞いたことがあります。

近田 ジャニーさんの精神みたいなものは受け継がれていると思う。他の方向には行っていないよね。

矢野 そう思います。

ハモりよりユニゾンに魅力がある


矢野氏の最新刊は『コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』。川上音二郎、榎本健一、美空ひばり、クレージーキャッツ、YMO、ピコ太郎など、日本におけるノヴェルティソングの系譜を追った快著である。

近田 ジャニーズには本当のラブソングが意外とないんだよね。誰かを見つめて「僕は君が好きでたまらない」みたいな歌ってないでしょう。

矢野 ないですね。

近田 それよりもさ、SMAPの「がんばりましょう」(1994年)じゃないけど、コミカルなものが多いじゃない。昔の「スシ食いねェ!」(1982年)とかさ。そういう、かっこいい人たちが歌ってもかっこよくならないような曲で、ファンじゃない人たちの気持ちをつかむんだよね。

 そのあたりのセンスがどこから来ているのかわからないんだけど。いまだに関ジャニ∞とかそういうところがあるじゃない。

――制作現場やメンバーの自主性に任せている部分もあるんですかね。

近田 どうなんだろうね。俺もまったく内情を知らないからわからないけど。

矢野 最近はちらほらメンバーが作詞、作曲していますよね。

近田 そこは時代の流れで、KinKi Kidsの人たちなんかが主体性を発揮するようになってから変わってきたのかもしれないね。

矢野 でも、堂本剛くんなんかはすごく自主性を発揮しているけど、不思議とジャニーズっぽいと思っちゃうんですよね。

近田 そうなんだよ。あれは不思議だよね。

矢野 アレンジまでやっているケースは、さすがにシングル曲では見ないですね。

近田 そういう意味での本当のミュージシャンはいないよね。作詞、作曲をやるケースはあっても、制作に対して基本的に意見は言わないと思う。

 ある種の距離というか、ここからは立ち入らないという暗黙の何かがあるからこそ、ジャニーズのサウンドカラーが保たれているんじゃないかな。

矢野 たぶんSMAP以前にジャニーズの精神とか世界観はかなり共有されていて、以降はそれを前提にした上で、具体的なディレクションとかは現場裁量の部分も増えているんじゃないかと想像します。

 最初に話に出た、あのジャニーズ的な歌。あれが入るとどんな曲もジャニーズっぽくなるという担保があるから。例えば少年隊の「FUNKY FLUSHIN'」(1990年)は作者の山下達郎が歌うと山下達郎になるけど、少年隊が歌うとやっぱりジャニーズなんですよね。特徴がないところが逆にジャニーズ印になっている。

近田 揃っているんだかいないんだかよくわからないような、妙なあのユニゾンの感じね。そこは初代ジャニーズから変わっていない。今はうまくハモるグループも増えているけど、基本的にハモりよりユニゾンに魅力がありますよね。

矢野 そうですよね。初代ジャニーズのレコードにも(混声)と書いてあるんですけど、4人いるのに2部混声なんですよね。

近田 しかも歌に感情を込めないじゃん。どうしても踊りのほうに重きが置かれるんでしょうね。

talk05に続く


『考えるヒット テーマはジャニーズ』

著・近田春夫
本体1,600円+税 スモール出版


近田春夫(ちかだ はるお)

1951年東京都生まれ。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。80年代以降はビブラトーンズなどを率いてバンド活動を続ける傍ら、タレント、ラジオDJ、作詞・作曲家、CM音楽作家など多彩に活躍する。86年にはプレジデントBPMを名乗って日本語ラップの先駆者となり、87年には人力ヒップホップバンドのビブラストーンを結成。96年からは週刊文春で「考えるヒット」を連載。現在は、元ハルヲフォンのメンバー3人による新バンド「活躍中」として活躍中。2018年10月には、ソロアルバム『超冗談だから』をリリース。12月には、OMBとのユニット、LUNASUNのアルバム『Organ Heaven』が発売された。


矢野利裕(やの としひろ)

1983年東京都生まれ。批評家、ライター、DJ。東京学芸大学大学院修士課程修了。2014年、「自分ならざる者を精一杯に生きる――町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と二十一世紀』(おうふう)、単著に『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」』(垣内出版)、『コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』(Pヴァイン)がある。

構成=高岡洋詞
撮影=山元茂樹



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