2019/08/02 21:00

韓国映画が最高賞を受賞! カンヌ映画祭初の快挙に拍手

韓国のポン・ジュノによる
『パラサイト』が最高賞

 Bienvenue à Cannes !  ようこそ、カンヌへ。今年はフランス語で書いてみた。

 とはいえ、実はもう私マダムアヤコは映画祭トラベラーとしての次の地、韓国のプチョンにいるんだが。レポートがすっかり遅くなって、すみません。

 今年で72回目となるカンヌ国際映画祭は、2019年5月14日~25日まで開催された。

 最高賞パルムドールは、韓国のポン・ジュノ監督作品『PARASITE(パラサイト)』(英題)だった。


パルムドールは黄金の棕櫚(シュロ)の意味。そのトロフィーを手に微笑む、ポン・ジュノ。

 今年は日本作品がコンペティションに入らなかったせいか、あまり日本ではカンヌについて話題になっていないようだけど、これは快挙。

 なにせ韓国映画としては初のパルムドールで、なおかつ韓国映画誕生100年という記念の年に受賞したということで、韓国では非常な盛り上がりで、作品も大ヒットしている。

 もちろん、カンヌでもとても盛り上がった。公式上映のソワレにも私は運良く参加していたのだけれど、スタンディング・オベーションも7、8分続き、ポン・ジュノが「ありがとう。夜も遅いので、帰りましょう」と呼びかけたほど。


『パラサイト』上映直後の様子。中央やや左よりに、ソン・ガンホとポン・ジュノの姿が見える。大喝采だった。

 家族全員失業中の一家が、IT企業社長一家に、家庭教師をきっかけに寄生していくという『パラサイト』は笑わせて、泣かせて、ドッキリさせてという、めちゃくちゃ面白い映画で、ソン・ガンホとイ・ソンギュンらの演技も抜群。

 これは傑作だ、パルムをあげたい、とマダムアヤコも思ったものの、次点のグランプリか監督賞の受賞になっちゃうかな、と感じなくもなかった。

 というのも、昨年の是枝裕和監督の『万引き家族』に続いてアジア映画が2年連続で最高賞というのは難しいかもな、なんてそんな余計なことを考えてしまったのだ。我々プレスの悪いところだが、私だけではなく、そういう声が周囲でも聞かれた。

 しかし、『レヴェナント:蘇りし者』の監督で今年の審査委員長アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥらは、そんなジンクス的なことに囚われなかった。


史上最年少、21歳で審査員を務めたエル・ファニング。今年のレッドカーペットの主役だった。隣は同じく審査員で、去年『COLD WAR あの歌、2つの心』で監督賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキ。

昨年に続きアジア作品が
パルムドールを獲った理由とは

 実際、カンヌ史上、ヨーロッパ、アメリカ以外の地域が最高賞を連続受賞するということは過去になかったのだが、これは、かつてはアジアやアフリカなどからの出品が少なかったから、ということも大きい。

 1970年代までは、アジアからは日本とインドくらいしかほぼコンペへの出品自体もなかった。世界中どこへでも行けるような我々の時代とは違い、フランスとアジアは遠く離れていたし、紛争中の地域も多く、映画祭に出品する余裕などなかったのだ。

 まあ、その頃に日仏合作で『愛の亡霊』('78)を作って、第31回の監督賞を受賞した大島渚はすごいな、とも思うし、『戦場のメリークリスマス』('83)はなんで無冠に終わったのか、という話もいつかはしたいが、それはさておき。


今年のカンヌのアイコンは、3月に90歳で亡くなったヌーヴェルヴァーグの母、アニエス・ヴァルダ。女性監督の先達で小柄だった彼女が、男性スタッフを踏み台にしてカメラを覗いているというもの。今年は女性監督作品も多かった。

『パラサイト』ほど
完成度の高いものは
そうそうない

 ポン・ジュノ監督の『パラサイト』は、今年のカンヌで批評、人気とも抜群の受けだった。

 格差社会の中で見えない、いないことにされている人々、という題材は『万引き家族』や、昨年の審査員賞受賞作『存在のない子供たち』(原題『カペナウム』)をはじめ、近年多くの作品が扱っているし、世界のどの地域でも深刻度を増している問題なのだが、『パラサイト』はそこにブラック・コメディのフォーマットを使って切り込んだ、というのがとても新鮮だった。

 正確に言えば、貧富の差を風刺した映画は沢山あるが、『パラサイト』ほど完成度の高いものはそうそうお目にかかれない。

 審査員のイニャリトゥは受賞の理由として「シリアスな問題をユーモラスかつ思いやりと共に描き、善悪を決めない。ローカルな映画でありながら、非常に国際的であり、“映画とは何か”という本質が理解されている」とし、満場一致での受賞と絶賛した。

「我々は誰が撮ったのかということは考えず、審査した」ともイニャリトゥは語ったが、そこに批評家は囚われ過ぎちゃうんだよね。反省。

 ネタバレしないでほしい、とポン・ジュノ直々のお願いがあったので詳細は伏せるけれども、単なる寄生の話ではなく、途中から引っ繰り返るような展開になる。

 カンヌで手を叩いて爆笑しちゃったもん。まあ、マダムの場合、しょっちゅう爆笑しているんだけどさ。よくぞこんな仕掛けを考えついたなと思うし、「におい」を格差の象徴に持ってきたのも、舞台となる豪邸がすべてセットだというのも驚いた。

 ちなみに、ポン・ジュノに取材もしたのだが、この映画を撮る前にキム・ギヨンの名作『下女』('60)を何度も見直したそう。これは貧しい女性が中流家庭に入り込むスリラーであり、「家」がやはり大きな意味を持っていた。

SFやスリラーの皮をかぶった
社会問題を描いた作品

 今年のカンヌは、『パラサイト』をはじめ、コメディやSF、スリラーなどいわゆるジャンル映画のフォーマットにのって、社会問題を描く、という作品が目立った。

 セネガル系フランス人のマティ・ディオプが長編第一作でいきなりグランプリを受賞した『アトランティック』(原題)もSFという形で、アフリカにおける搾取の問題を描いていたし、審査員賞の『バクラウ』(原題)もオカルト風味で格差を描いた。


『アトランティック』でいきなりグランプリに輝いたマティ・ディオプ。セネガル系フランス人で、父は作曲家、伯父は監督というサラブレッド。死者が蘇るという設定は、今年多かったモチーフだった。

『ザ・デッド・ドント・ダイ』の会見。左からジム・ジャームッシュ、ティルダ・スウィントン、セレーナ・ゴメス、ビル・マーレイ。ゾンビ役がぴったりだったイギー・ポップがいなくて残念。

 今年はジム・ジャームッシュの開幕作『ザ・デッド・ドント・ダイ』(原題)もゾンビ・コメディだったし。

 そんな中、完成度は高かったのに割をくってしまったのが、常連ペドロ・アルモドバルの自伝的作品『ペイン・アンド・グローリー』(原題)だ。その話は、また次回に。



左:おまけ。プチョン国際ファンタスティック映画祭に参加していた、斎藤工、永野、SWAYの『MANRIKI』チーム。斎藤さん企画・主演の不条理ホラーで、永野さんは出演(女装が似合う)だけでなく、原案、脚本も担当し、異能を発揮。ちょっと驚いた。今秋公開。
右:さらにおまけ。韓国の映画雑誌CINE21。『パラサイト』を海外評論家はどう見たか、という特集で表紙に私の名前が載ってしまった。아야코 이시즈 で「アヤコイシヅ」らしい。検索するとweb 版で原稿読めます。韓国語ですが。私は日本語で書いたのだが力を入れすぎて、CREA WEB のコラムが遅くなってしまったことを反省してます……。


石津文子 (いしづあやこ)

a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。執筆以外にトークショーや番組出演も。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。長嶋有さん主催の俳句同人「傍点」メンバー。俳号は栗人(クリント)。「もっと笑いを!」がモットー。片岡仁左衛門と新しい地図を好む。

文・撮影=石津文子



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