2019/09/02 11:00

ゴーギャンやブレルが眠る “人類の大地”マルケサス諸島

 赤道を越えた南太平洋に、“楽園”という響きが世界でいちばん似合う島々がある。

 19世紀後半から20世紀にかけて、欧州の画家やシンガーなどアートに心捧げた人々は、文明によって失われた楽園を求め、タヒチを目指した。

 彼らを惹きつけてやまなかった何かを探しに、タヒチの島々――ボラボラ島、ファカラバ島、マルケサス諸島のヒバオア島、タヒチ島へ渡った。


ゴーギャンやブレルが眠る
マルケサス諸島


12の島々からなるマルケサス諸島のうち、南部を代表するヒバオア島。

 タヒチ島の北東、約1,433キロ。国内線を乗り継ぎ約3時間50分。

 寒流のペルー海流に洗われるマルケサス諸島は、タヒチの他の島々ではおなじみのトロピカルなコーラルリーフはなく、荒々しい断崖が太平洋からそそり立っている。


タヒチ島からヌクヒバ島を経て、ヒバオア島へ。

ヒバオアの空港ではレイを手に出迎える人々が。

 ここまで遠く離れると、タヒチ島とは30分の時差があり、言葉も異なる。

 たとえば“ありがとう”は、タヒチ語で「マーゥルゥル」、マルケサス語で「ヴァイエィヌィ」。古代の先住民族であるマオヒの言葉の影響が残っているという。

 紀元前2世紀、タヒチの人々の祖先はサモアなどから新天地を求めてマルケサス諸島へ、それからタヒチ各島へと移り住み、やがて北のハワイ、南東のイースター島、南西のニュージーランドへとわたり、いわゆる「ポリネシア・トライアングル」を形成した。

 マルケサス諸島のことを“人類の大地”を意味する「ヘヌア・エナナ」と呼ぶのは、人々の移動の起点になった場所だからだろうか? と、想像も膨らむ。


ヒバオア島で唯一のリゾート、ホテル・ハナケエ・パール・ロッジ。

 今回、訪れたヒバオア島は、12島からなるマルケサス諸島のうち、2番目(フレンチポリネシア全体では3番目)に大きな、南マルケサス諸島の中心的な島。


実がなっているところを初めて見た、アボカドの木。本来の味は甘く、フルーティー。

 伝説によるとマルケサス諸島の12の島々は神の屋敷の各部分を示し、ヒバオア島は大梁とされている。家の中でも重要な部分だ。

 また、肥沃な土地から「マルケサス諸島の庭園」という呼び名もある。


ヒバオア島の中心地、アツオナの町。

馬が当たり前のように、グラウンドや道路脇につながれている。

 そんなヒバオア島は、画家ゴーギャンが1901年に、ベルギーの歌手であり詩人であり俳優でもあったジャック・ブレルが1975年に移り住み、終の棲家に選んだ場所だ。


島の素地はきっと千年単位で変わっていない。

 彼らの目に映ったヒバオア島と、今の風景はきっと変わらない。ヨーロッパ人が初めて訪れた大航海時代も、紀元前2世紀の民族の大移動時からも、きっと変わっていない。

 そう思わせる原始の自然がここにある。

ゴーギャンとブレルの足跡を
たどってアツオナの町へ


見晴らしのいい丘から見下ろしたアツオナの町。

 ヒバオア島は標高1,276メートルのテメティウ山が侵食して生まれた火山島だ。だ。

 面積320平方キロメートルに7つの村があり、人口はおよそ1,800人。その多くが南部の中心地アツオナの町に暮らしている。


改装したトラックで野菜を販売している島民。

 画家ゴーギャンや詩人にして俳優のジャック・ブレルが暮らしていたのも、中心地のアツオナ。

 背後にテメティウ山とフェアニ山の1,000メートルを超す高峰がそびえ、タアアオ湾の穏やかな入り江に面している。


馬もメインの交通手段のひとつ。

 アツオナの村には「ゴーギャン」という名のよろず屋さんや、石の彫像のティキが並んだ広場、工芸品を地元アーティストが持ち寄る「ファレ・アルチザン・アツオナ」、そしてトラックで野菜や卵を販売にやってくる移動マーケットも。

 そんな村の真ん中を裸馬に乗った島民が通り過ぎる。


ゴーギャンの足跡をたどれる博物館。

 アツオナ村の観光のハイライトは、ゴーギャン博物館。ゴーギャンの作品のレプリカ群やバイオグラフィ、画家仲間へ送った書簡などが展示されている。


ゴーギャンが暮らした家を再現した“快楽の家”。

イーゼルや絵具も部屋の一角に置かれている。

 敷地内には、“快楽の家”と呼ばれる、彼が生前暮らしていた家も再現されている。

 高床式の家に入ると、まずはベッドルーム、そして陽射しが差し込む広々としたアトリエへ。

 一画には描きかけのキャンバスと絞りだされた絵具、筆立てが無造作に並んでいる。


愛機「ジョジョ」が中央に置かれた、ジャック・ブレルの展示。

 また、同じ敷地内にジャック・ブレルにまつわる展示エリアも。巨大な倉庫のような建物内に、彼の歌声が流れ、彼が愛した「ジョジョ」という名の双発飛行機が中央に鎮座している。

 多才なブレルはシャンソン歌手であり、詩人であり、俳優であり、腕利きの飛行家でもあった。ヒバオア島ではタクシー飛行機として働き、島民も大いに助かったという。

 ちなみに彼が最後に録音した18曲はヒバオアでの日々を歌ったものだが、アルバムには12曲を収録、残りの6曲は永遠に発表されることはないそうだ。


ゴーギャンの墓とブレルの墓は、すぐそば。

 二人とも、アツオナの町と太平洋を見渡す丘の上の「カルヴェール墓地」に眠っている。

「カルヴェール」とはフランス語で「厳しい試練」。その名にはそぐわない、雄大な絶景が目の前に広がっている。

走行距離95キロ
時空を超えた島の旅


精気あふれる自然の島。植物も元気いっぱい。

 粗削りの自然が広がるこの島では、“マナ”や“スピリット”といった、目には見えないものの存在も、不思議と信じられる。


ホテル・ハナケエ・パール・ロッジ近くの森にたたずむ笑っているようなスマイリング・ティキ。

 そのせいか、島には多くのティキ(守り神)の石像が点在している。

 ガイドの話によると、考古学者によって250体のティキが発見されたけれど、宣教師によって破壊されたものもあり、山の中には900体以上が眠っているのではないかという。


ツアーガイドのヘイアウさん。途中、美声で一曲。

 ティキ像などには伝統的な手法が使われている。一説ではフレンチポリネシアのアートの起源はマルケサス諸島だとする声もある。この島の空気が、感覚の深部を刺激してアートが生まれるのでは、と思えてくる。


ヤシやパンノキなど、食べられる植物が繁茂。パンノキは約50種もあるとか。

 島の深部や入り組んだ海岸線を4WD車で走行しながら、自然やカルチャーについて話を聞く1日ツアーに参加してみた。


見上げれば、ユニークな形の山。

ヤギの群れが通過するまで、車はじっとスタンバイ。

 南部のアツオナの村から北部へ、そして東部へ。車が行くのは赤土がむき出しになった道や、ガードレールもない断崖、時に野生のヤギの群れに行く手を阻まれることもあった。


貸し切り状態のナホエビーチでフリータイム。

教会前でおしゃべりに興じるタヒチアンたち。

 見たこともない形の山塊や、カルデラ状の入り江が続く。いくつかの入り江を過ぎて、小さな村に入ると、小さな教会がぽつんと立っていたりする。


1991年にフランスの考古学者によって復元されたイイポナの遺跡。

 イイポナの遺跡では、一段高い位置にフレンチポリネシア最大の高さ2.67メートルのティキ“タカイイ”が鎮座している。

 うつ伏せに空を飛ぶポーズの像(ティキ・マキ・タウア・ペペ)は、出産をしている女性だそうだ。

 足を延ばして座っている、タカイイの妻とされる座像もある。森の中の小さな王国へ迷い込んだ気分だ。

 総走行距離95キロ。実際の距離に加え、古代マルケサスへと時も遡ったような1日だった。

海と山、2つの絶景を
思う存分満喫できるロッジ


大海原と大渓谷、2つの眺めが左右に広がる絶景インフィニティプール。

リゾート前には立派なバニヤンツリーが。

 アツオナの町から約4キロ、丘の上に立つこの島唯一のリゾートホテルが、ホテル・ハナケエ・パール・ロッジだ。メイン棟にあるインフィニティプールの片側からは大海原、もう一方からはギザギザとした山脈が続く絶景を望める。


海を一望できるレストラン。最果ての島とは思えないほど、メニューが充実。

地元の工芸品が飾られたバンガロー。

 木瓦のヒュッテ風バンガローはわずか14棟。ウッドをふんだんに使い、絵画やカービングなどマルケサスの職人による工芸品で飾られている。設備はシンプルながら、テラスをしつらえ、居心地がいい。


プレミアムオーシャンビューのテラスからの眺め。

 おすすめは「プレミアムオーシャンビュー」。テラスやデスク、ベッドから、テメティウ山と太平洋が織りなす自然絵巻を満喫できる。

 壮大な光景を前にすると、ゴーギャンやブレルの創作への衝動が、自分の中にも芽生えてくる気がする。

Hotel Hanakee Pearl Lodge
(ホテル・ハナケエ・パール・ロッジ)

所在地 BP 80 - 98 741 Atuona - French Polynesia
電話番号 040-927-587
https://www.hotelhanakee.com/

【取材協力】
タヒチ観光局

https://tahititourisme.jp/ja-jp/

エア・タヒチ・ヌイ

https://www.airtahitinui.com/jp-ja


古関千恵子 (こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること1/4世紀あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

文・撮影=古関千恵子



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